健全な科学技術の発展のためには、様々な属性の方々が研究に参加することが重要です。しかし、現在、科学技術に携わる研究者には偏りが見られ、女性、特定の人種、障害のある方々など、参加の少ないマイノリティが存在しているのが現状です。科学における多様性の価値は、様々な機関に認知されています [1]。 国連の障害者権利条約では、締約国は障害のある方々が平等に教育・就労の機会を享受することを確保すると記載されています。国内でも、障害者差別解消法の施行や、合理的配慮に対する認識の高まりに伴い、大学に進学される障害学生の数は増加傾向にありますが、理工系分野への参加は依然として少ない状況です。多くの学生が理工系分野への参加を諦めてしまう要因として、実験室の物理的なバリアや実験における合理的配慮の不足に加え、実験する機会が得られないことも理工系分野を選択しない理由となっています [2]。
米国では、科学技術機会均等法により、マイノリティの方々のSTEM分野における教育・就労を支援する制度や文化が醸成され、参加が進んでいます [3]。米国で取り組まれている支援プログラムでは、同じマイノリティ属性の学生を集め、集中的な研究体験を提供することで、STEM分野のキャリアを選択する確率が高まるというエビデンスが明らかにされており、マイノリティの方々を対象とした科学実習が政策として推進されています [4]。一方、わが国では、障害のある高校生・大学生を対象とした科学実習などの研究体験の提供は行われていないのが現状です。申請者らの研究グループでは、これまでに実験室のバリアフリー化や、合理的配慮の検討支援システムの研究を進めてまいりました。本提案では、アクセシブルな実験室環境と実験に関わる合理的配慮を手配することで、障害のある生徒の方々に科学の体験を提供いたします(図1)。実習を重ねることで、環境整備と合理的配慮に関する知識を整理し、障害のある方々の科学実習を行う際のガイドラインを作成してまいります。
[1] US National Science Foundation. “Broadening Participation in STEM”, Major Initiative.
[2] Sukhai & Mohler (2016) Creating a culture of accessibility in the sciences. Elsevier.
[3] (地球科学) American Geosciences Institute (2015) Consensus Statement Regarding Access and Inclusion of Individuals Living with Disabilities in the Geosciences; (化学) American Chemical Society (2015) Teaching Chemistry to Students with Disabilities.
[4] NSF INCLUDES Coordination Hub (2020) Inclusivity and Accessibility for Individuals with Disabilities in STEM.