STEM分野における障害者の参加
2017年7月12日
2017年7月12日
科学技術分野の労働人口においてダイバーシティが十分でない.主に米国において,科学技術分野におけるマイノリティ,特に障害者の参画に関わる現状と,参加拡大のために行われている.課題解決のためには,障害者の学習・仕事を支援する環境や支援技術,現在科学技術分野で働く障害者との交流,障害者が科学技術分野で働く場合の合理的配慮を支援する予算制度などが議論されている.ここでは具体的な事例をいくつか紹介する.
将来的に市場が拡大する重要分野として,Science, Technology, Engineering & Mathematics(STEM)分野が注目されている.2012年,アメリカ大統領科学技術諮問委員会による報告書において,今後10年間でSTEM分野の労働力を100万人増員することが提案されている.アメリカでは,オバマ政権の主導により,年間30億ドルの予算で,STEM分野を推進するさまざまな政策が取り組まれてきた.
ダイバーシティに富んだ集団はクリエイティブであり(Hong and Page 2004),適切な分析を行うクリティカル・シンキングの能力や(Pascarella et al. 2014),課題解決能力に秀でている(Page 2007).STEM分野を強化する手段として,多様性を増大することは,将来の労働人口の拡大・総合的な競争力に貢献するとされている(National Academy of Sciences, National Academy of Engineering 2011; Ferrini-Mundy 2013; Valantine and Collins 2015).
現状,マイノリティのSTEM分野への参加は限られている.例えば,女性その他のマイノリティが全人口に占める割合は70%であるが,STEM分野の学位取得者に占める割合は45%である(Olson 2012).アメリカにおいて,全人口に占めるヒスパニック,アフリカンアメリカン,アメリカ先住民,アラスカ原住民の割合は26%であるが,STEM分野の雇用・STEM分野の学位取得者に占める割合はそれぞれ,9%・11%である (National Science Board 2012).1990年代より,ダイバーシティを構成する重要な要素として,障害者の参加が注目されてきている(Tsui 2007).障害をもって暮らす人は,それぞれの困難に取り組むユニークな経験を持ち,STEM分野への障害者の参加も,多様性の拡大に効果的であると考えられている.
障害者のSTEM分野への参加が議論されるもう一つの理由は,障害者の社会へのアクセシビリティの認知にある.アメリカでは,Americans with Disabilities Act of 1990(ADA),日本では2016年に施行された障害者差別解消法によって,教育機関は,障害による差別をすることなく,教育に要する合理的な配慮を適切に行わなければならないとされる.これは,参加の少ないSTEM分野について同様である.科学技術もどのような人に対してもアクセッシブルであるべきであり,例えば障害による物理的・心理的な困難が,子どもが将来サイエンスを目指さない理由であってはならない.障害をもつ人間の選択肢を増やし,障害があるという理由で,科学をあきらめることのないようにしなければならない.
米国では人工のおよそ19%,5670万人が何らかの障害者をもち,このうち障害学生は650万人といわれている.国の方針として,10年間でSTEM分野の博士号取得者を100万人増やす,2020年までにSTEM分野の教員を10万人増やすという項目に加えに加え,女性・障害者などマイノリティのSTEMへの参加を促進するという目標も掲げられている(Tsui 2007).障害者の雇用率は低い.この傾向は,STEM分野において特に顕著である(Council 2013).これまでに,障害者の自立生活の支援,障害を持つ学生の学習の支援が取り組まれている.しかし,障害をもつ人材の就労に対する支援,特にSTEM分野の支援は遅れている.
介入のポイント: NSFのレポートによると,学部ではSTEM分野における障害学生の占める割合は約11%であるが,大学院教育ではこの割合が大幅に減少し,博士号取得者では約1%になる(NSF 2015).STEM分野のキャリアの早い段階に,人材のボトルネックが存在する(図1).この部分に介入することで,STEM分野への障害者の参加を進めることができると考えられている.高校から大学への進学,就労にいたる変化のプロセスへの介入が効果的であるとする様々なエビデンスが報告されている.例えば,学生のうちに研究活動を本格的に体験した場合,STEM分野に進む確率が高くなる(Subotnik et al. 2011).
図1.障害者の科学技術分野参画における介入のポイント
高等教育が,障害者のSTEM参加のボトルネックであると述べた.これは高等教育において,手を動かし実地で学習するハンズオンのトレーニングのための教育プログラムが,アクセシブルでないことが原因であるといわれている.また教員側の,障害学生に対するトレーニング経験の不足などもあげられる.ここでは,障害者の科学技術分野(以下STEM)におけるキャリアについて,諸外国で行われている取り組みを紹介する.高等教育機関における障害学生への一般的な支援については,日本学生支援機構による対応の事例集などが発表されている(日本学生支援機構 2015).STEM分野の活動を支援する取り組みは日本ではあまり実施されていない.
生命科学・工学など,実践的な経験やハンズオンの技能,フィールドワークなどの実地訓練(Hands-on training)が要求されるジオサイエンス・生命科学などの分野において(Carey and Sale 1994; Duerstock 2006),障害学生の割合は低い(NSF 2015).こうした実践的学習においては,多くのバリアが存在し,高等教育における障害者の学習は,アコモデーションとアクセッシビリティに大きく依存することになる.こうした分野でも多様性の確保のため,さまざまなチャレンジが行われている.この過程で,障害者のさまざまな面をサポートする支援技術 (Assistive technology) が重要な役割を果たす.ノートテイキング,読みあげなど,学部の授業などで用いられる支援技術については多くの総説がある.ここでは大学院の講義や研究で利用される支援技術を紹介する.
自身も四肢麻痺の障害者である米国パデュー大学アクセシブルサイエンス研究所(The Institute of Accessible Science, IAS; Purdue University)のブラッド・ドゥアストック(Bradley Duerstock)博士は,特に生命科学分野に着目し,実験室におけるアクセシビリティの課題に取り組んでいる.生命科学分野におけるコミュニティレベルでの取り組みは他分野と比較して遅れている.生命科学において要求されるハンズオンの技能はより複雑であるためと考えられる.博士は,障害者を含めてどのような人にも使える実験室Accessible Biomedical Immersion Laboratory (ABIL)を構築している(図2).3Dインタラクティブ・シミュレーション環境が準備されており,オンラインでその様子を自由に見ることが可能である(リンク). 動線を意図した設備を配置し,例えば研究室において使用頻度の高い,作業を行うベンチ(実験テーブル)・ドラフト・シンクが小さな三角形を描くように配置する(キッチンデザインの基本で,ワークトライアングルと呼ばれる),高さをボタンでシンプルに調節できるラボベンチ,車椅子でも使いやすいシンクを取り入れた環境を構築している.見過ごされがちな,緊急用シャワー・洗眼器などのバリアフリー化も対応されている.
顕微鏡は,生命科学などにおける主要な実験技術のひとつである.博士は,上肢障害の場合でも,コンピュータを介して間接的に操作することができる「アクセッシブル顕微鏡」の開発を進めている(Mansoor et al. 2010).サンプルを顕微鏡にセットする点以外は,すべてコンピュータで操作することが可能になっている(リンク).視覚障害者の利用を想定し,視覚情報を変換し,触覚や聴覚で代替し,形状を把握する顕微鏡の開発も行っている(Zhang et al. 2017).また上肢の細かな動きを学習し,ジェスチャーで外部機器を制御する支援技術の開発等も進行中である(Jiang et al. 2016).研究遂行における支援技術の導入については,NSFなどから追加予算が利用できる(FASED等,項目4に後述).
図2.アクセッシブルラボの様子.
パデュー大学で構築されている研究室.A.簡単に高さを調節できる実験テーブル.B.車いすでも利用できるシンク.蛇口は手前側に配置されており,弱い力でも操作できる.下側は,車いすが正面からアクセスできるように空間が設けられている.C.自律移動型ロボット.カメラ(Kinnect)で周囲を認識する.D.ロボットアーム付の電動車いす.E.自動制御が可能な顕微鏡.参照元:Purdue University, Institute for Accessible Science Laboratory: https://engineering.purdue.edu/DuerstockIAS/research/facilities
以下,ジオサイエンスの分野でよりインクルーシブな教育プログラムに取り組んでいる事例を紹介する.ジオサイエンスにおける障害者の割合は,全分野の中で最も少ない(NSF 2015).アメリカジオサイエンス研究所(American Geosciences Institute,NPO法人)等の団体は,ジオサイエンス教育について,障害者などを含めたインクルーシブなアプローチを提案しているが,具体的にどのように障害学生に対して,ジオサイエンスの教育に取り組むべきかに関して未だにコンセンサスを得られていない.さらに,ジオサイエンス分野において,伝統的な方法論に加えて,要求されるスキルが増えている.
現在,ジオサイエンス分野では,インクルーシブな教育環境による学部教育のプログラムが検討されている(Bennett and Lamb 2016).多様性の確保に加え,ジオサイエンス分野では,今後10年間のうち,現役の労働人口の約半数が退職する見込みであり,人材不足に直面している(Gonzales and Keane 2009).地球物理学・惑星地質学などの分野のポジションでは,多くの場合,アコモデーションはあまり必要なく,多くの学生にとってアクセッシブルであり,障害学生に推奨されている.
カナダ・バンクーバーで開催された米国地質学会の2014年大会(http://www.theiagd.org/2014-field-course/)では,アクセッシビリティを考慮したフィールドワークのコースが実施され,18人の障害学生(何らかの運動・感覚・認知障害)を含む30人が参加した.このコースは,多様な障害に対するアコモデーションを考慮し,さらに参加者同士のフィールドワークにおける障害を把握できるようにデザインされた.触知地図(Tactile map),音声補助装置(audio field guides)などのテクノロジーも利用した.また開催地の検討や,移動時のバスの利用など,物理的なバリアの低減にも努めた.障害学生が配慮を伴うアクセシッブルなフィールドコースと通常のコースを体験した際の感想の例などが(Gilley et al. 2015)中のBox. 1に記載されている.
ハード・ソフトの面に加え,多くの記事で強調されている点が,障害を持ち,STEM分野で活躍する人間との接触することの重要性である(Ferrini-Mundy 2013; Bumpus 2015).例えば,アフリカンアメリカンを対象とした調査では,教授と一緒に研究をする機会を経験することで,STEM分野にとどまる割合が増加することが報告されている(Gregerman et al. 1998).STEM分野就労のロールモデルとなる科学者との交流や,同じ分野や境遇に身を置く,似た困難を持つピア同士の交流などさまざまな機会が用意されている(障害者の会議,難病者のWEBサイト).
STEM Career Showcase for Students with Disabilities
(https://livestream.com/naturalsciences/stemcareer)
年一回ノースカロライナ自然科学博物館で行われるSTEM分野のキャリアを目指す障害学生(6-12年生)を対象とした教育イベント.障害をもち,STEM分野で働くロールモデルとなる講演者に会う機会を積極的に提供する.招待講演のあと,障害をもつ現役のSTEM分野の就労者のブレークアウトセッションが行われる.ホームページで各年の記録動画が公開されている.ここで参加者は,発展するSTEM分野の見通し,高校から大学への移行,アカデミアで成功するためのスキルに加え,障害に関わるスティグマの克服法,どのように自身の強みを突き止め,育てていくことができるのか,等についても相談することができる.障害者のSTEM就労のロジスティクスに加え,学生にインスピレーションを与え,参加を励ます意味合いもあるようである.
2016年の招待講演者のジョシュ・ミ―リー(Josh Miele)は全盲の科学者であり,初等教育はすべてブラインドの状態で過ごした.元々惑星科学に興味があり,ポスドクの際にインターンシップでNASAに勤める機会があった.そこでいかなる場合においても,情報や設備にアクセスする新しいデバイスやソフトウェアを独自に開発する必要があった.障害を持つ人は,他の人には存在しない課題について,自ら解決する必要に迫られることがある.こうした問題解決能力(Problem solving)の重要性は,常に新しい課題に挑戦する STEM分野でも同じである.これは,未知の課題に対して新しいものを自身で作る能力,足りない部分は他の人に事情を説明し,協力を依頼できる能力を含む.彼は,元々惑星物理学に強い興味を持っていたが,障害がある人も,障害のない人と同じことができるべきであるという信念のもとに,現在は視覚障害者のためのさまざまなツール開発に従事している.
・Facebookページ:https://www.facebook.com/events/182939355210803/
・2013年度会議の動画:http://video.sas.com/detail/videos/analytics-in-action/video/3231506048001/stem-career-showcase-for-students-with-disabilities
・2015年度会議の動画:https://www.youtube.com/watch?v=7mn-8xQOVpU
・ノースカロライナ自然科学博物館(North Carolina Museum of Natural Sciences):http://naturalsciences.org/
アカデミアにおいて,障害をもつ研究者の情報交換のネットワークも作られている.
Chronically Academic
(https://chronicallyacademic.org/index.php/en/)
障害や慢性疾患をもつ人々の,アカデミアにおけるアクセシビリティを拡大するためのピア・ネットワークで,相互支援・リソースの共有を行う.ヨーロッパの研究教育機関に在籍する,若手研究者を中心に構成されている.課題として,頻繁な転勤,長時間労働,競争的環境などを挙げている.またさまざまな質問をメールで問い合わせることができる.こちらは,一般には公開されない.障害学生のアカデミックポジション進出へのアドバイス,研究室の選び方,病気とフィールドワークの体験など,当事者のさまざまな経験談に基づくアドバイスが掲載されている.
・Facebookページ:https://www.facebook.com/Chronicallyacademic/
・Twitter:https://twitter.com/chron_ac
PhDisabled
(https://phdisabled.wordpress.com/)
障害・慢性疾患をもつ大学院生の体験談・アドバイスの共有.参加者が記事を投稿するブログのような形式.例えば,学会などでアクセシビリティの情報を記載することを提案されている.事例として,障害者のための政府機関の助成への応募プロセス,障害者の高等教育応募のプロセスの知識化の取り組み,学会などのイベント会場へのアクセシビリティの情報についてなど,課題の提案や,改善へのアクションを呼びかける投稿も多い.
・Twitter:https://twitter.com/PhDisabled
#DiversityJC
(https://diversityjc.wordpress.com/)
STEM分野におけるダイバーシティに関わる記事を紹介するブログ(障害にかぎらずダイバーシティ全般を扱う).2014年に開始.ディスカッションは,毎月の第3金曜日のアメリカ東部標準時間の2時から,Twitter上で行われる.これまで取り上げられたトピックと要約がオンラインで公開されている.2017年6月には,STEM分野における障害者の話題が取り上げられ,障害を科学技術分野におけるダイバーシティとして,どのように扱うか,障害者と健常者のSTEM分野のキャリアは,何がどのように異なるのか,所属機関や周囲の人にどういう形で働きかけができるのか,などの議論がなされている.
・Twitter:https://twitter.com/Diversity_JC
アメリカ・ヨーロッパにおいて,障害をもつ研究者を対象とした研究助成制度がある.ここでは,科学技術分野の障害者を対象とした奨学金・研究助成・表彰の例について説明する.アメリカでは,国立衛生研究所(National Institute of Health, NIH),国立科学財団(National Science Foundation, NSF),エネルギー省(DOE),航空宇宙局(NASA),農務省(USDA),国防総省(DOD)などが研究助成を行っている. NIHは約312億ドルで生物・医学分野を,NSFは約52億ドルで医学以外の科学技術分野を対象とする.NSFはアメリカは,科学技術を振興する目的で1950年に設立され,NIHが担当する医学分野を除く科学技術分野に対する支援を行っている.NIHと異なり基本的に研究所を持たない.NSFは長くSTEM分野におけるマイノリティの参加の拡大に取り組んできた(Ferrini-Mundy 2013).NIH, NSFともにダイバーシティを改善するための複数のプログラムをもち,ここでは特に障害に関わるものを紹介する.
ダイバーシティ推進を支援するプログラムの一覧:NIH, “Diversity in Extramural Programs”; NSF, “Broadening Participation Portofolio”
Facilitation Awards for Scientists and Engineers with Disabilities (FASED)(国立科学財団)
NSFは助成にあたり,障害者の研究や実習におけるバリアについて特別な支援機器・環境を提供することで改善し,障害者に科学技術分野のキャリアを奨励している.支援機器助成のプログラムは,通常の競争的資金獲得のプロポーザルと合わせて取り扱われ,助成金はグラントの一部あるいはNSF Awardの補助として提供される.また既に獲得しているグラントの追加予算として申請することもできる.
助成の対象 障害をもつ研究主宰者,上級専門職,大学院生および学部生.
助成の使途 助成は特別な機器の購入・機器の改良・行う研究に必要なサービスに限る.日常生活などにおいて,一般的に用いられる設備や支援は対象としない.例えば,特定の機器を操作するための補綴装具,音声を視覚的な信号に変換する装置,特定の場所へのアクセスや移動手段,プロジェクトに関連する特殊技能を有する読み上げ者・翻訳者,プロジェクト実施するために必要な装置,などが認められている.通常の車椅子,補綴装具,補聴器,テレタイプ端末,スロープ・エレベーターなど,プロジェクトでの利用に限定しないものはみとめられない.
申請 障害者が研究を遂行するための特別な機器や支援に関しては,プロジェクト予算の中に含む.評価のため,予算の各項目について,その性質・目的・特別な支援の必要性について説明する.
Research Supplements to Promote Diversity in Health-Related Research (国立衛生研究所)
アメリカ国立衛生研究所(National Institute of Health,NIH)は,アメリカ保健福祉省公衆衛生局の下にある医学研究機関である.NIHと疾病予防管理センター (Centers for Disease and Prevention, CDC) による,保健医療の研究分野におけるダイバーシティの拡大を支援する追加予算(administrative supplements).NSFのFASEDに相当する.これは,障害を負った研究者が,プロジェクトを継続するために,障害に対する配慮を用意するためにも使用できる.この追加予算は,元々のプロジェクトの関わる範囲に限る.追加予算の額は,キャリアのステージに応じて,5000から100,000ドル程度.
The Foundation for Science and Disability (FSD) (科学障害財団)
(http://www.stemd.org/)
1975年創設のNPO法人.障害を持つ科学者,学生の支援を目指す.アカデミア・政府機関・産業界における障害者の割合を増やすために,雇用の促進にも取り組む.サイエンスやマネジメントのポジションにおいても障害のない人材と競争するための啓蒙活動を行い,障害者の教育プログラムの支援を行う.FSDの会員は,AAASをはじめ様々な機関において,障害のある科学者・学生に対するコンサルティングを行っている.学生への支援として,The Student Award Program of FSDを設けている.学部生・大学院生を対象に,年1名1000ドルを研究プロジェクトに支援.年会費:一般25ドル,学生5ドル.会長は,自身も両下肢に障害をもつ米国農務省の実験昆虫学者 Richard Mankin博士.
・Facebook: https://www.facebook.com/groups/360413492800/
・Linkedin: https://www.linkedin.com/groups/4116054/profile
Research in Disabilities Education (RDE) (国立科学財団)
STEM分野におけるマイノリティの参加を支援するDivision of Human Resource Development(HRD)の一部で,STEM分野の高等教育における障害者の参加を拡大することを目的とする.障害者がSTEM分野に触れる機会を設けること,STEM分野における障害者の能力と必要性に対する認識を広めること,STEM分野の媒体のアクセッシビリティを高めること等を通じ,障害者のSTEM分野の教育を支援する.
The NIH Director's ARRA Funded Pathfinder Award to Promote Diversity in the Scientific Workforce (DP4) (RFA-OD-10-013)(国立衛生学研究所)
Recovery Act Limited Competition: The NIH Director’s ARRA Funded Pathfinder Award to Promote Diversity in the Scientific Workforce (DP4)
NIHが2010年に実施した,生物医学・行動科学におけるダイバーシティを促進する独創的な科学者に助成するプログラム(3年間で計200万ドル).2009年のアメリカ復興・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act of 2009,ARRA)の一部として実施された.選定の例として,パデュー大学のドュアストック博士 (2.1.に紹介) の「生物医学分野のアクセシブルラボおよびWEBベースインタラクティブコミュニティ」,ロックフェラー大学ルイス博士の「生物医学のマイノリティ研究者へのメンタリングがキャリア選択の柔軟性に与える効果の検討」,スタンフォード大学ヴァレンティン博士による「アカデミアにおける固定観念の低減が女性ファカルティの就労継続に与える影響」などがある.
研究者の障害者採用(フランス王立科学研究所)
http://jobs.inra.fr/en/Headlines/News/2016-INRA-campaign-to-recruit-researchers-with-disabilities
ここ数年,国立フランス農学研究所(INRA)では,研究職を含めた幅広い職種について,障害者の採用枠があり,雇用を奨励している.日常生活から研究上において,さまざまな支援を受けることができる.フランスでは,障害者の科学技術人材を獲得する初めての事例である.研究所のWEBサイトでは,いくつかの事例が紹介されている.分子生物学のウェットな実験技術を用いてウイルス学を研究していたある研究員の事例では,髄膜炎による後遺症でクラッチを使うようになり,これまで通りの実験を行うことができなくなった.その後INRAに移りオフィス環境を整え,大学での3週間の所内教育プログラム・所外での15日間の実地・1,2ヶ月の系統解析プラグラムのトレーニングを経て,現在はウイルスの新規検出手法や,ウイルスゲノムのシークエンシングに取り組んでいる.
Entry Point! Program (企業インターン)
(https://www.aaas.org/entrypoint/about)
STEM分野のアクセシビリティを高め,この分野に参加する障害者を増やす目的で,米国科学振興協会(American Association for the Advancement of Science)は,NASAやIBMなど,500以上の一般企業・政府機関とパートナーシップをとり,障害学生に10-12週間のインターンシップを行うプログラム「Entry Point!」を1996年から実施している(AAAS 2002).パートナーとなる企業は,給与,支援機器などのアコモデーションを提供する.プログラムでは,コミュニケーションスキルも重視される.2015年現在,580名の卒業生のうち,8割以上がSTEM分野の職についており(Ham 2015),科学教育プログラムとしては驚異的な数字である.障害学生がそうでない学生と同様の貢献を果たすことができることを示している.
・体験談 What does it take to mentor a biomedical student with a disability? May 22, 2017 National Research Mentoring Network
・ NASA Summer 2017 Internships for Students with Disabilities:インターンシップは,全米の各施設ですることができる(学部生10週間,高校生6週間,16歳以上,GPA3.0 以上)
・DOIT,” Perspectives of STEM Students with Disabilities: Our Journeys, Communities, & Big Ideas”
http://www.washington.edu/doit/book/export/html/6936 STEM分野を選択した障害学生の経験の紹介.
日本では少子高齢化が急速に進行している.平成27年の国勢調査では,初めて人口の減少が報告された.わが国において,革新的イノベーション創出に向けて多様な英知を活かしていくためにも,女性や障害者を含むダイバーシティの確保が重要な課題となっている.
・支援技術:アクセッシビリティを考慮した研究室環境の導入例はなく,ハンズオン技能の実習・フィールドワークなど障害者を対象としたトレーニングは国内で行われていない.アメリカでは設計のガイドラインが非公式であるが複数提案されている(University of Washington 2012; Council of Ontario Universities 2014).こうしたガイドラインに沿ったモデルラボを国内に設置し,他に興味を持つステークホルダーに見学ができるような環境を準備してはどうか.
・交流:日本では,障害をもつ科学者のコミュニティは存在しない.障害を持つ科学者が,障害学生と接する機会は,積極的には設けられていない.STEM分野で働く障害者が,障害学生にアドバイスできるようなコミュニティは有益ではないか.
・制度:国内でも障害科学などに支援する予算は存在するが,障害を負った科学者の個々の研究を支援する枠組みはない(表1).案として,NSF・NIHの追加予算(Administrative Supplements)に相当する制度を採り入れる.あるいは,被配分機関における競争的資金の間接経費を障害の合理的配慮のための経費に優先的に充当できるようにしてはどうか.また国内では,ダイバーシティに関する対応は,ほとんどがマイノリティとしての女性を対象にしたプログラムであるが,障害者を含めた他のマイノリティに対する話題は少ない.
表1.日米のダイバーシティ関連の予算.
*1, National Science Foundation, Broadening Participation Portfolio
https://www.nsf.gov/od/broadeningparticipation/bp_portfolio_dynamic.jsp
*2, National Institutes of Health, Diversity in Extramural Programs
https://extramural-diversity.nih.gov/guidedata/data
*3, Facilitation Awards for Scientists and Engineers with Disabilities
https://www.nsf.gov/mobile/funding/pgm_summ.jsp?pims_id=5516
*4, Research Supplements to Promote Diversity in Health-Related Research
障害を含むダイバーシティ全般を対象としたプログラム.
https://grants.nih.gov/grants/guide/pa-files/PA-16-288.html
*5, ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ・女性研究者研究活動支援事業
http://www.jst.go.jp/shincho/josei_shien/
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