文献の読者、報告や講義の聞き手である自分の知識、理解、思考を促進するのに役立つもの。
一緒に聞いている学生や、話し手である教員にとっても有益な場合が多い。
大きく分けると次の4種類のコメントが考えられる。
「知れてよかった」「○○が気になりました」というコメントはよく見るが、もう一歩、自分がなぜそう思ったのか、考えてコメントを書くとよい。
「知ることができてよかった」だけでとまらず、その理由も必ず書く。
<例えば> これまで思い込んでいたこととの対比
このことを知ることが自分にとって重要だったのはなぜか。どんな意味で重要か。
社会的な意義。現在の重要な社会問題との接点の指摘
わからなかった点があるので、補足してほしい、より明確に説明してほしい、という質問は有意義なコメントとなる。
筆者は、読者のある程度の前提知識を前提として文章を書くが、読者も多様であり、その推測がずれることがある。講義をする教員も同様。
⇒筆者、教員の説明不足、読者、学生の知識の不足の両方が原因で理解がうまく進まないことが生じる。
←講義であれば、他にもわからない学生がいる可能性が高いので、その場で説明を求めるとみんなの理解の手助けになる。
←本であれば、自分で調べて補うことも大事だが、ゼミで一緒に読んでいる場合は、教員やゼミの仲間に尋ねることも有益。
<質問の種類>
Thin Questions: Googleで調べればわかること When, Where, Who
Thick Questions: Why, How. 答えが簡単には出ないような疑問も含まれる。
⇒どちらの質問もよいが、thick questionsのほうが、思考を刺激する。
<コメントとして質問をする際注意すること>
「〇〇はどうなんでしょう」という質問がよくあるが、単に「どうなんでしょう」というのではなく、「自分は●●という理由で,○○だと思ったのですが,どうして××になったのでしょう」というところまで考えて質問するとよい。
別のタイプの「〇〇はどうなんでしょう」として、本に書いていない、あるいは報告で触れられていないことを質問する場合がある。その場合は、本の内容、報告の内容から考えると、自分の疑問点についてはこのように推測できるがどうか、というふうに、本、報告の内容との関わりを含めて質問する。
筆者の主張に対する賛否のコメント。
筆者の論理構造を確認し、文章が論理的に構成されているかどうかを考え、自分の立場、「意見」を持つ
<例として>
3-1. 筆者の主張に強く同意する。説得力があると思った。
自分が前からぼんやり思っていたことをうまく表現してくれた。
以前は異なる考えを持っていたが、説得されて著者の意見に賛成するに至った。
3-2. 同意するが、説明が不十分ではないか。証拠(エヴィデンス)が不十分だと思う。
3-3. 反対する。証拠が不十分で、説得的ではない。
筆者の意見に刺激されて、自分が考えたことを書く。なかなか敷居が高そうなコメントだが、次の二つのパターンを使うと、割合うまく生産的なコメントをすることができる。
4-1. 他の事例への応用可能性
筆者の考え方や解釈が、ほかの事象を説明するのにも利用できるのではないか。
別の国、時代には当てはまらないのではないか。その国、その時点の特殊事例では。
例)日本との比較、日本の「常識」との違いに気づく。
→どのように異なるのか、踏み込んで考えてみるとよい。
4-2. 前提条件、判断基準をずらすことで、筆者と異なる見方を示す。
時間軸をもっと短く、あるいは長く取って考えてみる。
例)短期的な要因としては説得力があるが、長期的な要因としては別のものをあげられるのではないか。
比較の対象を広くしてみる。
判断の前提条件を再考してみる。
そもそも、「安定」が大事だという前提から出発しているが、「正義」のほうが大事では。あるいは、「経済発展」のほうが大事では、など。
賛否の意見には、次のようなものもあり得るだろう。
3-4. 反対であり、自分は別のこのような考えを持つ。なぜなら、筆者の意見とは異なる事例を知っている、資料をもっているなど。
→但し、別のエヴィデンスがあったとしても、著者の意見を否定するような意見を短いコメントの中で展開することは大抵の場合不可能。この方法でよいコメントを書くことは難しい。研究者同士の場合には、論文に対する反論を別の論文として投稿する。
その場で言えるようになるとよいが、準備できるときにはあらかじめ準備し、いろいろなパターンを使えるようになるとよい。
例えば、演習の課題文献がでたら、上の4つの種類を参考に、授業までに3つコメントを書いてくる練習をしてみる。