裏設定

以下、「クローネとはぐるまのしま」の

裏設定――というか、はぐるまじまの過去を書きます。


このゲームで表現したいことではなかったので

自分としては泣く泣く削った内容ですが


そしてこのページ、実は移行時にミスして

一旦失われたので記憶をもとに書き直したもので

原ページと全く違う書き口になっていますが(2020/09/10)


先々の自分が「そういえばこんなつもりで書いたな」と

思い出すための覚書程度の内容です。


とはいえ話の核心が諸々書いてあるので

以下読む場合はクリア後を強くおすすめします。


あと本編と比べてわりとシリアスな内容なので

本編のイメージを崩したくない方はそっとお戻りください。












その島はかつて、ゴミ埋立地でした。


長い年月使われてきた、ランプや、車や、オルガンや、

長く使われたいろいろな道具が捨てられました。

不思議なことにそのごみたちは、長く使われたものであればあるほど

宝石や硝子のような欠片に囲まれて眠っていました。


そこへ、最後のごみとして、ある原子の力で発電したあとのごみ――

放射性廃棄物が運び込まれ、地中深くに埋められました。

その廃棄物は、長い年月――およそ100年産めておかなければならないものでした。


放射性物質をもつその島には、人が間違ってはいらないように、

長い時間でも意味を失わないようシンプルな「危険」のメッセージや、

人に放射能が及ばないよう強制退去させるシステム(アンクル)が残されました。


100年があと少しで過ぎようとしていた頃、その島にテンプがやってきました。

テンプは好奇心旺盛で知識も技術も持った発明家でしたが、

家業を継ぐことを拒否して家を出ることを決めていました。


放射能にも詳しかったテンプは、レベル測定の結果、人体への影響は極めて少ないと判断。

強制退去させようとするアンクルの捕獲の手からも逃げ回り、島に居残り続けました。


アンクルとの追いかけっこの日々のなか、テンプが出会ったのは、

首が取れてぼろぼろになった機械式男性型ドールのロービートでした。

変わったものが好きなテンプは、まるで時計のように精巧なロービートをリペアしながら、

家に残した泣き虫で空想好きな妹――クローネの描いた童話を思い出していました。


クローネの描いた童話は『モノに心があるならば』と願う物語でした。


テンプはクローネの童話から着想を得た「いし」――鉱物電池のような欠片――から

動力を与え、遊び心でコンピューターを組み込み、言葉もしゃべるようにしました。

人形のロービートは、テンプのような物言いをする性格で、二人は相棒になりました。

相棒となったロービートは、とても人形とは思えない出来でした。


やがてロービートと協力してアンクルのセキュリティシステムを無力化したテンプは、

誰もいないゴミすて島に、クローネの描いた世界を再現することを思いつきます。

その世界は、魔法と技術が組み合わせられたような作りがいのある世界で、

クローネの純粋な優しさを感じる、テンプにとっても特別な物語でした。


テンプは島の防衛の役割をアンクルからロービートへ任せました。

ロービートは過去、主人である人間から強く固執された過去を持っており、

そのような主人の感情が自分の体にも染みついているロービートにとって

「自分を犠牲にしてでも何かを守る」役目は性に合っていました。


そしてテンプは、今度はいちから、シャトンをつくりました。


動力のいしは、埋められていた放射性廃棄物を元にした人工的な電池で、

このいしによって動く時計を発動機を中心に、体が動くようにしました。

この電池は島の地下に眠っている放射性廃棄物と共鳴すれば島に大きな動力をもたらす存在です。

シャトンの体は、島に散らばっていたごみからとった部品を一つずつリペアして作りました。


そして目覚めたシャトンに、テンプは時計づくりを教えました。

シャトンは人形でありながら、自分と異なる人形を作れるようになりました。


テンプ、シャトン、ロービートは、次々と島や友人たちを作っていきました。

街灯を立て、鉄道を敷き、音楽があふれ、噴水には豊かなオイルが湧きました。


作られる人形たちは、必ず人間に使われていた記憶を持っていました。

シャトンはそのルーツから、島に来る前の記憶があまりない人形でしたが、

物腰柔らかく穏やかな性格で、時計店の店主として慕われました。


島がにぎやかになってきたころ、テンプはクローネを島に呼ぶようになりました。

泣き虫なクローネは、夢見ていた空想の島を心の底から愛しました。

景色を味わい、五感を描いては、また新しい物語を書きました。


テンプはいつしか、子供のクローネに

「空想でも、物語には価値がある」という想いをこめた

作品として――しまを作っていたのでした。


しかしテンプには、もうじき100年が過ぎることがわかっていました。

この土地は元々ゴミ捨て場――時が来れば、役所の人間が

防護服に身を包んでやってくることは明らかでした。


クローネは成長し、はぐるまじまにも通わなくなりました。

島に残っていたオイルも、底が尽きようとしていました。

住人は夜がくる毎に、ひとりふたりと道端で眠りにつくようになりました。

テンプはその頃から、原因不明の病にかかっていました。


もうすぐ時が来ること、そして皆で安らかに眠ること――

住人たちにそう伝えて、テンプはこの世を去りました。


シャトンが体の中に放射性物質がある事実を知っているのは、

テンプ、ロービート、シャトンの他には、スミアしかいませんでした。


病院で計量器具として使われていたスミアは、人体に関する知識と勘を持っていました。

島の状況から放射能をもつ土地と気づき、ふとしたことでシャトンのいしのルーツにも気づいていたスミアは、

放射線による免疫低下である可能性はあると考え、定期的に訪れるシャトンの線量を測定していました。


放射能の存在を知りながらも、クローネに兄の死の知らせを送ったのは、ロービートでした。

ロービートはクローネが来ることを信じ、毎晩港で待ち続けていました。


従順にテンプの言いつけを守るシャトンは、もうすぐ100年目になろうとする夜も

いつも通り、時計店で時計に触れていました。


クローネがシャトンの店を訪れた時――

シャトンは、ロービートの仕業であると確信しました。


しかしクローネにまた会えたよろこびには代えられませんでした。

クローネは自分達や島に、『心があれば』と願ってくれた存在でした。


クローネの『島を再生したい』という感情も止められず、

いつか島が止まることを感じ取っている一部の島の住人が

クローネを落胆させることを危惧してシャトンを止めても、ききませんでした。

道具としていけないこと、危険なことと理解しながらも、

シャトンは自分に意思が宿り始めていることを感じていました。


クローネの意思で、はぐるまのしまはまた、動き出そうとしていました。


そんななか、100年の時が来ようとしていました。

長い時がたち、もはやゴミ捨て島ではなくなっても、島は国のものです。


人形である自分や住人には、土地の権利を主張することもできない。

自分のいしにはまだ放射線のエネルギーがあり、地中に眠っている。

人が来た時、事故を起こせば……。

そしてまた、地中に収めれば……。


シャトンは自分の思考を信じられずにいましたが、

止めることもしませんでした。


メテオライトの研究結果を受け取ったシャトンは、

アンクルの仕組み、アンクルの動力――島から人間を守るいし――を知りました。


人間の強い感情は、時に乱数のような宇宙のルールも変えることもあります。

人間に長く使われ、大事に思われた道具は、必ずいしを持ちます。


では道具自身は、いしを作ることはできないのでしょうか。

――たとえにせものでも、人間を想う感情から、いしを作ることができたのです。


たとえがらくたでも、いしは、何かを動かす力を持ちました。


シャトンは住人たちが自分で生み出したいしを借り集め、

これを動力に動く時計で、アンクルを復活させました。


目を覚ましたアンクルは、島にたった一人のクローネを保護し、

緊急脱出させました――。


そこで、ちょうど100年でした。


放射性物質が半減期を迎え、人間が上陸できるようになった最初の夜でした。

アンクルは停止し、島の時計は止まり、住人たちは眠りにつきました――

――シャトンだけは、眠りませんでした。


シャトンのいしは、同じ願いを持つクローネのいしでもありました。


もう一人、ロービートも目を覚ましていました。

ロービートのいしは、ずっと昔から、主人のいしでした。


2人の「人間のいし」は、

しかし、2人自身のものになっていました。


2人はすでに、人形と呼ぶべきではないかもしれません。

シャトンもロービートも、その歪みを理解していました。


時計塔は島の中心にありました。

針のない島の中心で、いしのない時計塔はただただ、人間と同じ時間を刻んでいました。


シャトンは、時計塔のいしをはめ込んでいきました。

時計塔のいしは、島のいし――。

島の底に眠る、シャトンのいし。


共鳴する感情の中で、全てを飲み込むような速度で、誰にも止められないような力で、

シャトンのいしが育ち、島を飲み込もうとしたとき――。


歯車がかみ合う音がしたといいます。


――このおはなしは、ここでおしまいです。












そのあとのお話を、少しだけ。


時計の音でいっぱいだったシャトン時計店は、もうずいぶん静かになりました。

そのかわり、人形たちの声や、歩く音がにぎやかになりました。


作品を売って得たおかねで、ゴミ捨て島に住むことを決めたクローネは

それからずっと、大事なはぐるま島の物語を書き続けています。


美しい緑の巨大な水晶に囲まれた、不思議な機械の街で

シャトンは今日も、いろいろな時計を修理を続けています。





おしまい