ヨーグルト
ヨーグルトの蓋をはがすと、もう最近は一滴たりともヨーグルトはついていないんだよ。
科学技術の賜物なんだろうね。曇りない銀色は、けっこう見事な仕上がりなんだ。
そう思うから僕は毎朝、銀色のヨーグルトの蓋に見とれながらヨーグルトを食べてた。
それで、今日は小さな穴があいてたんだ。
端のほうに、ピリッと小さな亀裂が。
買うときも食べ始めるときも気づかなかったくらい、小さな穴が。
こんなこと初めてさ。僕はいろいろ考えてしまったよ。
劇薬混入とか、そういう言葉がとっさに脳裏に浮かぶ。
僕はもう半分、無差別殺人に巻き込まれた善良な市民なのかもしれないんだよ。
ニュースで何の個性も無い僕が紹介されて、日本全国から哀れまれたりさ。
でも僕は無事食べ終わって、こうしてスーツをきて革靴まではけてしまった。
しまいには駅まで歩いて電車にのって、職場に運ばれてる最中なんだよ。
そこにはまあまあろくでもない上司としょうもない仕事とまずい社食が待ってる。
嫌になるね。僕はもう半分、無差別殺人に巻き込まれた善良な市民なのかもしれないのにね。
こういう日だけ、車窓から見る曇りない快晴が輝いてたり。
とはいえ、今日1日、生きていたいね。