ベーコン





塊のベーコンをカゴへ入れレジへ行進する。

袋詰めする私の腕の華奢な時計は23時だ。


玄関先に荷物を全部落っことす。

ベルトと時計から体を抜く。

セーターとブラを洗濯機に突っ込む。


まな板のうえにベーコンをごろんと転がす。

包丁の刃でざくんざくんと分厚く切る。

フライパンに全部入れて火をつける。

ベーコンの音と匂いと味は心強いものだ。


昔の友達が、脳裏でヒッヒッと笑った。


――夜中にベーコン焼いてんの。だめじゃん。


何が言いたい。これの何がだめなのか。


ごはんのパックをレンジにいれ扉を閉じる。

表面が黒くカリッとしたベーコンを裏返す。

脂が跳ねる。肉が艶めく。縮んで色付く。


――夜中のポテチの100倍、重罪だよ。死刑だ、死刑。


おお、ならやってみろ。裁いてみろ、私を。


私はベーコンを菜箸でつまみ、引き上げる。

黒い焦げが、溶けた脂でつやつやと光る。


裁いてみろ、この私を!


そのベーコンに歯をたて、噛みきる。

ぶるんと肉が裂け、口内に脂が溢れる。

パックのふたをひん剥き、湯気の立つ米を口に入れる。


旨い。

強く、旨い。


私は獣のように塊を半分平らげた。

賞金首の海賊のように歯を磨いた。

ローマの英雄のように服を脱ぎ捨てた。


敵を前にした今日に罪など存在しない。

肉を食べて寝る。これは勝利の糧だ。

さあ行かん、後は明日へ進軍するのみ。


寝巻きの私は布団を蹴りあげて飛び込んだ。

裁いてみろ、この私を!