桃
お盆は遅起きが続く。カーテン越しに外を覗くと、猛暑日の色で輝いてる。
梅雨明けからこの調子だから、冷房かけっぱなしじゃないと寝られない。
昨日、実家から桃を五つも貰ってしまった。
今朝の桃は三つめだ。食欲がなかった。
髪をまとめて白いシャツの袖をまくって、皮に刃を通す。
よく冷えてる。立派な桃だった。
肌みたいに細かな産毛がたっていて、
種の周りに刃を回してねじると、甘そうな汁が垂れた。
種を抜いて、くし形に切る。
皮を下に置いて、包丁の刃を滑らせるように皮をむく。
桃の切り方はこれしか知らなかった。
切った端から食べていると、同居人が起きてきた。
遅起きな声で、桃だ、とつぶやく口に、私は一切れ入れる。
同居人は桃を黙って食べながら、四つ目の桃を出してきた。
自分用の包丁、生ごみ用の袋、それからきちんとガラスの皿も出す。準備が良い人。
同居人は、桃に薄く刃を入れた。
刃に乗せた柔らかい皮を親指で抑えて、めくるようにむいていく。
そして、桃の外側の実を削ぐように切っては、皿に落としていった。
落ちていく薄い桃は、私のと違って、花びらや氷菓子のようにみずみずしく透き通る。
種の近くまでくると、あと一回りは剥けるだろうに、
同居人は削いだ後の桃をビニール袋に入れて手を洗った。
贅沢な切り方。
私が非難の言葉をつぶやくと、同居人は私の口に桃のひとひらをいれた。
種の周りの筋っぽさもない。とろりとした冷たい果実。
なんて罪深い美味しさだろう。同居人を抗議の目で見る。
朝ごはんを桃にするなんて、すごくいけなくて、いいアイデアじゃないの――
だから僕はのったんだけども。
笑う同居人の大きな手が私の頬を包むと、桃のにおいがした。
うんと遅く起きて、桃のおいしいところだけ食べる。
冷房の効いた台所に差し込む夏の光で、桃の薄片はつややかに光る。