あなたがある大学にポストを得ようとして応募書類を出すとします。または、興味のある研究室のポスドク募集に応募するとします。応募書類を受け取った側は、あなたの書類を見てあなたに興味を持ったとしてまず何をするでしょうか?相手は、あなたをより深く知るために、あなたに連絡を取る前に、自分の知り合いを通じてあなた評判を調べるかもしれません。あなたの名前をgoogleの検索項目に入れるかもしれません。
逆に、あなたの側からは相手に自分を知ってもらうための工夫をしていますか?ある研究室では研究室のメンバーに個人のホームページを作ることを”義務”としているところがあるようです。あなたも、自分を相手に知ってもらうために、何か始めませんか?目立ちたがり屋の人も、そうでない人も自分なりのホームページを作って、相手に自分を知ってもらう努力を始めませんか?これは、毎日実験室にこもって結果を出す事と同じように大切なことなんじゃないでしょうか?
これを利用してみませんか?
ResearcherID
Web of Scienceと同期されており,Web of Scienceのデータが更新される
ResearcherID の被引用回数や引用指標も自動的に更新されるという優れものです.自分の業績管理という意味でも便利なツールだと思いますし,引用回数で自分の業績のインパクトを判断することもできます.また総引用回数や,h-index で自分の研究キャリアの位置づけを客観的に知ることもできます.日本ローカルではないので,世界に向けて自分の研究キャリアをアピールできる,便利なツールだと思います.
http://science.thomsonreuters.jp/products/rid/
Researchmap
http://common.riken.jp/asi/article/20110427_researchmap1.html
業績履歴:論文だけでなく、講演も細かく記録を残していますか?
自分の興味がある転出先が見つかった場合、応募書類を作成します。応募書類に書かなければならない情報の一つは、自分の研究業績です。しかし、研究業績は研究論文だけではありません。学会のポスター発表、小さな研究会での口頭発表など記録もこまめに記録に残し、必要に応じてすべてを業績欄に記入できるようにしておきましょう。
教育歴:一般公開、サマーキャンプ、高校生見学会などを教育歴として記録しましょう
大学などにポストを見つけようとする時、教育歴が非常に重視されると言われています。当然のことですが大学は教育機関です。採用側は、きちんと学生の教育ができるかを非常に心配しているようです。もしあなたが研究機関に所属しているのであれば、所属機関で開催される一般公開、サマーキャンプ、高校 生見学会などを教育歴としてきちんと残し、提出することは無駄ではないのかと考えています。大学の助教として学生実習や授業をこなしている研究者と比べると見劣りするかもしれませんが、空欄よりはましなはずです。きちんとした統計データはありませんが、アメリカではポスドクが教育を優先して行う大学に職を得るために、短期のサマーキャンプや集中講義などを担当し教育歴を積み上げるそうです。一年間の授業を担当することをためらってしまう人でも、このような 短期であれば参加することが出来るかもしれません。所属機関が主催する一般公開、サマーキャンプ、高校生見学会に積極的に関わったなら、このような活動を業績と同様に記録を残して提出するのが良いのではないかと考えています。この際、所属機関の広報課からサマーキャンプなどでの生徒達の感想などをもらって参考資料として提出しても良いのではないかと考えています。
論文が出たら、、ではなく出そうになったら知り合いのところでセミナーをさせてもらいましょう
あなたはこの先、どこかの研究機関大学などに応募するかもしれません。応募先が、以前訪問したことがあるある場所だったり、そこの研究者と顔見知り だったら、面接に呼ばれる可能性、面接でのやりとりをより有利に進めることが出来るのではないでしょうか?自分の研究がある程度形になってきたら、知り合いなどを通じてセミナーを開かせてもらいましょう。
相手に求職中であることをはっきり伝えましょう。公募が出ていなくても一度ポストが空いていないか尋ねてみましょう。
日本人は奥ゆかしいことを美徳とする面があります。しかし、自分が求職中であることを積極的に相手に伝えるは大切な事です。自分の状況を相手に伝えることによって相手に真剣に考えてもらうことが出来ます。もしかすると、その人の知り合いでよい人を探しているという情報がもらえる かもしれません。自分が職を必要としていることをきちんと伝えましょう。また、公募が出ていなくとも興味がある研究室があったらメールで問い合わせをして みましょう。
自分の分野で研究会を主催してみましょう。
ある研究機関の理事長は、「我々現代の研究者は100年前の研究者とは違う状況におかれている」と言います。確かに、一人黙々と独自の 研究を続けていてある日突然大きなブレイクスルーを成し遂げる研究者は確かに現代でも存在するでしょう。しかし、我々にとっての研究は、生活の糧を得る職業という面も持っていますし、パトロンがついて研究をしていた時代とは確かに立場がかなり違うと言えます。
研究は一人では出来ません。研究会をオーガナイズしようとすると、自分の分野を俯瞰する必要があります。実はこのような試みは、大変大きな意味を持っていると考えられます。自分の分野の研究者がカバーする範囲を組織化することで、その研究者社会の中で自分はどの一角を担うのか?を考える、つまり、分野の中で必要とされる研究者であるということは、職を得るために非常に大切な条件です。もし、分野全体の中で抜けられては困るような重要な一角を担う技術や専門分野があれば職が得られる可能性は格段に高まります。さらに、もう一つこれはもっと重要なことですが、研究分野を俯瞰した時に、分野がぶつかっている原理的、技術的な限界が見えてくるはずです。これによって、この先、自分の分野がどのように発展していくのかを考えることができます。この限界を超えるために必要な何かを自分が提供できるならば、さらに分野の人たちが自分を重要な存在として認識してくれるはずです。
学会でのするどい質問に感嘆した事はありませんか?時々、発表者よりもを質問をした人の方が気になったりすることもあります。学会での質問は、自分をアピールする絶好のチャンスです。でも、一つ注意点、質問には相手のロジックを打ち砕いてしまうような破壊的なものと、そのロジックの穴をふまえてその問題を解決する示唆を与えるような建設的な質問があると思います。聴衆は後者の方を高く評価するのではないでしょうか?
学会の懇親会は、出会いの場です。話をしたことの無い人と話しましょう。興味のある研究者がいたらだれかに紹介してもらいましょう。
学会の懇親会に参加していますか?参加しても、同じ研究室、昔の研究室の仲間と話す同窓会になっていませんか?懇親会は、人とのコネク ション作りをする社交の場です。懇親会費はそのための必要経費と割り切って参加してみましょう。興味のある研究者がいたら自分の研究室の所属長や自分の知り合いを通してその人に引き合わせてもらいましょう。また、学会の種類にもよるようですが、企業の開発を担当している方も大学とのコネクション作りのため に参加される方がいるようです。懇親会を人的ネットワークを広げる場にしましょう。
あなたの今の専門分野にもう一つの別の専門分野を付け加えませんか?異分野交流会は研究者同士の出会いの場です。
ある科学者会議の答申の中に、ダブルスタンダード専門分野と言う単語が出てきます。それは、各分野で科学がどんどん進歩してきて垣根が なくなってきている。分野同士の融合により大きな進歩が期待できるなどの理由で、国の予算配分でも盛んに共同研究を推進しようとする動きが見えます。科学者会議の答申の注目すべき点は、各一人一人の研究者がこれまでのように自分の専門分野を一つだけでは無く複数持ち、個人がカバーする研究分野を広げることにより、より広い分野間での共同研究、より深い次元での共同研究を実現させようとすることをねらいとしています。我々が出来ることは、自分の得意とする研究分野以外にもうひとつ、自分が勝負できる研究分野を持つための具体的な方策を考えることではないでしょうか?明日から出来ることの一つに、まず異分野の友達を一人つくる。異分野をまず覗き見ることではないでしょうか?その意味で、異分野交流の機会があったら、1%の時間の中で参加してみましょう。
日本学術会議が2011年に行った「生命系における博士研究者(ポスドク)ならびに任期制研究員および任期制助手等の現状と課題」という資料
www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t135-1.pdf
によると、任期制研究員の年齢構成は40歳までの人で約90%が占められていています。この結果を参考にして、ひとまず博士を取得して約10年の間に、任期制研究員から他のポストに移行することを目標にしてみることを考えてみましょう。これ以降ポスドクを続けていくのが不可能と言っている訳では決してありません。私たちは特別な人は別にして「10年を単位として」先を見通す事に慣れていません。ですから、まず10年を漫然と眺めていても実感が持てないので、これを釘って考えてみることにしましょう。たとえば、3年から5年で一つの場所でポスドクをしたとして、2カ所から3カ所でポスドクとして働くことが出来ます(セカンド、サードポスドク)。40歳以降の時間も同じように3年から5年で一つの場所で働く事が考えると、先が見通しやすくなると思われます。
ポスドクが後半になるほど、将来の選択肢が広くなるような研究室でポスドクをすることを考えるというアイデアはどうでしょうか?基礎研究一本やりでセカンドポスドクまでを過ごした方は、もう少し産業界とのつながりの強い研究室や応用研究に重きを置いた研究にシフトするのはどうでしょうか?応用研究をしっかりと行っている研究室は一概には言えませんが潤沢な資金があるところも少なくありません。潤沢な資金があるところは研究員をたくさん雇う事も出来ます。また、これまでの視点を変えることにより思わぬブレイクスルーに当たるかもしれません。そこから、自分の目指す研究を再構築してもよいはずです。さらに、興味のある企業/業界がある場合、その企業、業界が必要とする専門技術、知識を習得できることを前提として次のポスドク先を選ぶことも大事な要素になってくるはずです。さらに、研究機関の所属している方は、教育職として居場所を見つけられる可能性がある大学なども積極的に選択にいれる必要があると思われます。つまり、次のポスドク先を決める時に、その 次のポジションへの布石とする飛び石作戦です。飛び石作戦には、目線を変え新たな切り口を拓く可能性がありますし、その先の将来設計を前提している点で精神的なよりどころとなってくれるのではないでしょうか。
しかし、基礎研究と応用研究の垣根は非常に大きく、同じ分野の研究だとしても違う世界の研究のように受け取ってしまう事があります。産業界が求める研究開発とはどのようなものか?「基礎研究原理主義」からすこしだけ抜け出して、気にしておくことも大事かもしれません。
ポスドク先選び;どんな組み合わせが可能か?
分野を俯瞰する。得意分野、専門分野を複数持つ、という視点から考えると、同じ分野の似たテーマで複数回ポスドクをする事が、単に一つの選択肢にすぎない事に気づきます。つまり、例としては、ファーストポスドクで分子生物学で実験をテーマに研究をした後、次のポスドク先で計算機科学をやってみる、有機合成をやってみる、応用物理的な研究室で光学をやってみる、工学で機械設計、制御理論をやってみる。などです。
これからの生物学を進めていくには、きわめて広い知識、技術が必要とされると言われています。しかし、実際には一人で2つ3つの分野に深い知識を持っている研究者の数は限られています。このような広い知識、技術を思うがままに操り生命科学研究にあたることができれば、いまよりもっと自由に自分の頭に描いた新しい生物学を実現することができるのではないでしょうか?
日本にある公的な研究機関の全体集合を眺めてみる。
「科学に国境はないが、科学者には祖国がある」と言った方がいます。海外で水を得た魚のように活躍されている方も多くおられますが、祖国で生活したいというのは我々の根源的な一つの望みと言えるかもしれません。私たちは、自分の知り合いの研究者が所属する研究所、自分の参加する学会に出てくる研究所しか知りません。日本にある公的な研究所の全体集合を眺めてみましょう。
http://scienceportal.jp/
時間を見つけてこれら全ての研究所のホームページを覗いてみてください。自分の分野の技術知識、専門技術と組み合わせたら大きな発展が期待できる研究室がみつかるかもしれません。いや、アイデアだけなら一つ二つが出せなければ自分の分野の研究を深く理解しているとは言えないのではないでしょうか?
研究所には管轄省庁があり、文科系、農水系、厚労系、経産系それぞれが管轄する研究所は独自の研究所の使命だけでなく、雇用形態などに独自の文化があるようです。日本にある研究所で、我々の研究分野と非常に近いにも関わらず、ほとんど交流が無い場合が見つかりませんか?ほとんど交流がないことは、我々の知識や技術が相手にとって非常に魅力的に映る場合があるはずです。是非、省庁の垣根を越えて、就職先を探してみてください。