わたあめ
ふわふわのベッドに腕が埋もれて見えない。
ぼーっと見あげる天井は、白いけど虹色。
透明の繊維が朝日を含んで、きらきらする。
生まれてからずっとそう。
世界は天井と同じ色をしてる。
ベッドも壁もタオルも、お皿も靴下も。
窓を開けると、隣の草っぱらがまっしろ。
道路もブロック塀も電柱も空もまっしろ。
生まれてからずっとそう。
ふわふわのシャワーヘッドから、わたあめが溢れて落ちてくる。髪に絡まるシャンプーもわたあめ。ボディソープもわたあめ。
身体中がうんと甘いにおいになる。
生まれてからずっとそう。
わたあめのTシャツとジーンズを着る。
傾けた白のコーヒーポットからわたあめが転がり落ちる。
白いスプーンでかき回すと、スプーンもコーヒーになって、カップもコーヒーになる。
私は両手ですべて一緒になってしまった虹色のコーヒーをもち、口にいれて唾で溶かす。
目が覚めた。寂しくなる。
またドアを、ふわりと開く。
夢であってほしい。歩くと風が甘い。
とてもとても甘くて、雲と空は同じ色だ。
世界中は素敵で優しい。
虹色で柔らかくて甘い。
そんな世界じゃないと、私が壊れてしまうとでも思っているんだろうか。
夢であってほしい。
夢であってほしい。
生まれてからずっと必死に願っている。
わたあめの世界で、私はたまに、静かに泣きながら歩いている。
ここには私一人しかいないから、子供のようになんて泣きたくない。
滴は、風をきる白のジーンズへ落ちる。
一粒の涙も、虹の光を含むわたあめになる。
透明の繊維が朝日を含んで、きらきらする。
生まれてからずっとそう。