おかし
「ゆーくん。おかしたべる?」
ねーちゃんの友達、さゆりさん。
めちゃくちゃうるさいねーちゃんとは真逆で、ほとんど表情変えないし、喋らないってくらい無口な人。
なんで気が合うんだか知らないけど、うちにきたときは必ず俺におかしをくれるからいい人。
「……ども」
んまい棒をもらう。俺は基本的に喋るのが苦手なだけ。長い会話できない。
さゆりさんは俺の頭をなでなでしてから階段を上っていく。
……犬じゃないんだから。
さゆりさんが来てるっぽい。あがってくと、ねーちゃんの部屋があいてた。
「ゆーくん」
また真顔のさゆりさんが出てきて、俺の手をとった。
「おたべ」
干し梅かよ。近所のおばあちゃんかよ。
「ども……」
さゆりさんが俺の頭を撫でると、ねーちゃんが痛ぇくらい俺の頭をがしがし撫でた。やめい。
「ゆーくん、これすき?」
さゆりさんが硬めのグミをぐみぐみしながら俺に見せた。
「すきっす」
そういうとたくさんくれた。10粒くらいくれた。全部頬張ると口一杯すぎて、お礼を言えなくなったんで、もごもご言っといた。
さゆりさんは何を考えてるかわからない顔で俺をなでなでした。
「ゆーくん、あげる」
さゆりさんが手作りのクッキーを袋から出した。
「どー……も……」
ちょっと待ってても手渡しされないから、口で受け取った。
さゆりさんは真顔で俺のしたあごをなでてくる。やめい、猫じゃないんだから。
「ゆーくん、これあげる」
スマブラで勝ってふりかえると、ソファで体育座りしてる(何故だ)さゆりさんがスネくらいの位置にじょがりこを持っている。
「ください」
「こっち」
基本的にさゆりさんは俺を呼ぶしかしないので、仕方なく這って口でもらおうとする。
さゆりさんはふっと、膝くらいにじょがりこをあげた。
「ざんねん」
さゆりさんの瞬きの少ない視線。
不思議な沈黙が流れる。
俺はさゆりさんの膝のとなりに両手をついて、口で受け取った。
ねーちゃんが階段をドスドス上がってくる前に、俺は元の位置に戻った。
ねーちゃんが電話で出ていった。
「ゆーくん。ほら」
またさゆりさんがポテチをさしだしてくる。
口で貰おうとすると、なかなかくれない。
位置がだんだん上がっていく。
ソファに手をついて、おっぱいの位置までいって、ありつくことができた。
頭を撫でられ、ポテチを噛みながらさゆりさんの胸を見つめる。
少し近づこうとしたら、なでなでの手が押し返してきた。くそ。くそっ、ちくしょう。
「ゆーくん、おかし、すきだね」
さゆりさんが囁くみたいに言った。蝋みたいに滑らかな指で、俺の顎を撫でる。
「うちきたらいっぱいあげる」
俺は首を伸ばして、さゆりさんを見上げながら、ポテチをのんだ。
「まじすか」
案外地味な部屋だった。
さゆりさんは当たり前のように、俺を床の座椅子に座らせ、自分はベッドに座る。
「ゆーくん、ほら」
ホワイトチョコで俺を釣るさゆりさん。釣られる俺。お、今日はもっと上か。上。え、そんな上?そんな?……。
「きゃ」
「わっ」
バランスをくずしたさゆりさんはベッドに倒れ、覆い被さるように倒れこんだ俺は、すんでのところで手をついた。
至近距離のさゆりさん。
女子の匂いがする。腕、細いな。
瞬きの少ない視線。長い睫毛。
さゆりさんの持つ、ホワイトチョコ。
……不思議な沈黙が流れる。
黙って見つめていると、相変わらずポーカーフェイスのさゆりさんは視線を遮るようにチョコレートを顔に……。
……。
……鼻にのせた。
いや鼻かーい。
口じゃないんかーい。
俺は黙って、さゆりさんの鼻の上のチョコをもらう。
ふりをして、鼻に軽く噛みつく。
「いたい」
小声の文句は、微かに含み笑いだ。