このページでは、フリーソフトのInkscapeを使って折り図を描く場合に注意すべきこと、特に折紙探偵団コンベンション折り図集(以下折り図集)に投稿する際に注意すべき事項をまとめています。
日本折紙学会(JOAS)は、折り図集に投稿する折り図のファイルフォーマットとして、Adobe Illustrator形式(CS6以下)の他、Macromedia FreeHand (ver.11(MX)以下)で受け付けています。この他、テンプレートとしてEPSフォーマットを提供しており、Inkscape等で作成した折り図についても(応相談ではありますが)対応してくれています。
その一方で、折り図集の編集作業は、主にAdobe Illustratorで行われています(2016年時点)。そして、Inkscapeで作成したsvgフォーマットのファイルをAdobe Illustratorで読み込むと、トラブルが頻発することが知られています。IllustratorのSVGフォーマット対応が遅れていること、InkscapeではSVGの独自拡張(レイヤ機能など)を行っていることなどが原因となっているようです。
このページは、JOAS(とおりがみはうす)がInkscapeで作成した折り図を取り扱う際のトラブルを軽減することを目的として作成しました。
inkscapeでの変換しやすいデータの作り方、もしくは折り図を投稿する際のガイドライン。
ぎゃらりーおりがみはうすに勤務されている神谷哲史さんがまとめたガイドラインです。 マスクや半透明グラデーションが非推奨だそうです。
Inkscapeのバージョンが少し古いですが、いろいろなトラブルがあることが確認できます。
神谷さんのガイドラインは、Illustratorユーザ視点で描かれているため、Inkscapeユーザにとって理解しにくい点もあります。以下、折り図研で確認できた問題を中心に、Inkscapeユーザ視点で解説します。確認に使ったのはInkscape ver.0.91(Windows portable版)とIllustrator CC ver.20.1.0です。
それぞれのファイルフォーマットで異なるトラブルが確認されています。編集する人の選択肢を増やすため(そして苦労をできるだけ減らすため)に、両方のファイルフォーマットを同梱しましょう。
矢印を描くとき、パス端点のマーカー機能を使うと、svgファイルをIllustratorで読み込んだ時に線の部分が見えなくなります(pdfでは問題無し)。
ということで、マーカー機能は使わないようにしましょう。少し手間に思えるかもしれませんが、やじりは別のオブジェクトとして描いてください。
Inkscapeでは、オブジェクトを切り抜くために、マスクとクリップの2種類の方法が用意されています。まずは2つの方法の違いについて復習です。
どちらでも良さそうに見えますが、これをIllustratorで開くと、以下のようになります。
わぉ、マスクを使うとオブジェクトが見えなくなってしまいますね。svgでもpdfでもダメです。クリップを使えば、問題なく切り抜いたオブジェクトが表示されます。
グループ化したオブジェクトを拡大/縮小すると、Illustratorでsvgファイルを開いたときに、線の太さが拡大比率に応じて変わってしまいます(pdfでは問題無し)。以下の図では、2つのオブジェクトをグループ化した上で拡大/縮小しています。面白いことに、拡大すると線が細くなり、縮小すると線が太くなります。
ということで、もし、グループ化したオブジェクトを拡大/縮小したら、おまじないとして「グループ解除」→「グループ化」しておきましょう。
「拡大図ではクリップを使う」「グループ化したら拡大しない」というルールに沿って、以下のような手順で拡大図を描きましょう。
「拡大→クリップ→折り操作→コピペ→折り操作→...」という手順に比べて直感的ではない、と感じるかもしれません。確かにそういう面もありますが、最終形を無駄なく得られる、というメリットもあり、実は効率も良いのです。おすすめです。
透明度(≠RGBAのアルファ値)の項目を1以外の値にすると、pdfファイルを読み込んだときにオブジェクトが見えなくなります(svgでは問題無し)。
ということで、不透明度のパラメータはいじらないようにしましょう。
注意:私たちが確認した限りでは、アルファチャネルを操作して透過させるのは問題ありませんでした。しかし、グラデーションがダメ(神谷さん情報)、不透明度がダメなので、リスクはありそうです。できるだけ単純な機能だけを使って図を描く方が良いと思います。
レイヤに詳しい方は、立体図を描くときに「影情報を別レイヤで乗算する」という方法を思いつくかもしれませんが、これはダメ。乗算レイヤを1つ追加してみたところ、ブレンド情報が消えているらしく、乗算になりませんでした。svg, pdfのどちらでもダメです。
たとえば「影を落とす」を使うと、svgファイルをIllustratorで読み込んだ時に影がなくなっていました(pdfでは問題無し)。また、エラーダイアログが頻繁に出るようになり、作業の邪魔になります。折り図を描く上で必須の機能ではないので、使わない方が良いでしょう。
バージョンによって、独自拡張が異なるようで、ひじょうにおかしな現象が発生することがありました。少なくともページ単位で、使うバージョンは固定する方が良いです。
Inkscapeのデメリットの1つに、複数ページをサポートしていない、という点があります。しかし、Illustratorでは、けっきょくpdfファイルから1ページずつ取り込むので、がんばって結合するメリットはありません。
「見えない状態にしておけば良い」と思うかもしれません。ですが、オブジェクトが残っている以上はリスクになる、と考えましょう。無用のトラブルは避けましょう。