活動方針

◆ はじめに: 「景観」の再生から「かかわり」の再生へ

世界規模の急速な環境破壊や生物多様性の低下を背景に、1970年代にはじまった日本の自然保護の運動は、「自然再生」へと更なる飛躍を見せています。この潮流はビオトープ運動、そしてよりスケールの大きな自然再生事業へと展開し、持続可能で健全な人間社会を含む生態系のあり方を模索する試みが各地で本格化しています。

(※例えば、環境省・自然再生ネットワークに現在実施されている各地の事業が公開されています)

しかし、こうした自然再生に向けた社会機運の高まりとは裏腹に、その取り組みが必ずしも順風満帆な地域ばかりとはいえません。それは、私たちの生活と自然との「かかわり」が希薄になったまま、「昔懐かしい里山」や「原生自然」のイメージを自然再生の目標に漠然と当てはめているからだと私たちは考えています。自然を持続的に維持するためには、人間と自然との「かかわり」(すなわち、社会-生態システム)を持続可能な形で維持する必要があります。例えば、一言で「里山」といっても、自然と人間との「かかわり」は各時代で異なり、社会とのつながりも含めた生態系を構成する要素の「有機的なつながり」、そしてその結果私たちが目にする「景観」も異なっていたはずです。つまり、例え一時的にかつての自然の景観を再生できたとしても、現代の社会・経済・文化がそれを維持するために求められる「かかわり(社会-生態システム)」と適合しなければ、それを持続的に維持していくことは困難であると考えられます。そのため、自然・社会・文化は非定常的(動的)なものであることを再認識し、将来を見据えたより俯瞰的な姿勢から、自然再生の方向性を模索することが今の私たちに求められているのかもしれません。

写真:東北各地で見られるブナ林再生事業

◆ 研究会の目指すところ: 「新しい自然」の模索と再生

私たちは「新しい自然」を模索し、それを再生させることを目標としています。「新しい自然」とは、現代の私たち、そして将来の人々が無理なく持続的に付き合える、人間社会と調和可能なものであるべきと考えます。

これは、かつての望ましい自然への回帰を意味する「自然再生」とは、一見異なるように思えるかもしれません。しかし、たとえ、昭和30年代のイメージに近似した自然を今に復元させたとしても、それは「かつての自然」への回帰ではなく、紛れもなく現代の「新しい自然(=自然と社会の新しい有機的つながり)」の創造と捉えるべきでしょう。

この共同研究会では、

(1)多くの市民が望ましいと考える自然の姿(自然と人間のかかわり)の模索をサポートする科学的知識の生産

(2)そうした自然再生事業を具体化するために求められる総合的な技術の開発

の2つを目標としています。また、これらの目標達成を促進させることを目的とした議論の場を積極的に提供していきます。

写真:シカ食害発生地における再生事業