Last update: 14 Jan 2025
2024年1月1日の能登半島地震と2024年9月の奥能登豪雨によって能登半島の里山沿岸部は甚大な被害を受けました。現地では今もなお懸命な復興活動が続けられています。私たちは研究者として何か能登半島のためにできることがないのか、ずっと活動方法を模索しています。現在は、広島大学以外の教育・研究機関の専門家やSNSを通じて知り合えた愛好家の方々にご協力をいただきながら、能登半島の沿岸部やこれまで調査が手薄になっていた里山の水圏・土壌圏生物の調査を始めています。私たちにできることは限られていますが、希少な動植物の発見や様々な生息環境における群集生態・個体群動態の定量・定性的なデータの蓄積、そして得られた成果の迅速な公表を活動の柱としています。定点における定期的/継続的な調査から得られるデータセットは能登半島の自然が震災や豪雨災害からどのように回復していくのかを推し量る重要な知見になりますが、全ての調査をずっと続けるのは人手/資金面から見ても現実的ではありません。私たちは様々な専門家の方に能登半島調査に一緒に参加していただいて、独自の視点で調査された1度きりの調査データも同じく重要であると考えています。ある日ある時間だけの瞬間(スナップショット)的な野外データでもそれを蓄積し、公表し、世界中の研究者が利用できる状態で共有できるシステムを作ることも重要だと認識しています。以下に現在の取り組みをご紹介いたしますので、既存プロジェクトに新しく参加されたい場合や全く別の調査方法をご一緒にできるアイデアがありましたらご連絡いただけますと幸いです。
研究活動から能登半島の情報を発信し続け、能登半島の魅力を伝え続けられる活動にしていきます。多くの方のご参加をよろしくお願い申し上げます。(文責:豊田賢治)
進行中のプロジェクト
1 能登海洋深層水のプランクトン動態調査(2022年11月〜)
能登町にある海洋深層水施設「あくあす能登」では水深300 m地点までホースを伸ばし、海底から約1.0 m地点で採水をして地上まで汲み上げています。この施設には採水時に混ざったゴミや微小生物を食い止めるフィルター部分があり、そこに溜まった生物を2022年11月から2023年12月までは2週間に一度、震災以降は能登半島調査のたびに採集させていただいて、10Lの海水中の生物種やその数を調べています。深海の生物群集も震災の影響を受けているのでしょうか?
共同研究者/機関
あくあす能登、米田 壮汰(海洋生物環境研究所)、能丸 恵理子(能登里海教育研究所)
2 能登半島沿岸における藻場生物群集の季節動態調査(2023年1月〜)
能登町の沿岸域に繁茂する海藻/海草類の葉上動物群集の組成やそれらの季節動態、そしてそれらの震災前後の影響を調べています。特に金沢大学能登臨海実験施設の目の前の九十九湾を調査定点としているスキューバ潜水調査では、2023 年1-12月の各季節(1-3月:春, 4-6月:夏, 7-9月:秋, 10-12月:冬)に実施した調査データを"震災前"と扱うことができるため、現在も季節ごとの調査を継続しています。
共同研究者
角田 啓斗(金沢大/広島大:修士1年)、小木曽 正造(金沢大能登臨海)、鷹巣 真琳(金沢大能登臨海)、東出 幸真(のと海洋ふれあいセンター)、小玉 将史(鹿児島大)、岩崎 藍子(東北大)
3 能登半島沿岸における海浜植物調査(2024年12月〜)
能登半島の砂浜海岸の植物調査を実施しています。特定の種を追跡している調査もありますが、現在特に注目しているのが震災後に海底隆起によって海側に広がった新しい砂浜海岸の植物相です。震災によって輪島市では最大4 mの海底隆起が生じており、震災前に形成されていた海浜植物相が海辺から遠ざかってしまい、海辺の近くに新しい海浜植物相がこれから形成されると考えられます。このように新しい砂浜環境にどのようにして海浜植物が侵入し、遷移し、安定化していくのかを追跡しようと考えています。
共同研究者
谷内口 孝治(能登里海教育研究所)、友井 拓実(東京理科大)、有村 拓真(広島大:学部3年)、角田 啓斗(金沢大/広島大:修士1年)、東出 幸真(のと海洋ふれあいセンター)
4 能登半島沿岸における海浜無脊椎動物調査(2024年12月〜)
震災によって輪島市では最大4 mの海底隆起が生じており、震災前から砂浜が大きく広がった海岸があります。そのような砂浜環境で生物の遷移を追跡したいと取り組んでいます。砂浜には昆虫類、甲殻類、ムカデ類、ダニ類など多くの陸生種が生息していますので、多くの専門家/愛好家の方の協力をいただいています。
共同研究者
有村 拓真(広島大:学部3年)、角田 啓斗(金沢大/広島大:修士1年)、桑原 涼輔(広島大:修士1年)、上西 太朗(京都大:博士2年)、中屋 直哉(東京理科大:学部4年)、渡部 晃平(石川ふれあい昆虫館)、二橋 亮(産業技術総合研究所)、小野田 裕介(一般)、丸山 宗利(九州大)、小川 浩太(九州大)、花井 真希人(九州大:修士1年)、田作 勇人(北海道大:修士1年)
5 能登半島における土壌性無脊椎動物調査(2024年12月〜)
豪雨災害では沿岸域だけでなく、里山環境も甚大な被害が生じました。そこで私たちは能登半島の里山の生態系をモニタリングするために、まずはどのような生物がいるのか調査を始めました。
共同研究者
角田 啓斗(金沢大/広島大:修士1年)、桒原 良輔(一般)、桑原 涼輔(広島大:修士1年)、有村拓真(広島大:学部3年)、上西 太朗(京都大:博士2年)、中屋 直哉(東京理科大:学部4年)、小野田 裕介(一般)
研究調査の活動費
ミキモト海洋生態研究助成基金研究助成(代表:豊田). 能登半島地震が沿岸域の海藻生態群集に与えた影響の調査. JPY800,000. 2024.9.1 – 2026.3
タカラ・ハーモニストファンド助成事業(代表:豊田). 砂浜海岸の動植物に能登半島地震が与えた影響評価. JPY500,000. 2024.7.1 – 2026.3
能登半島調査に関連する成果(2022~)
*As a corresponding author *Students from 2024 April~
査読付き原著論文
1. Kenji Toyota, Takehiro Ito, kaito Morishima, Retsu Hanazaki, Tsuyoshi Ohira. Sacculina-induced morphological feminization in the grapsid crab, Pachygrapsus crassipes. Zoological Science, 40: 367–374 (2023).
査読付き和文誌
1. 【報文】角田啓斗, 新井優太郎, 宮川信一, 豊田賢治. 石川県能登町からニホンジネズミCrocidura dsinezumiの初記録. 石川県立自然史資料館研究報告. accepted
2. 【報文】角田啓斗, 角 知子, 渡部晃平, 豊田賢治. 奥能登における水生昆虫3種の記録. 石川県立自然史資料館研究報告. accepted
3. 【報文】角田啓斗, 新井優太郎, 豊田賢治. ゴイシガニ Palapedia integra の形態変異個体の発見. のと海洋ふれあいセンター研究報告, 29: 1–6 (2024).
4. 【原著論文】豊田賢治, 角田啓斗. トゲツノヤドカリとイソギンチャク類との共生生態. 日本海域研究, 55:25–31 (2024).
5. 【原著論文】豊田賢治, 角田啓斗. 佐渡島,能登半島,隠岐島の砂浜海岸におけるスナガニ Ocypode stimpsoni の分布調査と形態比較. 日本海域研究, 55:13–23 (2024).
6. 【原著論文】豊田賢治, 高橋知生, 近藤裕介, 松原創, 鈴木信雄. 形態計測手法によるアカテガニ甲羅形態の雌雄差と地域差の検出. 日本海域研究, 55: 1–11 (2024).
7. 【報文】角田啓斗, 新田理人, 豊田賢治. 石川県からクロヘリメジロザメ(メジロザメ目:メジロザメ科)の初記録 . 水生動物. AA2023-22 (2023).