かもめになって





足が痛くならない靴は、週に2日しかはけない。


スニーカーで海辺を歩くといつも思う。

いつもよく晴れてる。水の香りがいい。広い海を飛びたい。

白くて細い翼を広げて、するすると渡りたい。


かもめになりたいんだ。

かもめになって……。


かもめになって……。

かもめになって。


それからどうしようかな。


「だいじょうぶ?」

反射のように一瞬で目の焦点があった。

年老いたプードルの散歩をしているおじさんが私をみていた。

「はい」

私は笑顔で答えた。


上々。


かもめになって。

かもめになって。


その先がやっぱりわからない。

かもめになって。

かもめになって。


別にいいだろう、絶望的な顔をして1人で海辺に立って考えても。

かもめになって。

かもめになって。


私が喩えかもめになっても、私はずっと「かもめになって」と唱えてるだろう。


海を優雅に飛びながら、水面のきらめきに泣きながら、「かもめになって」を考えてるだろう。


かもめになって。

かもめになれたら。


「足痛えな」


無意識に呟いていた。

急な吐き気に襲われて、そのまま海に吐いた。

吐瀉物の雨のような音を聞きながら、

潮の生臭さと自分の消化物の臭いを嗅いだ。


靴を脱いでも足は痛い。

吐ききってもまだ吐き足りない。

遠くに来てもまだまだ遠くにいきたい。

かもめになったって不幸でいたい……。


かもめになって。

かもめになって。


遠く聞こえるおじさんの大声、犬のけたたましい鳴き声。

触らないで欲しい、静かにしてほしい。えづくたび耳鳴りがひどい。


水面が光る。

汚く泡立つ。


かもめになって……。


かもめになって。