◆《自閉スペクトラム症の社会性における心理生理学的理解》
自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorders: ASD)は、表情認知や共感性など、社会性に課題を示す神経発達症の1つです。ASDは視覚情報処理の中でも,全体像や物体の運動を認知する力(大細胞視知覚)が弱いのではないか,と考えられています。大細胞視知覚の非典型発達が,本心とは異なる表情やうれし泣きなどの矛盾した表情,といった複雑な非言語コミュニケーションの理解に、どのように影響するのか、脳波・事象関連電位を用いて研究しています。この他にも、ミラーニューロン・システムや感覚偏倚の問題など多様な切り口から、心理生理学的研究を行っています。
◆《知的Gifted(知的ギフテッド)における刺激受容性の高さと心理・社会的課題との関係》
知能検査などで評価されるIQは、「IQが高い=学力が高い、集団行動に困らない」といった素朴な誤解があります。中には高い知的発達が諸刃の剣のように、日常生活にネガティブな影響をもたらすことがあります。アメリカやイギリス、中国、韓国などでは既に特別支援教育の1つとして、知的Giftedの子どものもつニーズに応える教育制度を実施していますが、日本では心理学的・教育学的理解が少なく、また支援・教育する側の専門性も十分なものとは言えません。諸外国での実践例・先行研究にもとづき、日本での知的Giftedのある子どもと保護者の心理学的研究と支援について研究しています。
◆《限局性学習症など神経発達症群をもつ子ども・青年と保護者の心理支援》
神経発達症群をもつ子どもへの合理的配慮が進む中、個別・家庭と学校集団との双方の支援の重要性が高まっています。心理アセスメントと行動観察にもとづいて、心理支援・学習支援や特別支援教育を実施することを研究しています。また青年期の居場所支援を研究しています。
◆《発達性協調運動症の書字活動における心理生理学的理解と支援法の開発》
発達性協調運動症(Developmental Coordinate Disorder: DCD)は、同年代の子どもと比較して運動の速さと正確さの問題を示す神経発達症の1つです。一般的には、不器用、と表現されます。不器用さは支援や介入を必要とするレベルから、配慮を要するレベル、心配の必要のないレベルまでグラデーションがあります。そのため、これまではDCDの子どもに対して、支援を必要としないレベルの子どもを念頭に「努力不足」「怠けている」「やる気がある時はできるのに」と理解されないことが多く見られました。DCDはLD、ADHD、ASD等の発達障害との合併も多いことが知られており、DCDの理解と支援の必要性が高まっています。本研究室では、DCDの「内部モデル障害仮説」の観点から、DCDの子どもの書字活動に注目して、眼球運動や脳波、脳血流、モーションキャプチャ等を活用して研究しています。
◆過去に行った研究テーマ
《ミラーニューロン・システムからみた自閉スペクトラム症の社会性の問題と脳波の関係》
《自閉スペクトラム症の感覚偏倚の問題が言語発達に与える影響と脳波・事象関連電位の関係》
《神経発達症のある子どもを対象にした小集団指導》
《唾液アミラーゼ活性を指標としたストレス反応、およびアロマ等による影響》
《協和音・不協和音聴取時の脳波における音楽経験の違い》
◆共同研究(代表)
2021〜2025:運動制御の内部モデルに基づいた発達性協調運動症児の書字動作に関する病態解明と支援の検討(松山郁夫 佐賀大学)
2019〜2022:高い知能をもつ人が示す過度激動特性(刺激への感受性の強さ)に関する尺度開発(日高茂暢 佐賀大学)
2016〜2017:大学コンソーシアムとちぎ:産学官連携アロマ新商品開発プロジェクトー栃木県産ショウガのストレス軽減作用に関する心理生理学的検討(春日正男 作新学院大学)
2015〜2018:異年齢カップリングの発達学:子どもの生きづらさを超えるための学際的協働(川田学 北海道大学)
2015〜2017:自閉症スペクトラムの伝達意図理解とメタ表象の障害に関するミューリズムによる研究(田中見太郎 作新学院大学)
2012〜2014: 自閉症スペクトラム障害の自動詞的行為と他動詞的行為の意味理解と模倣に関する研究(田中見太郎 作新学院大学)