どんぐり



昨日の台風でどんぐりがしこたま落ちていた。

晴天である。


小さいころ拾ったどんぐりには、大概虫が住んでいたなあ。

他の女の子たちは泣きそうな顔で嫌がっていたけれど、私は新聞紙の上でうねつく白い体を見つめて、うっとりと想像していたんだ。


どんぐりのなかに住む虫の私。

暗くて木と土の香りがする、誰にも邪魔されない小部屋。食べ物にも困らない。死んでも誰も気にしない。

つやつやしたどんぐりに収まる、シンプルで美しい生を謳歌した後は、そのまま土にかえり、他の命を育む。

なんて小さくて素敵な生き方だろう。


そう、台風の間、玄関の芳香剤について相方と嵐のような大喧嘩をしていた私は、

風が止んだとたん相撲のように部屋からほうり出されたものの(家賃は全てあちら持ちだから全うだ)、

精神病の彼氏を持って見事に精神病になった唯一の親友とも連絡がつかないし(いつ何時もTwitterはしているが)、

政治だか宗教だかわからない趣味で幸せそうな親類とも縁を切っているので、行く宛などない。


しかしまあ、ひとつのどんぐりを出た虫だ。

フランス人も服をろくに持たないという。鞄ひとつのこの身もコンパクトで大変よろしいのだ。

私はミスチルの歌をイントロから口ずさみながら、イチョウの並ぶ道を銭湯へ向かって歩きだしてみせた。


道にはどんぐりがたくさん。

空はまったく晴天である。