幅広く水圏生物とその生息地の保全を目指して、生活史と生息環境、群集構造に関する研究を行っています。
主な研究対象は魚類ですが、甲殻類やベントス、淡水性カメ類などの調査も最近進めています。
主なトピック
1.魚類の生活史の解明
生まれてから死ぬまでの生き物の一生を「生活史」と呼びます。寿命や成長率、繁殖期など基礎的な生活史情報は、魚類の保全や持続的な資源活用を目指すうえで不可欠なものです。また、ある環境に生息する魚といえども、生活史のなかでずっとその環境を利用するのか、それとも一時期だけ利用するのかは、各種の生活史を明らかにしないとわかりません。特に汽水域に生息する魚類は、環境の人為的な改変の影響を受けやすく、保全を行なうためにはどのような一生を過ごすかという基礎的な情報が必要となります。
これまで私は、主に沖縄島の干潟域に生息するハゼ科魚類に着目し、複数種の生活史について研究を行なってきました。その結果、汽水域に生息するハゼ科魚類は、同種内でも高い変異性をみせ、場所ごとの環境に適したの生活史を送ることがわかりました。生活史の可塑性が高いハゼ科魚類には、生活史戦略の進化や環境変動に対する応答を測るモデルとしての適性があることを示しています (國島・立原, 2019魚雑; Kunishima et al., 2019JMarAssocUK,2021JFB)。また、水産有用種についても、耳石を用いた年齢査定や成長率の推定、生殖腺の組織学的観察による繁殖期の推定など、持続可能な資源活用に向けた研究を経験しており、今後も進めていく予定です(Kunishima et al., 2021RSMS )。
←対象種の1つ,ミナミアシシロハゼ Acanthogobius insularis 環境省や沖縄県などのレッドデータブックで絶滅危惧種に選定されている。
2.干潟タイドプールにおける魚類の生息環境や利用様式、季節変動
沖縄島では豊富な干潟がみられ、多様な魚類に生息環境や餌生物といった資源を提供しています。干潟といえば泥のイメージが強いのですが、実に多様な環境が含まれます。各種がどのような環境を好んで生息しているのか、あるいはどのように干潟を利用しているのかを明らかにすることは、干潟環境が著しく減少している昨今において喫緊の課題となっています。また、タイドプールは環境の変異が大きく、ひどい時には水温が40℃(!)を超えることもあります。そうした過酷な環境の中で、魚類がどのように干潟環境へ適応し暮らしているのかを明らかにすることは、とても興味深いトピックです。
これまで、主に沖縄島や和歌山の干潟を中心として、出現する魚類の季節変動や利用様式について研究してきました。その結果、干潟タイドプールに出現する種は大きく3つ(依存種、一時利用種、遇来種)に分けられることや、近縁種であっても生息環境や空間的な生息地に違いがみられること、それらの違いが群集内での種多様性や種組成の異質性に影響を与えることが明らかとなりました (國島ほか, 2014; Kunishima and Tachihara, 2020MFR, 2021MER)。また、定量的に干潟の魚類を採集するためのコドラートも開発しました(Kunishima and Tachihara, 2018PBR)。
干潟とは・・潮が引いたときに現れる環境。底質は泥や砂泥、砂からなり、平坦な地形であれば「干潟」に含まれる(日本ベントス学会,2012 )
←沖縄島南部の干潟.修士でのメインフィールド.
3.魚類群集構造の地理的変異
琉球列島は 南北に無数の島嶼が連なってできており、長さはなんと約1200 kmにもなります。それでは、琉球列島の中でも北側にある種子島と南側にある西表島では出現する魚類は同じ組み合わせなのでしょうか?それとも島によって種組成や種数は異なるのでしょうか?また、もし異なるとしたら、どのような要因に影響を受けているのでしょうか?
その疑問を解決すべく、現在までに九州から西表島の7地域(6島含む)合計44干潟で魚類群集を調べました (Kunishima et al. in prep.)。その結果、種子島を境界に九州と琉球列島の間で魚類の種組成が変化することがわかりました。一方で、奄美大島以南の琉球列島では、島間で種組成に違いがみられず、干潟の底質タイプ(泥質干潟か砂質干潟か)や塩分によって出現種に違いがあらわれることが明らかとなりました。つまり、大きなスケールでは黒潮や気候の影響、より小さなスケールでは底質や塩分などの物理的環境の影響を受けて干潟タイドプールの魚類群集が形成されているといえます。また、種の多様性は九州から南方に向かって増加していきますが、それは本来他の環境に暮らす魚種や一時的に干潟を利用する魚種が増加するためであることがわかりました。今後は、出現種の生理耐性(水温や塩分)や遺伝的な交流などを調べることで、魚類群集の形成や維持に関するメカニズムやプロセスに迫りたいと考えています。
←調査地の一つ、宮古島のマングローブ干潟
4.その他
自身のメインテーマ以外にも、淡水から深海までの幅広い環境で、魚類を中心にさまざまな分類群や分野の調査研究に携わっています。
[経験した調査・採集・解析手法]
手網・投網・刺網・曳網・釣り(陸・船)・トラップ(ウナギ筒)
スノーケルでの目視観察(ベルトトランセクト)・スキューバでの目視観察,採集
環境DNAの採水・濾過
標本作製・標本撮影・形態の記載
魚市場での水揚調査(クロマグロ,沿岸性魚類)
耳石収集(体長1 cmのゴマハゼから3 mのマグロまで)および耳石を用いた齢査定(日齢・年齢)
Rを用いた統計解析,モデリング(線形モデル;多変量解析:CCA、PCA;MARXAN;ネットワーク解析)
QGISによる空間解析・地図作成
イラストマーを用いた標識放流
飼育実験(耳石染色や餌料調整実験など)
[[below same in English]]
Life history and community structure of fishes in brackish area, especially gobies inhabit in tidal flat
My research interest is how fishes inhabit in brackish area, especially tide pools of tidal flats which would drastically changes the physical environments such as water temperature and salinity within a day.
I have investigated the life histories of fishes inhabiting in estuary, such as Mugilogobius species, Acanthogobius insularis and Taenioides sp. Within these species, A. insularis is endemic and endangered species in the Amami-oshima and Okinawa-jima Islands. We have published life history and instream distribution of A. insularis from "Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom" (Kunishima et al., 2018). One of my important findings was they are an annual species, and their life cycle has affected by low water temperature, for example, maturation and growth.
I also investigated to community structure of fishes in tidepools of tidal flats. During Msc student, species diversity, usage of tidepool, seasonal variation of fish assemblage was conducted in two tidal flats in Okinawa-jima Island through a year. Our results indicate tidepool is essential habitat for particular "resident" species such as some gobies, but not main habitat for economic species as a nursery ground (Kunishima and Tachihara, 2020).
Moreover, I have tried to improve the quadrat for quantitively sampling in tidepools of tidal flats. This improved quadrat have two parts with PVC pipes, and surrounded nets and sinkers. The method of improved quadrat will be published (Kunishima and Tachihara, 2018PBR). This article indicated the quadrat can be accurate quantitative sampling.