meeting20110309

生存圏シンポジウム(波動分科会)「宇宙プラズマと航空宇宙工学との接点」 プログラム(敬称略)

日 時:3月9日(水)午後 ー 3月10日(木)午前

場 所:京都大学宇治地区 生存圏研究所木質ホール

連絡先:九州大学大学院総合理工学研究院、羽田 亨

3月9日(水)

1:00 - 1:10 趣旨説明(主催者)

1:10 - 2:40 招待講演1(90分)

臼井英之(神戸大)、宇宙機‐プラズマ相互作用解析へのプラズマ粒子シミュレーション利用

2:50 - 3:50 招待講演2(60分)

鷹尾祥典 (京大工)、マイクロ波と高周波を用いたマイクロプラズマ推進

4:00 - 5:30 招待講演3(90分)*キャンセルとなりました

篠原俊二郎(東京農工大工)、ヘリコン高密度プラズマ科学の進展:基礎から応用へ

3月10日(木)

9:00 - 9:30 (30分)

羽田亨(九大総理工)、無電極プラズマ加速のモデリング

9:30 - 10:00(30分)

大塚史子(九大総理工)、ポンデロモーティブ力による粒子加速:次世代無電極推進機関の開発に向けて

10:10 - 11:40 招待講演4(90分)

小嶋浩嗣(京大生存圏)、宇宙空間におけるプラズマ波動観測技術

11:40 - 12:00 クロージング(主催者)

概要:多くのSGEPSS会員にとって、航空宇宙工学に関わるトピックスは、比較的なじみの薄いものかも知れません。

しかし、次世代科学衛星のためのプラズマ・電磁場計測、はやぶさで脚光をあびた電気推進技術など、プラズマが深く

関わるいくつかの分野では、最近SGEPSS学会でもかなりの講演が見られ、また関連他学会とSGEPSS会員との相互

交流もすすんでいるように思われます。このような状況を受け、航空宇宙工学と宇宙プラズマの接点部分について基礎

的なことがらを学び、具体的なトピックスに対していま何が問題になっているのか、我々がどのような貢献ができる

のか、深く考える機会にしたいと思います。

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招待講演のアブストラクト

●招待講演1:宇宙機‐プラズマ相互作用解析へのプラズマ粒子シミュレーション利用

臼井英之(神戸大学大学院システム情報学研究科計算科学専攻)

近年、宇宙天気、宇宙環境というキーワードをもとに、SGEPSSと航空宇宙学会系の交流が盛んになりつつある。

SGEPSSでは、元来、宇宙を広大なプラズマ実験場としてとらえ、そこで生起する自然現象を観測や数値シミュレー

ション等の様々な手段で定量的に理解することを目標としている。一方、航空宇宙学会では、太陽系宇宙を人類の活動

の場としてとらえ、その環境を利用するための工学的工夫やシステム開発を主たる目的としている。どちらの学会で

も、宇宙科学という言葉を使うが、そのニュアンスは違う。SGEPSSでは、space physicsに近い科学であるが、航空

宇宙学会では、space technologyに近い。

プラズマを例に挙げれば、宇宙工学では、イオンエンジン等のプラズマを使った推進器開発において、衛星機器内での

プラズマ生成、その加速、プラズマによる内壁の影響等、境界に囲まれた空間でのプラズマ研究が重要となる。なぜな

ら、これらがエンジン効率や推進性能、システム耐久性に直結するからである。要するに、機械が動くか動かないか、

壊れるか壊れないか、という観点が非常に重要である。そのため、設計、開発に役立つ実データを出力として出す必要

がある。

一方、SGEPSSが扱うプラズマは、境界のない広大な宇宙におけるプラズマ非線形現象そのものであり、研究者は、

まるでミステリーの謎解きのように、その素過程そのものの解明に興味を持つ。なぜそういう現象が起こるのか、

一体宇宙では何が起こってるんだ、ということを明らかにしたいと思う。そのため、観測される現象の実データ自体は

謎を解明する手掛かりでしかない。

このように研究の目的が違う二つのコミュニティが、互いに手を取り合って、相乗効果による成果をどのように出して

いけるか、という点は、まさに我々が直面している課題である。本講演では、イオンエンジンや磁気セイル等の先端的

推進システムに関連したプラズマ粒子シミュレーション研究を例にとり、航空宇宙工学からの見方、また、プラズマ科

学からの見方を紹介しつつ、この直面している課題について皆さんと一緒に議論したいと思う。

●招待講演2:マイクロ波と高周波を用いたマイクロプラズマ推進

鷹尾 祥典 (京都大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻)

近年,大学でも運用可能な数10 kg級の超小型人工衛星が盛んに開発されており,これらの人工衛星をよりアクティブ

に運用するため超小型推進システム(マイクロスラスタ)の開発が求められている.しかし,極めて限られた重量,

容積,電力等の制約のため,超小型人工衛星に適したマイクロスラスタの実現は容易なものではなく,その開発は他の

要素と比較して遅れている.これまでに著者はマイクロ波励起プラズマ源を用いた電熱加速型のマイクロスラスタを

提案し,実験と数値解析の両面から研究開発を行ってきた.この電熱加速型マイクロスラスタはマイクロプラズマ源と

マイクロノズルの2つの部分から構成され,マイクロプラズマ源は,内径約 2 mm長さ約10 mmの円筒型誘電体容器と

それを覆う金属の同軸構造をなす.この容器内部に推進剤ガスを数10 kPa程度の圧力で導入し,同軸ケーブルを介して

マイクロ波を供給することでプラズマを生成する.プラズマ源で生成された高温高圧のプラズマは,容器の端に取り付

けられたマイクロノズルで膨張し,空力的に加速されて推力を得る.電力10 W以下において得られた推進性能は,推

力~1 mN,比推力~100 s,推進効率~10%である.その一方で,高比推力なマイクロスラスタとして,高周波プラズマ

源を用いたマイクロイオンスラスタを提案し,数値解析による研究も進めている.このような系の極めて小さいマイク

ロスラスタの開発においては,観測行為そのものが大きな擾乱を与えたり,空間分布を高精度に測定するのが困難で

あったり等,実験的手法だけでは得られる情報に限りがあるため,数値シミュレーションが強力な解析ツールとなり

得る.本研究では,イオンスラスタのような低ガス圧力下でのプラズマ解析に適している Particle-in-Cell / Monte Carlo

Collisions (PIC/MCC) 法を用いた粒子モデルの構築を行い,その計算結果について報告する.

●招待講演3:ヘリコン高密度プラズマ科学の進展:基礎から応用へ

篠原俊二郎(東京農工大学大学院工学研究院先端機械システム部門)

プラズマ科学の進展は目覚ましく、それを支えるプラズマ源は重要である。ヘリコン波を用いたヘリコンプラズマ源

では、幅広い制御パラメータで容易に高電離 (数10%以上)・高密度(10^13 cm-3 以上) のプラズマが得られる。その

ため基礎プラズマ、プロセスプラズマ、核融合、ガスレーザー、宇宙プラズマモデリング、プラズマ加速/推進等、種々

のプラズマ源として広く用いられている。ここでヘリコン波は境界のあるホイッスラー波と言われ、宇宙プラズマで

良く知られている。しかし有用である一方ヘリコンプラズマ研究において、ヘリコン波の興味深い波動現象と高効率

生成の物理機構の更なる理解が求められ、ヘリコン源の特性を生かした応用研究はまだ途上にある。

本講演では、ヘリコン波の性質から始め、我々の研究を中心とした特徴あるヘリコンプラズマ源開発とその種々の活用

について述べる。次にその応用として現在進めているプラズマ推進(ロケット)計画について紹介し、今後の広域プラ

ズマ科学への展開についても触れる。なお、宇宙プラズマとプラズマ基礎科学や航空宇宙工学との接点が、この講演に

より今後の相互研究に資する機会となる事を期待したい。

(講演の目次) 広域ヘリコン高密度プラズマ科学の進展

1. ヘリコン波とは?

プラズマ源の重要性 cf. 高周波プラズマ生成法

ヘリコン波の分散関係

励起アンテナと応用研究例

2. ヘリコン波プラズマ源の開発と応用:我々の研究例

構造形成、密度とプラズマ流分布制御

3. 大容量高密度ヘリコンプラズマ:短軸長化、高ベータ

4 .ヘリコンプラズマによる推進:無電極

基盤研究(S)-新プラズマ推進法

5. 今後の展望

●招待講演4:宇宙空間におけるプラズマ波動観測技術

小嶋 浩嗣(京都大学生存圏研究所)

科学衛星やロケットに搭載されるプラズマ波動観測器は、センサーおよび受信部からなる。センサーは真空中における

アンテナとは違った特性をもつ電界アンテナの設計が重要である。それは、プラズマ波動に対しては、長いワイヤアン

テナでさえ、ショートアンテナとみなされ、更に、プラズマは分散性媒質であるので、インピーダンス整合のとれた形

での利用はできないからである。また、受信部では、微弱なプラズマ波動を計測するため、低雑音化されたエレクトロ

ニクスの塊となる。いくつかの観測器デザインが存在するが、それぞれ一長一短がある。本当はいくつかの形式の受信

機の組み合わせで成立した観測器がbestであるが、衛星というresourceに大きな制限がある条件下では、なかなか難し

い。しかし、我々は、ここ6年の間に、プラズマ波動の観測器部分を、数mm角のチップにおさめてしまう技術の開発

に取り組んでいる。本講演では、最新の我々の装置開発の結果も踏まえつつ、プラズマ波動観測の仕組みやそれを支え

る技術について講演を行う。