10粒



見回ってると、男子生徒がサッと何か隠した。

一応講師だから、出しなさい、と人差し指で机を叩いた。

くしゃくしゃのメモ。私の名前。

開くと一粒のチョコがあった。

意図を掴めないまま彼を見ると、彼も私を見ていた。



電車に乗るも、彼の横しか空いてない。

彼はまた書いていたメモを隠した。

横に座る。彼は拳を膝に置いてる。居心地が悪くて寝た。

起きると鞄の上に丸めたメモがあった。

今度は彼の名前と、洋酒の匂いのチョコだった。



提出次第、自由退出可。

彼は一人残り、メモを左手で丸めてる。

講師の私に向かって、人差し指で前の席の椅子を叩いた。

それは手品だった。ただのメモから、いちごのチョコが出てきた。

好きです、と書かれたメモから。



彼はその風変わりな筆談で私を食事やデートに誘った。

次第に気に入ってきた。愛らしい手品だ。

種を聞くと彼は困り顔で笑い、丸めたメモを私に突き出す。

柑橘の飴入りのチョコが、秘密です、という文字の上で転がる。



今週は休講。

なのに彼は講義室で一人待っていた。

何故いるの、とからかってしまった。

彼も笑いながら、メモを破る。

あなたもでしょう。……ごもっともな言葉と、

子供の好きそうなヌガー入りチョコを貰ってしまった。



彼は私と筆談するが、友人達とは喋る。

食堂では彼等の声が届かない遠い席を探す。

背後から伸びてきた手がメモを置いた。

遠くなる足音。

メモを開き、文字を撫でる……また夕方に。

チョコを口に含むとシナモンが香る。



風邪気味で教壇に立つ日、彼から風邪で欠席のメールがきていた。

キスをしてしまいすみません、という文面に苦笑する。

朦朧としていたのか、私の手にいつの間にか

ダークチョコがあったことを不思議には思わなかった。



彼が私に、贈り物をした。

10粒の宝石のようなチョコの詰め合わせだ。

いつもどこで買うのか聞いても、彼は困り顔で笑うだけ。

また、秘密です?

私が言うと、彼は私にチョコを咥えさせる。

そのまま私達はキスをした。



痴漢に遭いデートに遅れた。

彼に事情を話し始めてすぐ、私は場所を変えた。

それは彼の落とす涙がみるみるチョコになり、

雨のように歩道にばらまかれたから。

私は彼に抱きしめられて知る。

手品ではなく、奇病なのだ。



ベッドの上、彼は拳を膝に置いていた。

夢みたいな病気、と茶化すと

彼は私を強く抱き寄せ、囁いた。

言葉は体温で溶ける。

甘いのが溢れる。

シーツに擦れて汚す。

媚薬は充満する。

治らないでいい。

この夢のような病は。







ノベルゲームにしました。