会話分析研究会について
JACET会話分析研究会を2024年6月に立ち上げました。興味のある方は次の研究会HPをご確認ください。
https://sites.google.com/view/jacet-conversation-analysis/
会話分析へのよくある質問への回答集1 (12/03/2022 )
Q1. 会話分析は結局、分析者1人の主観的な分析で妥当性がないのでは?
Q1. 岡田 (2015, pp. 151-152) の次の部分を参照。
時間の流れにそって行為が連鎖していく相互行為という システムの中で1つの行為の意味はその前に行われた行為との関係性によって誰に でも、つまり誰よりもまず参加者にとってそして分析を行う研究者にとっても見える形 で決定される [...] それは参加者が前方の行為に対して示す後方ターンでの内容によってどのように参加者が意味を解釈したのかということが参加者にとってだけではなく分析を行う研究者にとってもそしてその分析の報告を受ける読者に とっても見える形で示されるということである。これが会話分析における分析の妥当 性を示す「次のターンでの証明手続き」である(Sacks, Schegloff, & Jefferson, 1974)。 会話分析ではひとつひとつの行為の意味やその手続きについてその行為者にインタ ビューやアンケートによって説明を尋ねるということで分析の妥当性を高めることはし ない。それは行為の意味、手続きについてその行為者がどのように考えていたかが 問題ではなく、どのように行為の手続きが実演され、相互行為というシステムの中で 行為の意味が決められるかが分析の焦点であるからである。従って、他の研究手法を組み合わせて妥当性を確かめるような三角測量も会話分析研究では行わない。会話分析の採用する標本的パースペクティブに立てば、問題とする相互行為自体もそれ を後から説明するという行為もそれぞれの行為の外部に有る客観的事実を反映した り推測させるためにあるのではなく、それぞれ別々の固有の現実の出来事(標本)であり、それ自体として見なければいけないからである(ten Have, 2007参照)。
Q1' 他の質的研究法では、解釈について複数の評価者での一致度あるいは逸脱度を、評価者間信頼性として提示しているが、会話分析ではしないの?
A1' 評価者間信頼性は妥当性を保証しない。
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Q2. 1つの事例の分析結果を一般化できるの?たまたまこれがそうなだけで、当てはまらないことも多いのでは?
A2. 岡田 (2022, p. 115) の次の部分を参照。
エスノメソドロジー的会話分析で明らかになった 相互行為のやり方・手続きは、そのやり方・手続き自体を用いることができる可能性という意味での一般化可能性を持つ (Peräkylä, 1997)。つまり、無作為抽出した複数 のEAP授業でどの英語教師であっても特定の内容のポスト・パフォーマンスフィード バックは特定のやり方で行う、といった意味での一般化可能性ではなく、同様のポス ト・パフォーマンスフィードバックを行う英語教師であれば誰でも用いることができるという、手続きの可能性としての一般化可能性である。エスノメソドロジー的会話分析は、人工的な実験によるものではなく、現実のものとして行われた相互行為の中で 参与者が意味を構築・解釈するために用いている方法を記述することで、研究対象 の相互行為 (本研究ではEAP授業における英語教師の学生に対するポスト・パフォ ーマンスフィードバック) への理解を深める。こうした解釈学的アプローチは、法則制定的アプローチによる研究とは異なり結果として何かを予測することはない (Markee, 1994)。しかし、特定の種類の相互行為において、その参与者がそこで何か特定の行為を成すために用いている方法の詳細な手順を明らかにすることは、同じ分類となる 相互行為の参与者がそこで何か特定の行為を成すために用いることができる方法のレパートリーを増やすことへとつながる (Okada, 2010, 2015)。
また岡田 (2022, p. 129) の結論部分も参照。
最後に、今回の研究では言語的側面以外のポスト・パフォーマンスフィードバックに 焦点を絞ったため、英語教師としてよりもむしろ教師全般、あるいは学術世界での規 範を理解している専門家としての見識が必要となるフィードバック場面を分析した。もちろん採集したEAP授業データ内にはより良い英語表現や認識可能な発音にする 指導、語順や文法の訂正など、英語教師としてのフィードバックを行っている場面も 存在している。しかし、学術世界での専門家として何が適切なパフォーマンスで何が 不適切なものなのか、そしてそれらの理由・原因は何なのかを見分ける能力、さらに その専門家としての見方を体験させ学習が起こるように相互行為を組み立てる能力も、EAP授業を教える英語教師に必要であることは今回の分析で見た通りである。 そして、相互行為として行われるフィードバック場面での具体的手続きとしてEAP授 業で英語教師に求められる能力を知ることが、それらの能力を伸ばすための第一歩 となるだろう。本研究が示したように、エスノメソドロジー的会話分析によるデータに 基づいたボトムアップ型の研究は、その第一歩となるものである。もちろん、本研究 で扱ったポスト・パフォーマンスフィードバックの相互行為手法が、全てのEAP授業に おいて英語教師が用いる学生の学術能力を伸ばすポスト・パフォーマンスフィードバ ック手法ということはない。これからの研究では、より多くのEAPまたESP (English for specific purposes) 授業における英語教師のポスト・パフォーマンスフィードバックを相 互行為の方法として分析、解明することで、教育的に有益なフィードバック実践の知 識基盤が構築されていくことが望ましい。そうすることで、英語の言語的側面のみな らず学術また専門的能力や内容に関する指導も授業の範疇とするこれからの英語教 育に従事する教師がより良い授業を行っていくことにつながるだろう。
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Q3. 会話という表面だけを見て、その後ろのメカニズムを無視しているのは、「浅い」分析ではないのか?
A3. Edwards (2007, pp. 47-48) の次の抜粋部分を参照。
A familiar objection to discursive psychology and conversation analysis, among other studies of language-based practices, is that their focus on talk, or discourse, omits important things such as the broader con textual setting and the nature of embodied experience and subjectivity (e.g., Parker and Burman, 1993; Hollway and Jefferson, 2000). There is a sense that language, or talk-in-interaction, is to be found only at the surface of things, and that inferences of a different kind need to be made, in order to get at what is going on below the surface. Nobody is claiming that discourse is all there is. However, the rush toward theorising about context and subjectivity is being done without close attention to what is available on the surface. [...] In our experience of the physical world, from which we derive the metaphors 'surface' and 'depth', going below the surface of things merely reveals more surfaces to examine - whether under the sea, beneath the skin or under the skull. As Wittgenstein (1958) cogently argued, and also Garfinkel (1967; cf. Coulter, 1990), and in a different way the perceptual psychologist Gibson (1979), the surface is what members themselves are actually seeing and dealing with. To the extent that subjectivity is part of social life, and relevant to language and social interaction (the practices of inter-subjectivity), it has to be made avail able in mutually understandable ways. There are no private languages.
言語による実践・言語使用に関する研究の中でも、談話心理学や会話分析に対するよく知られた反論は、会話や談話に焦点を当てることで、より広範な文脈設定や体現された経験や主観性の性質といった重要な事柄が省かれてしまうというものである(例えば、Parker and Burman, 1993; Hollway and Jefferson, 2000)。言語や相互行為の中の言葉は物事の表層にしか存在せず、表層の下で起こっていることを知るためには、異なる種類の推論を行う必要があるという意識・感覚がそこにはある。誰も言説がすべてだと言っているわけではない。しかし、文脈や主観性についての理論化を急ぐあまり、表層で得られるものに細心の注意を払わないまま、理論化が進められてしまっている。[...] 物理的な世界の経験では、そこから「表層」と「深層」というメタファーを導き出すが、物事の表層より下に行くと、海の中、皮膚の下、頭蓋骨の下など、調べるべき表層がさらに現れるだけである。ウィトゲンシュタイン(1958)が説得力を持って論じたように、またガーフィンケル(1967; cf. Coulter, 1990)や知覚心理学者ギブソン(1979)も述べているように、表層とは成員自身が実際に見て、扱っているものである。主観性が社会生活の一部であり、言語と社会的相互行為(間主観性の実践)に関係する限り、それはお互いに理解可能な方法で利用可能でなければならない。私的言語などは存在しないのである。
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Q4. トランスクリプトはなぜあんなに読みにくいの?全部のデータをあれだけ細かく書き起こす必要があるの?
A4. トランスクリプトは実験ノートの役割で一次資料ではない。一次資料は録画・録音したデータそのもの。それを研究者以外の読者にもaccessibleに・参照できるようにするための 取組が会話分析のトランスクリプト。細かいのは、荒く書き起こすと、参与者自身が志向していることが見えなるため。詳しくは、Okada (2010) の1648-1650の議論を参照。
データの書き起こしについては、その過程で細かいところまで参与者の志向を辿れるようになる (理解が進む) ので、CAの練習として手持ちのデータのすべてをできる限り細かくCAのやり方で書き起こすことは、特に入門〜初級の段階では必要。経験者でも、いわゆるunmotivated lookingの実践として、データの全てを自分で見て・聞いて、自分で詳細に書き起こすことが望ましい。
参考文献
Edwards, D. (2007). Managing subjectivity in talk. In. A. Hepburn & S. Wiggins (Eds.), Discursive research in practice: New approaches to psychology and interaction (pp. 31–49). Cambridge.
岡田悠佑 (2015). アイデンティティによる尺度化: 言語教師の定式化手続きの会話分析研究. JALT Journal, 37(2), 147–170. https://doi.org/10.37546/JALTJJ37.2-3
岡田悠佑 (2022). フィードバックによる学術的社会化―EAP授業における教師のポスト・パフォーマンスフィードバックの会話分析. JALT Journal, 44(1), 107–135. https://doi.org/10.37546/JALTJJ44.1-5
Okada, Y. (2010). Role-play in oral proficiency interviews: Interactive footing and interactional competencies. Journal of Pragmatics, 42(6), 1647–1668. https://doi.org/doi:10.1016/j.pragma.2009.11.002
Okada, Y. (2015). Contrasting identities: a language teacher’s practice in an English for specific purposes classroom. Classroom Discourse, 6(1), 73–87. https://doi.org/10.1080/19463014.2014.961092
Markee, N. (1994). Toward an ethnomethodological respecification of second language acquisition studies. In E. Tarone, S. M. Gass, & A. Cohen (Eds.), Research methodology in second language acquisition (pp. 89–116). Erlbaum.
Peräkylä, A. (1997). Reliability and validity in research based on naturally occurring social interaction. In D. Silverman (Ed.), Qualitative research (pp. 201-220). Sage.
ten Have, P. (2007). Doing conversation analysis (2nd ed.). Sage.