01.思い出話

▼木の実の仕事の始まりから成り立ち

今も記憶に強く残る昭和24~25年の頃。遊ぶおもちゃなどはほとんど持たない私たち島の子どもたちが寄り集まって遊べることといったら。

一本の椿、また沢山の椿の木。冬の陽だまりに咲く真っ赤な椿の花の下で、子どもたちはムシロを敷き、ゴザを敷いて、椿の花を拾っては、小笹にいくつもいくつもさしてつないで首飾りを作ったり、また、10cmほどに斜めに切った小笹で椿の蜜を吸ったり。そんなことをして遊んだものである。

時々、馬に乗った真っ黒いとても大きな外国の兵隊さんたちが、この様を珍しがって写真に撮ったり、銀紙にくるまれた見たこともない大きなチョコレートをくれたりもした。

椿の花と遊ぶこと。今の私の仕事と生活を、ほのかに暗示していたような気もするが…

中学校2年生くらいのとき、東京から転校してきた同級生の、多分兄だろうが、椿の実でいくらかのアクセサリーを作ることを始めて、その手伝いなどをよくしたものである。

手で磨いて、手回しのドリルで穴を開けるというものだが、面白かったので勉強などをほったらかしで熱中したものだ。

一個仕上げて1円もらったので、それをためておいて近所のお店で今川焼きを沢山かって友達と食べてしまったのも懐かしい。

昭和33年春。中学校を卒業して、同級の男子と私、計3名で東京都台東区谷中の製菓製造所に住み込みで就職した。何もかも手作業の仕事だったので、極めて短期間に製菓・洋菓子・生菓子作りなどを一応こなすことが出来るようになったと思う。手仕事というものがさらに面白く感じられた時期ということである。

昭和37年春に島に帰った。そしてある時、多分小さい頃から導かれていた見えない糸に引かれて、大島間伏にある、その頃仕事を始めて間もない、椿の実と木の実を加工して製品を作るという作業所で働くことにした。

今までの手作業から機械化に移る重要な時期であったと思う。ある程度仕事を任されていたので様々な工夫ができた。とても面白いものであった。

折からの急激に増加した観光のお客様が、珍しさもあってこぞって買い求めてくれたので、いくら作っても間に合わないという有り様であった。

自分で製造・小売をする業者も、三原山山頂に15、6軒。出帆港ではアンコさん姿の売り子さんが7、8名ほど。それぞれに人だかりができるほどの人気だった。また、ホテル・売店などもコーナーを作り、お客さんの対応にあたったものである。

その頃加工していた木の実。椿の実ソテツの実桜桃カンラン松の実イズサの実ギンナンクルミ姫クルミ桃の種梅の種オリーブの実ナツメの実、など。また、ビンロー樹の実油ヤシボダイジュなどの珍しい実もあった。

その作業所の売り文句は『世界の木の実のアクセサリー』であり、すべて艶出し仕上げによるものだった。また、ある製品加工にプラスチックを使用し、組み合わせて今までにない製品も生まれた。

製品は次のようなものだった。キーホルダー根付けネックレス各種ブローチ・ペンダント髪飾り帯止め羽織紐イヤリングネクタイピンカフスボタン指輪、など。

使用する道具。組み立て式3連ドリルバッファーグラインダー、など。簡単なものであった。

都合で4年後、この作業所を退所することになる。

木の実、特に椿の実は、日光や熱に対してひび割れしやすいという欠点があった。この欠点を補うため、表面加工をどうするかという事が考えられるようになる。

一番簡単な方法は、おそらくその表面を塗料で覆うという事だと考えられたので、様々な工夫が試みられた。

ラッカー、エナメル、ウレタンなど、木の実に対してはそれぞれ一長一短であるようだった。

そして最も使いやすく、皮膜も丈夫で艶もよく、価格もまあまあという合成ウルシ(商品名:カシュー)が良いということになり、こぞって使用し今に至っている。

このカシューの使い方だが、何しろ木の実は小さいので、一つずつ手に持って塗るわけにはいかず、そこで竹串にさして、容器に入れたカシューにドブ漬けして塗ることにした。ムラもなくキレイに塗ることができた。

塗った木の実は乾かさなければならない。ある人はその竹串に刺した塗り実をワラを束ねた床に刺し、ある人は発泡スチロールに刺しと、それぞれ工夫したものだが、結局、浅い箱に海辺の砂を入れたものが一番ということになって、今では小さい実も、ある程度大きなソテツの実も、この方法で乾燥させている。

この方法で被膜された木の実、特に椿の実は、つや出し磨きのものと比べてその風合いはいくらか損なわれるが、手入れさえ良ければ長い間の使用に耐えて楽しんでもらうことができる。

椿まつりの会場などでは、三十年も昔の椿の実の根付けなどをお客様に見せられ、ビックリしてしまうこともあった。そして、この仕事をつくづくやりがいのある仕事だなぁと思う。

伊豆大島・椿の花工房

渡邊昇次郎

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