研究テーマ

Q.太陽からの日射量の変化が地球の気候変動と生物進化にどう影響を与えるか?

日射量は太 陽活動や地球軌道によって大きく変わります。特に,ミランコビッチサイクルとよばれる2万年(歳差運動),4万年(地軸の傾き),10万年(離心 率)の 周期的な変動は氷期-間氷期サイクルのグローバルな気候変動を引き起こしたことが古くから知られています.しかし,さらに長周期の40万年から480万年周期の 日射 量変動があることはあまり知られておらず,その地球環境への影響も未解明です.特に,現在は40万年周期,240万年周期,480万年周期の 極小期 に対応するため,これらの周期でどのような気候変動が起こるかを解明することは現在の地球環境を理解する上で重要です.

私は,史上最大規模の大量絶滅,ペルム紀-三畳紀(PT)境界大量絶滅か らの回復過程を研究していく中で,長周期の日射量変動の地球環境への影響を研究しています.日本の付加体中に広く分布する遠洋深海性堆積物”層状チャート”にはこのPT境界大量絶滅とそれか らの回復過程が記録されています.層状チャートは 主に放散虫という珪素の殻をもつプランクトンの化石からなるチャートと 主に風で運ばれてきた風成塵からなる頁岩がcm単位でリズミカルに繰り返しており,これら数千枚の厚さを野外で測って,周期解析を 行った結果,地球軌道要素(上図)による2万年,4万年,10万年,40万年,180万年,360万年という日射量変動がチャート・頁岩の 堆積リズムの起源であったことが明らかになりました(Ikeda et al., EPSL in press). さらに,日射量変動と生物の回復過程を比較すると,360万年の長周期サイクルで生物の多様性が変動していたことが示されました(ikeda et al., in prep;INTERRADにてThe best student awardを受賞).

今後,地球 史を通した長周期の日射量変動の地球環境変動,生態系への影響を解明したいと考えて います(Ikeda et al. 2010EPSL).

【現在進行中の研究テーマ】

1. ペルム紀-三畳紀境界大量絶滅事変における表層環境と生態系の回復過程とその相互作用の解明.

2. 遠洋深海性層状チャートの堆積メカニズム の解明:メガモンスーン仮説

3. 地層の縞模様から天文学的年代目盛の確立:“ミランコビッチ“サイクル層序

4. 地層の縞模様から見えてきた太陽系惑星運動の” カオス進化”

5. 海洋無酸素事変と日射量変動の関連性の解明:ペルム紀-三畳紀,ジュラ紀トアルシアン,白亜紀のOAE

6. 生物多様性と日射量変動の関連性の解明

↓↓1. ペルム紀-三畳紀境界大量絶滅事変における表層環境と生態系の回復過程とその相互作用の解明. 約2億5000万年前のペルム紀/三畳紀(P/T)境界には顕生代最大規模の大量絶滅が 起きたことが知られ,生物種の90~95%が絶滅したとも言われて います.

表層環境と生態系がこの大絶滅から回復するのに500万年以上もかかったことが分かってきましたが,なぜ回復が遅れたのか,その要因は未 だ謎のままです.

私は日本の付加体中に広く分布する遠洋深海性堆積物”層状チャート”を主な対象として研究を行っています.

この 絶滅を引き起こし,回復を遅らせた直接要因の一つとして長期間の海洋無酸素事変(Superanoxia参照) があげられていますが,その実態は未解明でした.

未解明の要因として,この時期の地質記録が地殻変動で断片的にしか残されていないことが大きな問 題でした.

そこで,私は詳細な地質調査によって各地の断片的な地層の重なり(層序)を1枚1枚つなぎ合わせることにより,回復過程の完全 連続に復元しました(Ikeda et al., EPSL in press). 現在は,このP/T境界大量絶滅からの回復過程において,ミランコビッチ・サイクルの日射量変動が表層環境と生態系にどのように影響 を与えたのか,について研究しています.

2. 遠洋深海性層状チャートの堆積メカニズムの解明層状チャートは主に放散虫という珪素の殻をもつプランクトンの化石からなるチャートと 主に風で運ばれてきた風成塵からなる頁岩がcm単位でリズミカルに繰り返していからなります.このチャート,頁岩数千枚の厚さを野外で計測し,周期解析を 行った結果,2枚,5枚,20枚,100枚,200枚周期が検出されました.これらは地球軌道要素の周期性と同じ周期の比であることから,日射量変動がチャート・頁岩の 堆積リズムの起源であったことが明らかになりました(Ikeda et al. 2010EPSL). そこで,日射量変動がどのようなメカニズムで地球環境に影響を与えたのか,当時の地球 システムの観点から地球化学的に検討しています.

3. 地層の縞模様から天文学的年代目盛の確立:“ミランコビッチ“サイクル層序 地層から様々な化石を発掘したり化学分析を しても,その年代が正確に決まらなければ生物進化や気候変動のグローバルな時空間変遷を理解することは出来ません.年代の問題は古くなればなるほど深刻 で,恐竜時代以前は誤差数百万年もあったため,地球環境が激動していたにもかかわらず,気候変動のプロセスやメカニズムに未解明な点を多く残していまし た.

そこで,地層に刻まれた日射量変動の周期性から,天文学的な周期性を地層の時間目盛と して利用することができます.木や貝の年輪と同様に,地層の縞々にも1年 で1枚で出来た層(年縞)や地球軌道要素の数万年周期の縞模様があり,理論上,数億年前の地層1枚1枚に1年~数万年単位での時間目盛を正確に刻むことができます.これをサイクル層序cyclostratigraphyと呼びます.ただし,前提として地層の1枚が何年に対応するかを解明した上で,別の手法で大体の時代を決める必要 があります.そのため,この手法は新生代の後半では適用されてきましたが,古い時代では地層が不完全にしか残されていないため,断片的にしか適用されてき ませんでした.

一方,遠洋深海性層状チャートは数千万年と いう非常に長い時間,連続的に堆積しているため,長期間の地球環境と地球軌道の変動を解読する有力な“古文書“であると言えます.ただし,地球軌道要素は その周期が変調することが知られているため,正確な天体力学的数値計算を行う必要があります.しかし,長周期の軌道要素はカオス的に変動することが知られ ているため,長期間の数値計算は不可能です.一方,40万年周 期は木星と金星の重力相互作用に起因し,木星が非常に大きいため,40万 年の周期性は地質時代を通じて非常に安定で時間目盛として優れていることが知られています.現在は,この40万年周期(チャート約20枚 分)を時間目盛として,天文学的年代スケールの確立を試みています.今後,太陽系惑星のカオス進化を地層の周期解析によって復元することで,地球史を通 じた地球軌道要素と日射量変動の復元も行いたいと考えています.

4. 地層の縞模様から太陽系惑星運動の”カオス進化”を復元

地球の公転軌道 は太陽と他の惑星(水星・金 星・火星・木星・土星・天王星・海王星)の重力相互作用によって僅かながら刻々と変化しています.その結果,ミランコビッチサイクルとよばれる約2万年の歳差運動,約4万年の地軸の傾きの変化,約10万 年の離心率の変化として“周期的”に変動しています.しかし,100万年以上の長周期サイクルはカオス的で,天体力学計算によれば現在と異なるモードがあることが予言されています.しかし,理論的にカオスであることは分かっても,実際過去にどうだったのかを知ることは出来ません.

そこで,過去に堆積した地層から地球軌道周期の痕跡を見つけ出すことで,太陽系惑星がどのようなカオス進化をしていたのかを明らかにすることが出来ます.私の研究している三畳紀の地質記録には,現 代の240万年周期,480万年周期に対応する周期性が見られませんでした.これらの周期は地球と火星の重力相互作用に起因するのですが,地 球と火星の永年共鳴はカオス的であることが天文学的に予言されています.三畳紀後期の北米の湖堆積物からも180万年周期と360万年周期が報告 されており,三畳紀には現在とは別のカオス状態であったことが地質学的に明らかになりました(Ikeda et al. 2010EPSL). 興味深いことに,ジュラ紀前期の層状チャートには180万年周期と240万年周期が交互に現れる特殊なスペクトルがあること がウェーブレット解析によって明らかになり,これはちょうどカオスのモード遷移時期に対応すると考えられます(Ikeda et al. in prep).今後,太陽系惑星のカオス進化を地層の周期解析によって復元することによって,地球史を通 じた日射量変動の復元も行いたいと考えています.

5. 海洋無酸素事変と日射量変動の関連性の解明:ペルム紀-三畳紀,ジュラ紀トアルシアン,白亜紀のOAE

6. 生物多様性と日射量変動の関連性の解明