臓器創生研究
損傷等で失われた臓器を体外で作製し移植する臓器創生研究とその臨床応用は、ヒト表皮幹細胞培養による培養表皮シートの作製 (Rheinwald and Green, Cell 1975)と熱傷患者への移植 (O’Connor et al, Lancet 1981)に始まります。この培養表皮シートは、現在、広範囲の重度熱傷の治療に幅広く応用されているだけでなく、遺伝子導入技術と組み合わせて先天性皮膚疾患の遺伝子治療にも利用されています。当分野では、この培養表皮シートを用いた再生医療および遺伝子治療を、より効率化・高度化するために臨床講座とも連携し研究を行っています。また、ヒト間葉系幹細胞から肝細胞を分化誘導してシート状にした肝疾患治療用細胞シートについての研究も進めており、肝不全などへの治療応用を目指しています。
間葉系幹細胞から作製した肝疾患治療用細胞シートによる再生医療 (Itaba et al, Sci Rep 2015)
老化再生研究
加齢や生活習慣病等によって、我々の体の様々な器官の機能低下が起こります。当分野では、加齢による皮膚再生能力の低下の仕組みや皮膚の恒常性維持の仕組み、生活習慣病等による肝臓や腎臓の線維化、さらには血管内皮の機能低下の解明を通じて、加齢や生活習慣病等によって引き起こされる器官の機能低下を予防する、さらには機能を再生させる方法の開発を目指しています。特に、細胞増殖因子や細胞外環境による表皮幹細胞の機能制御、低分子化合物やエクソソームによる肝臓や腎臓の線維化抑制、尿酸塩結晶に代表されるDAMPによる血管内皮細胞へのダメージに着目して、研究を行っています。
加齢に伴うヒト表皮幹細胞でのEGFR-TIMP1-COL17A1経路の活性低下によって皮膚再生能力が低下する (Nanba et al, J Cell Biol 2021)
がん治療研究
組織の恒常性を担う組織幹細胞と同様に、がん組織内にも「がん」を維持するがん幹細胞が存在すると考えられています。がん幹細胞は、薬剤や放射線などに耐性を持ち、治療後の再発など関与しています。当分野では、肝細胞がんを対象として、がん幹細胞がいかにがん免疫を回避するかのメカニズムの解明を進めています。また、これまで我々が行ってきた幹細胞研究や再生医療研究を、がん治療に応用すべく、様々ながん種におけるがん幹細胞の性状解析や、がん治療による組織障害からの再生治療法の開発にも取り組んでいます。