2. 研究内容

寸法は小さくても、人々や産業にとって大きな存在となるデバイスやシステムを創出する!

 私は、機能性材料の形成技術、微細加工技術、微小電気機械システム(MEMS)、電子回路の技術をコア技術として組み合わせ、小さくて賢いデバイスやシステムを創造することを目指しております。主なターゲットは、我々の生活がより便利で安全になるツールや、低侵襲医療や在宅医療に貢献する機器です。上記のデバイスやシステムを創造するための、材料合成・成膜・微細加工・実装などの要素技術、装置作りなども行っております。

 学術論文を書くことだけを目指すのでなく,社会や産業に具体的に役に立つ成果を出せるよう,学生の皆様と共に研究活動を進めていきたいと思っております。

研究プロジェクトの例① 胃酸で充電する「飲む体温計」thermopill🄬

 ヘルスケアのためにエレクトロニクスを『着る』時代は既に到来しつつありますが,デバイスを『飲む』ことで,体の中から健康状態をチェックできる社会の実現が期待されております。それに向け「飲み込み(可食)型デバイスの研究開発を行っております。

 その第一弾のデバイスとして、胃酸で充電する「飲む体温計」を開発しています。これを服用すれば、手軽に深部体温やそのリズム(体内時計)を連続測定できます。応用は、熱中症の防止や、睡眠障害などの診断や治療支援を有力と考えています。

 欧米にて実用化されている飲み込み型体温計は,人体に有害であるボタン電池を電源としていたため,原則として医師の管理化で利用せざるを得ません。また,使用されている電極や電解液の環境負荷は非常に大きく,そのままトイレに流して使い捨てるというわけにもいきません。さらに,一般的な電池はいわば生ものであり,保存がききません。電池のサイズも大きいためにデバイスも大きくなりやすく,これによって閉塞などのリスクも高まってしまいます。本研究で開発しているセンサは,生体適合性の高電極で構成された胃酸電池によって駆動しますので、これらの問題はありません。さらに斬新な実装技術を開発したことで、小型化と低コスト化を達成します

 我々は,飲み込みセンサが日常的に使われることが当たり前となる社会の実現を目指しております。次の展開として、ガスセンサなどを組み込み、腸内環境を気軽に測定できるデバイスも検討しています。

公益財団法人JKA 2022年度安全で安価な「飲む体温計」および受信システムの開発補助事業の概略はこちら

研究プロジェクトの例 超高性能圧電薄膜の成膜技術の開発

  MEMS(微小電気機械システム)にとって,電気エネルギー機械エネルギーと変換する『トランスデューサ』は、最も重要な要素の一つです。トランスデューサは多くの種類がありますが、その中でも、電圧を印可するとひずみが発生する圧電薄膜近年注目されております。圧電薄膜の性能が上がれば,圧電MEMSデバイスを高性能化できます。あるいは,従来と同じ性能を実現するのに,より小さい大きさで済み,結果として低コスト化できます。つまり、産業的競争力のが高まります

 我々は,圧電ジャイロ(角速度)センサや,超音波トラ ンスデューサ,振動型環境発電デバイスへの応用に最適な「理想配向PZT系単結晶薄膜」を,MEMSの母材であるSi基板上に形成することに成功しました(図1)。この圧電トランスデューサ薄膜の性能指数(圧電定数の自乗を誘電率で除した値)は,一般的な圧電多結晶膜の5倍以上に達します。これは,Si基板上の圧電薄膜では世界最高の値であり(図2),もしこの圧電薄膜を用いれば,従来のものと比較して圧倒的に高性能,もしくは小型の圧電MEMSデバイスを創出できることを意味します。

 自動車やロボットの自動運転・制御等の分野において,小型で安価,かつ高性能なジャイロセンサや超音波トランスデューサが求められております。また,ワイヤレスセンサネットワーク用デバイスでは,高出力の振動型環境発電デバイスが求められております。我々の 開発したこの超高性能圧電単結晶薄膜を用いることで,それらのニーズに応えた圧電デバイス群を創出できると考えております。

 産学連携を通じて、この成膜技術の企業への技術移転にも成功しました。現在は、デバイスの試作へと進んでおります。また、強みである単結晶薄膜の成膜技術を活かし、応用に合わせた特性を持つ、様々なMEMS用圧電薄膜を研究しております。

研究プロジェクトの例 微小超音波デバイスを用いた生体認証システムや低侵襲医療機器の開発

 上記の圧電薄膜を用いた高性能な超音波MEMSデバイスと、その応用を開発しています。

 一つは、指紋と血管情報を用いた高セキュアな生体認証システムです。指紋センサは小型かつ安価で使い勝手もよいため、スマフォやポータブルデバイスなどの様々なところに実装されています。しかし、指紋センサは、実はそれほど安全ではありません。写真などから簡単に偽造することが可能です。

 そこで、我々の研究グループは、指紋だけではなく、その皮下の血管情報も超音波にて読み取る「指紋・血管複合生体認証システム」を提案しております(図1)。皮下の血管は、撮像したり、偽物を作製することは極めて難しいです。ゆえに、この生体認証システムは、既存の指紋センサよりも安全です。また、同じ超音波デバイスを用いて焦点距離を変えるだけで指紋と血管を取得できれば、用意するデバイスは一つで済むので、小型化と低コスト化を両立できます。

 この構想を実現するためのポイントの一つは「高性能かつ小さな超音波デバイスを面状に並べること」ですが、これは上述の超高性能圧電薄膜とMEMS技術を用いることで達成します。図2は、試作した圧電超音波MEMSデバイスの二次元アレイです。小さな素子が太鼓のように振動して、超音波を送受信します。現在は、デバイスを駆動したり、超音波の情報処理を行うシステムを構築しています。

 また、小さくて高性能な超音波MEMSデバイスを創るのが我々のコア技術の一つであり、これを用いた低侵襲医療機器の開発も探索しています。