2020年MHB海外継承日本語部会年次会(2020年8月8日)のご報告
Tue, Aug 18, 2020 4:42 pm
今年8月8日・9日に開催されたMHBの大会と、8日に開かれた部会(年次会)のご報告をお送りします。いずれも初めてのオンラインの大会でしたが、どちらも例年にまさる多数の参加者があり、充実した発表が続いて、無事に終了しました。大会に合わせて8日の午後(日本時間)に開かれた海外継承日本語部会の年次会にも、時差の壁を超え、地域を超えて多くの方々がご参加下さり、貴重なご発表を得て、充実した会になりました。
<概要>
2020年MHB海外継承日本語部会
日時:2020年8月8日(土)、9日(日)
場所:オンライン(Zoom)による
テーマ:「日本語教育推進法の運動から生まれた絆をコロナ時代のオンライン活動につなぐ-欧州とアジアの現場から-」
<プログラムについて>
今年の年次会のテーマは、既報のように「日本語教育推進法の運動から生まれた絆をコロナ時代のオンライン活動につなぐ-欧州とアジアの現場から-」というもので、プログラムは以下の通りです。
・趣旨紹介(部会代表)
・各地の実践紹介
①フックス清水美千代(バーゼル日本語学校)
②根元佐和子(パリ南日本語補習校)
③三輪聖(ドイツ発複言語キッズ「チームもっとつなぐ」)
④明石智子・今寿美子(香港日本人補習校)
⑤岩間晶子・櫻井恵子(韓国継承日本語教育研究会)
概要をご紹介すると、①はスイスの教育庁の継承語教育の枠組みにおける日本語コース、②はフランスの小規模補習校における独自カリキュラムの継承語コース、③は複言語・複文化社会のドイツにあって日本にルーツを持つ子供の家庭を支援する先生方の活動、④は現地校の教育言語も家庭の言語も多様な香港にあって文科省認可補習校に開設された継承語コースの実践、そして⑤は、日本との歴史的なしがらみを抱える韓国で、孤立しがちな家庭や学校の連携を支援する継承日本語教育研究会の活動と、多様な形態の学校、組織からのご報告を頂きました。
欧州の継承語教育の根底には、ご承知のようにCEFRに基づく複言語・複文化の人権思想があり、今回のご発表では、それが3件の異なる現場で、どのように体現されているかという点が共通軸になりました。一方のアジアの2件では、政治・経済・社会が多様化し、流動的な国や地域にあって、政府認可の中規模補習校に独自の継承語コースを立ち上げられた工夫が紹介され、孤立しがちな家庭や継承語教室の支援にあたっておられる先生方のご苦労が浮き彫りにされました。
このプログラムからもお分かりの通り、5組の実践報告を1時間半に納めて頂くのは欲張った企画でしたが、ご発表者は、お一人の持ち時間が10分という制約の中で、それぞれの学校や組織の枠組から、学習者の言語背景の多様性、それにふさわしい適切なカリキュラムや活動の基盤となる冊子の内容まで、実践例を惜しみなく盛り込んでご紹介下さり、参加された方々からは、大きな参考になったというご意見を頂きました。特に、各地の実践の具体例が地域を超えて紹介されたことの意義は大きく、有用な情報を得たというご意見を多数頂いたことをご報告させて頂きます。
継承語教育の現場を背負う人は、独自の授業プランの開発はもとより、それを教える先生の確保や養成、保護者の啓蒙、家庭の支援、さらには学校の経理から運営まで、ありとあらゆる方面に気を配らなければならないのが現実ですが、今回の5件のご発表は、短時間とは言え、その全てに触れ、テーブルに上げる貴重な機会を作って頂くものでした。厳しい時間の制約の中で密度の高いご発表を下さった発表者の先生方、それを舞台裏で支えて下さった企画委員の先生方に心からお礼を申し上げます。
<今後の部会の活動>
上記のように、この年次会の目的は、各地の多様な形の継承語学校や組織の抱える課題をテーブルに上げることでしたが、秋以降の部会の活動では、この場で提示された課題をはじめ、継承語教育の現場に関わる多様なテーマを取り上げ、世界各地に分散される先生方が、オンラインを通じ、地域を超えて情報を交換し、アイデアを共有する場を作っていきたいと考えています。この7月に行った部員アンケートでは、回答をお寄せくださった方の実に7割が、「何らかの形で部会の活動に関わっていきたい」という意思表示をして下さり、本当に心強いことと思いました。秋以降も、各地の皆様から多様なご意見を頂きながら、現場のニーズに即した活動を進めていきたいと考えております。皆様のお力添えをどうぞよろしくお願いします。
MHB海外継承日本語部会(代表)
カルダー淑子