金融市場における制度は,安全・安心な取引機会の提供や複数市場との協調が求められるため,精緻な設計が必要とされています.しかし,現実の市場制度は市場関係者の経験によって構築されたものが多く,理論的裏付けが乏しいという側面があり,その実効性が疑わしいものも含まれています.そうした市場制度のひとつにサーキットブレーカー(CB)があります.CBは急激な価格変動が発生した際に,市場取引を一時的に停止させる措置のことです.CBは自由取引を阻害するという考えから発動されないようにルール変更が行われてきましたが,2008年のリーマンショック以降,CB制度の導入と発動条件を緩和するためのルール改正が世界中の取引所において急速に行われ,CBの発動が経済社会全体に与える影響も拡大しつつあります.
私はこれまでコンピュータシミュレーションによってCBが市場に与える影響を定量的に分析してきました.これは制度の補完性や制度間関係の調整という共時的な視点からの制度設計への貢献といえます.一方で制度は動的に変化するので,現実の制度設計のためには時空間を広げて制度形成の過程を通時的な視点から分析することが求められてきましたが,その点について先行研究では十分に行われてきませんでした.本研究では市場安定化に寄与させるべき現実的なCBの制度設計について有効な指針を提示するために,1)制度効果(コンピュータシミュレーション),2)制度変遷(文献調査,インタビュー調査),3)価値意識(アンケート調査)の3つの枠組みに沿ってサーキットブレーカー制度の分析を行っています.
2010年頃までの世界各国のサーキットブレーカーのルールについてはこちらをご覧ください.