2020年3月発行

映画のイコノロジー飛行新聞 Die ikonologische Flugzeitung des Kinos Vol.12-1


(飛行新聞 Die Flugzeitung とは、グーテンベルクの活版印刷によって宗教改革時代以降、カトリックとプロテスタント両派が宣伝合戦を繰り広げたビラに由来する。つまり現在のフライヤーのこと)


「映画のアルケオロジー」其の3



メディアマギカの3巻目です。

1巻目のFilm before filmが1985年です。ダイジェスト版で、その後10年経って2巻から6巻まで分けて作り、更に細かくコレクションについて解説しています。


回転させる幻燈の仕掛けです。全部で3枚のガラス円盤の内2枚を交互に動かします。アニメーションの前史としての幻燈の仕掛けから話が始まります。

これは17世紀、アタナシウス・キルヒャーという人が本の中で描いた幻燈の挿絵です。この当時キルヒャーより前に幻燈の文献はあるのですが、これが一番有名です。キルヒャーの本の第2版の図版です。

キルヒャー著作図版

1690年にオランダの科学者が実際に描いた直筆の水彩画です。版画ではないので1冊しかありません。研究ノートとして描いたものです。

これは1700年代後半の色々な幻燈の描写です。室内でやったり、幻燈器屋さんがあちこち旅してやった様子。

この図は19世紀です。

19世紀に入ってから作られた金属の幻燈器です。

金属の幻燈機

これ中国人の姿になっていますが、幻燈は中国の影絵から来たというイメージが強いです。だからこういったシノワズリーというか中国風のデザインになっているものが多いです。

中国風幻燈機

これは手描きのスライドです、ガラス板に手で描いています。

手書きスライド

こっちの方が勿論古いです。


これはラピエールです。ラピエールはフランスの最大手の幻燈業者です。19世紀、他の業者のものは見たことがないです。ほぼ100年ぐらいはやっていたと思います。絵がいいですね。

ラピエール フランス製スライド

ラピエールの絵の特徴は背景が黒でなくて白だということ、素抜けです。さっきみたいに黒を背景にしていくのは19世紀後半の他の業者がやっていく、これはドイツ製ですね。

ドイツ製スライド

ドイツのものは大体、黒の背景に絵が抜いてあるのが多いです。暗いところで動かすと、後ろが黒だとキャラクターだけが浮き上がって見える。それで動いているように見える。これもドイツですね。

ドイツ製スライド

こういう仕掛けのものが面白い。

これはシルエットです。

影絵遊びと幻燈は同じようなものとして扱われていた。だから有名なロッテ・ライニガーみたいに「アクメッド王子の冒険」のようなシルエットアニメーションが出来てくる、背景はそういうことです。影絵とシルエットと幻燈は同じように扱われていた。

これ、船員さんが港から旅立つところ。みんな別れを惜しんだりしています、家族や親子、女房子供との別れだったりするのですが、こいつは一人酒を飲んで女房に怒られながら船に乗る。遅刻している。

こういう仕掛けもの、ラチェットとギアで回転させるものですけど。のちほど実際に動かしますけど、本当に初期から幻燈に動きを与えるようにできています。

これは春から冬に変化する。

こうなってくると殆どアニメーションですよね。

これはすごいですね、ただ2枚の絵のモアレで作るのですが、すごくうまい。

船の難破

こうなると殆ど映画的。2個までずらして動きを見せる。

これは精巧なものです。一つの画像に角度を合わせるようにしている。

レンズを二つ搭載した幻燈機

スライドの単純な操作によって時間経過をきれいに見せている。

ワイプでつなげる技術です。大事なことは映画を作り始めた初期の人達が小さい頃から馴染んでいた映像がこれだという事です。だから自然とそういう技術が映画に入ってくる。

雪景色

これは科学的な実験の発表会。

教育的な学会などで化学実験のために幻燈を使いました。電気分解のスライド。幻燈会でそのまま実験を拡大して見せた。

全部薄いスライドの板の中に液体を入れている訳です。

これは銀樹ですね。「アルボル・ディアナエ」という硝酸銀溶液に銅を浸けて銀の結晶を析出させる状態をそのまま映像として見せる。

アルボル・ディアナエ

これは硫酸銅です、右側の銅がどんどんやせ細っています。

硫酸銅

これも硫酸銅ですね。何反応って言いましたっけ?アンモニアを入れる(青色の水酸化銅ができて、さらにアンモニアを加えると濃い青色のテトラアンミン銅(Ⅱ)イオン溶液ができる)。

ネケスは化学実験を単に正確に見せるという事のみならず、こういう抽象表現としての色彩と形が現れる事を見た、と言っています。抽象画、抽象表現にも影響を与えているのではないかと。そういう発想をネケスは持っている。

これは光学の実験用の、それを幻燈で見せるのですが、偏光板です。

横から平行光線、偏光板で色彩が出る。幻燈会でそれを拡大して映している。


これドビュッシーかな、流れているの。音楽も考えられていて19世紀末の印象主義、色彩とか形が変化するのをよく見ていたんですよ、という事と音楽との関連、光によって単に明暗ではなく、色の部分、影の部分が紫になったりとか、そういう印象派の絵が出ている。


これは暗号を作る回転盤。元々はルルスの「もの云う輪」ルルスの円盤という論理学の為の組み合わせ術、ジャンバティスタ・デラ・ポルタという人の暗号術です。

暗号を作る回転盤

これは変わったもので宗教学と天文、そういうものの関係を説明するための回転盤付きの本です。