learningflight

ワスプ・ラーニングフライト Wasp learning flight(図1,h)

地中に巣をつくる虫が目標までの道のりを覚える際に示す行動.

軌跡の特徴

  • 巣を中心とした円弧(arcと表現される)を描く.

  • 転向(counterturn)を周期的に繰り返し,arcの径は徐々に増大する.

  • arcの間,常に視線が巣の方向を向いている(角度がきつくなると頸をかたむける).

  • arc径の拡大速度はほぼ一定であるが,円周方向の速度は増大する.

機能

  • 風景を記憶する(巣や餌場など)

  • 周期的な転向(ジグザグ)は,何度も見ることにより,記憶の精度をあげるためではないか.

  • 徐々にarcの径が増大するのは,連続的なサンプリングによって,手掛かりの順序(道のり)を得るためではないか.

想定されるメカニズム

  • 視野の中に常に目標が位置しており,目標が視野の端に来る,という視覚刺激が転向を誘導すると考えらえる.

  • arc径の拡大速度をコントロールするために,オプティカルフローなど,何らかの視覚情報を参照しているのではないか.

  • スナップショットか,動画(連続したイメージ)を処理しているのか,地中に巣がある場合,周囲の複数の明瞭な視覚特徴をランドマークとして用いていることが多い,多くの研究者は,ワスプが連続したイメージからオプティカルフローを用いることにより,複数のランドマークの位置関係を把握していると考えている(ワスプ特異的,ミツバチなど地上に巣をつくる虫は該当せず?).

詳細:

ラーニングフライトは,穴を掘って営巣する寄生蜂Cercerisで最初の記述があります(Zeil et al. 1996).最初に巣を飛び立つ際,巣に振り向いてから飛翔を開始します.それから振り返り,何度もターンを繰り返し円弧(arc,アーク)を描いて遠ざかります(図A).この際,アークの半径は徐々に大きくなりますが,おおむね巣を中心とした弧を描きます.アーク型の飛行をしている際,水平移動に近い飛行をしながら,おおむね巣の方向を向いて飛んでいます(図B,体軸角度と巣の方角の差分(β-θ)がおおむね180度に保たれている).飛行中のほとんどは巣から30-70度の範囲をモニタしており(巣は視野の端に位置),新たなアークの開始の際に飲み,視野の中心でゴール(この寄生蜂では巣が見えないのでランドマークを当面のゴールとしています)を捉えていることになります(図B上側縦線,ランドマークに対する角度ゼロの時刻).ゴールを視野に捉えてから約400ms後に反転のアークを開始します.この間飛行の体軸・巣に対する角度の時間変化は,ゴールからの距離によらず,ほぼ一定になっています.角速度は変わりませんが,巣からの距離が離れるに連れ,対地速度は速くなっています.

異なる種で見られる高度に保存されたパターンは,この飛行によって,ランドマークの位置関係を把握する用途で,運動視差を得るためのオプティカルフローの生成に寄与すると考えられています.特に,ワスプのアークの最後のフェーズでみられるはずの視野は,異なるアーク間で共通しており,この飛行パターンの重要性が伺われます.

図.寄生蜂Cerceris rybyensisのラーニングフライトの構造.(A)頭(●)と体軸(棒)を示す.ハチはおおむね巣の方角を向き,水平に移動する飛行の割合が多い. 巣(☆),ランドマーク(○),巣から異なる方角にいる場合でも時折同じ方向を向く(➤).θ:体軸の角度,β:巣に対する角度.Φn:視野における巣のアジマス(方位角).Φl:視野におけるランドマークのアジマス.縦線は,ハチがランドマークを視野の中心でとらえた時刻.

  • Zeil J, Kelber A, Voss R (1996) Structure and function of learning flights in ground-nesting bees and wasps. J Exp Biol 199:245-252.

  • Collett, T. S. (1995). Making learning easy: the acquisition of visual information during the orientation flights of social wasps. Journal of Comparative Physiology A: Neuroethology, Sensory, Neural, and Behavioral Physiology, 177(6), 737-747.

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