体脂肪率が高いナミハタの雄は、繁殖期間が長い

繁殖行動(回遊、なわばり争い、放卵放精等)にはたくさんのエネルギーが必要です。そのため、ある動物の繁殖パターンを理解するためには、その動物がエネルギーをどのように獲得して繁殖行動を行っているかを明らかにする必要があります。

エネルギーの獲得・配分パターンは、繁殖期間中に餌を食べないため繁殖行動に必要なエネルギーは事前に蓄える「Capital型」、繁殖期間中も餌を食べ続けて繁殖行動に必要なエネルギーを補充する「Income型」、そしてその「中間型」に分類されています。

サンゴ礁に生息するハタ科やフエダイ科の魚たちは、特定の時期に特定の海域に産卵のために集まる「産卵集群」を作ります。産卵集群を作る魚は、いつ、どこに集まるかが予測できるため、簡単にたくさんの魚が漁獲されてしまいます。そのため、これらの魚を保全・管理するために、世界中で様々な研究が行われてきました。しかし、エネルギーの獲得・配分の観点から産卵集群を作る魚の繁殖行動を調べた研究はほとんどありませんでした。

ナミハタは沖縄県の重要水産種であり、産卵集群を形成します。2012年に行った共同研究により、雄が雌よりも繁殖期間が長いこと、雄は雌に比べて繁殖期間に大きな個体差があることが分かりました(Nanami et al., 2014)。私たちは、雄のナミハタの繁殖パターンはCapital型であり、繁殖期間の個体差は事前に蓄えたエネルギー量によって決まっているのではないかと仮説を立てました。

本研究では、雄のナミハタにおけるエネルギーの獲得・配分と繁殖行動の関係を明らかにすることを目的に、次の調査を行いました。

1.繁殖期をまたぐ2ヵ月間、2~3日おきに市場で魚を購入し、脂肪量・タンパク質量・精巣の大きさ・胃内容物の有無を調べました。

2.繁殖に出かける・帰ってくるタイミングと繁殖期間を調べるために、発信機を魚につけて追跡しました。

3.1と2の結果を、代謝の公式を用いて解析し、繁殖回遊前のエネルギー量と繁殖期間の関係を調べました。

その結果、次のことが分かりました。

1.繁殖に出かけている間、体脂肪率は低下し続け、戻ってくる頃には0に近づいていること(図1a,b)。

2.繁殖に出かけている間も、産卵予定日前までは精巣が大きくなり続けること(図1a,d)。

3. 繁殖に出かけるまでは餌を食べるが、繁殖に出かけている間はほとんど餌を食べないこと(図1a,e)。

4.繁殖回遊前の体脂肪率が高い個体ほど、繁殖期間が長いこと(図2)。

図1.繁殖に出かけている個体の割合と脂肪量・タンパク質量・精巣の大きさ・胃内容物の有無の時系列変化。

図2.繁殖期間と回遊前の体脂肪率の関係。

すなわち、ナミハタの雄はエネルギーを事前に蓄えて繁殖期間中は餌を食べない「Capital型」であり、太った個体ほど長い時間を繁殖に費やしていると言えます。

では、繁殖期間が長いメリットは何でしょう?

ナミハタでは、雄が雌より先に産卵場に集まってなわばりを作るので、太った個体ほど先に産卵場に行って良いなわばりを確保できるのかもしれません。また、太った個体の中には、遅くまで繁殖に出かけている個体もいたので、たくさんの雌と繁殖することができるのかもしれません。

ちなみに雌はといいますと、繁殖期間に大きな個体差はなく、太った個体も痩せた個体も同じくらいの期間、繁殖に出かけていました(Nanami et al., 2014)。一般的に太った雌ほど卵を多く作ることができます。ですので、太った雌と痩せた雌で、産卵回数と産卵期間に差は無く、1回の産卵で生み出す卵の数に差があるのかもしれません。今回の結果からは確かめられませんので、今後水槽実験などで調べる必要があります。

一方、繁殖期間が長い個体ほど、産卵場に居る時間も長く、漁獲されやすいと考えられます。そのため、今回の結果は、選択的に太った雄が獲られている可能性があることも示しています。近年、選択的な漁獲の問題点が数多く指摘されているので、太った雄も保護するように禁漁の期間を決定する必要があるかもしれません。

ちなみに、体脂肪量ではなく体脂肪率が効いていたのは、次の理由によるのだと考えられます。

・蓄えたエネルギー量を代謝率で割った値が最大可能繁殖期間になる。

・基礎代謝率は体重の0.8乗に、運動代謝率は体重の1乗に比例することが知られている。

・繁殖期間の雄は活発に遊泳・縄張り争いするので、その期間の代謝は運動代謝率に近いと考えられる。

・よって、最大可能繁殖期間はエネルギー量(脂肪量)を体重で割った値、すなわち体脂肪率に比例するはずである。

Kawabata Y, Nanami A, Yamamoto K, Sato T, Kuwahara K, Koga M, Kawaguchi K, Yamaguchi T, Ohta I, Kawabe R, Nishihara G, Yagi M, Soyano K. Duration of migration and reproduction in males is dependent on energy reserve in a fish forming spawning aggregations. Marine Ecology Progress Series. 2015. 534, 149-161