おりこう





子供の頃からおりこうだった。


忘れ物は全然しなかったし、いつも先生のお気に入りだった。

試験という試験には大抵受かってきたし、勝負という勝負には大体勝ってきた。


運動もできたし勉強もできた。いつも2,3人の親友と数多の友人と好いてくれる異性がいた。

親は私をずっと自慢していたし、妹はずっと私のそばを離れなかった。


だから夜に洗濯をするようになったこととか、

人がいなければ口にても当てずに大あくびをするようになったこととか、

一人で大袋のポップコーンを平らげるようになったこととか、

そういう自分をまるで他人みたいに思う。


私は子供の頃からおりこうだった。

ぼさぼさの髪で乾いたランドリーバッグを担ぎ、月夜を見上げた。

物静かで、声が可愛くて、肌と髪と大きな目がフランス人形みたいだと言われてた。

黄色い月を見ながら、残りのポップコーンを口に流した。


私は歌いながら帰った。

私は子供の頃からおりこうだった。

曲はLA LA LANDのAnother Day Of Sunで、

二番の最初に歌うハンサムな男性が5才の私の初恋相手だった。

初めてキスの想像をしたのもその人だ。


この暮らしに不足もないし、追う夢もないのに、

私の声は切ないくらいによくのびていく。

映画や本を読んでも上手に現実に戻れる私なのに、

体がぬるい夜に馴染んでいく。


私は大声で歌った。

子供の頃からおりこうだった。

そんな歌をこんな夜に大声で歌うなんて、売れない若い役者になった気分だと思った。


走り抜けるバスは夢の中みたいに空っぽじゃないか。

なんだか作り物みたいなそらぞらしい月が光ってる。

私は大いに役者を演じようと思い、両手を月に差し出す。

夏風を吸う鼻の奥で、ポップコーンのバターが香った。

やっと舞台からおりた心地だ。

ランドリーバッグが肩からずりおちて、手のひらが月からこぼれた。


子供の頃からおりこうだった。