素早い運動だけを記録する新規データロガー

「ボクサーの超高速カウンターパンチ」、「目にも留まらぬ早業でカードをすり替えるマジック」など、肉眼で観察できない素早い運動をテレビやネットで見るとワクワクしませんか。私は、学術的な理由を抜きにして、動物(もちろんヒトも)の素早い運動を見るのが大好きです。稚魚が高速で急旋回して逃げる様子や、大型の魚が超高速で突進しながら餌を吸い込んでいる様子を見ると「おー、すげぇ」と興奮します。これらの運動は肉眼や通常のカメラでは把握できないので、一般的に1秒間に500フレーム(普通のビデオカメラは30フレーム)の高速度カメラで撮影します。

さて、そんなマニアックな撮影が大好きなカメラ野郎の私ですが、自然の海や川で素早い動物を撮影することは中々できません。そんな時には、加速度を記録する機械(データロガー)を動物に装着する方法が役に立ちます。データロガーに記録された加速度を解析すると、何回尾鰭を振ったか、どの程度の急加速をする運動であったかなどが分かります。しかし、それにも問題があります。素早い運動を正確に把握するには、1秒間に100-500回は加速度を記録する必要があるのですが、そんなに細かく記録すると電池の消耗が激しくて、すぐに電池切れになってしまうのです。もちろん、大きな電池を積めばよいのですが、そうすると今度は大きすぎて魚に取り付けることができません。困りました。

そこで、私達は素早い運動が起こった時だけ加速度を記録するデータロガーをメーカーにお願いして作ってもらうことにしました。いつもは高加速を検知するセンサーだけが動いているスリープモードで、素早い運動が起きたら記録用の加速度計が立ち上がって記録するというものです。これで、約8gとかなり小さいけど約5日間も記録できるようになりました。ちなみに、同じ大きさのデータロガーでは、連続で記録し続けると数時間しかもたないので、相当に長くなったと言えます。

私達はまず、手で素早い運動を再現してこのデータロガーの性能をテストしました。そして、このデータロガーをマダイに取り付けて逃げる時の運動を記録しました。さらに、共同研究者らにお願いして、野外でこのデータロガーをヒラマサに付けてもらいました。その結果、大方素早い運動を問題なく記録できることが確かめられました。ただ、少し起動までにタイムラグがあったので、素早い運動が始まってから最初の0.01秒程度は記録できないことや、回転運動を調べる別のセンサー(ジャイロスコープ)は起動が極端に遅いので(0.1秒以上)、あまり使えないことも分かりました。

このように書くと、結構すんなり研究が進んだようですが、実際にはナミハタとヒラスズキが捕食する時の加速度を記録しようとしたけど、餌を中々食べてくれなかったり、機械を装着した影響か通常と異なる動きをしていたりと、成功よりも失敗の方が多かったです。ヒラスズキに関しては、10匹以上にこのデータロガーを付けて海に放流しましたが、結局1匹も戻ってこずです・・・。機械の開発でも、何度も機械の不具合があってメーカーとやり取りしたり、思いのほかジャイロスコープの起動が遅かったりと、かなり苦労しました。

そんな苦労もありましたが、無事この論文を世に出すことができて良かったです。しかも一流の国際誌に! そして何より世界レベルで優秀な共同研究者達に論文の原稿を見てもらってめちゃくちゃ勉強になったことと、このロガーを実際に使いたいと言ってもらえたことで、研究室のポスドク・学生達と心折れずに頑張って続けて本当に良かったなぁとしみじみ感じました。

似たようなデータロガーや発信機を使った論文が最近いくつか発表されていますが、自分達ほど丁寧にデータロガーのシステムを記述して、丁寧に検証実験をしている論文は無いと自信を持って言えます。

Nishiumi, N., Matsuo, A., Kawabe, R., Payne, N., Huveneers, C., Watanabe, Y. Y., & Kawabata, Y. (2018). A miniaturized threshold-triggered acceleration data-logger for recording burst movements of aquatic animals. Journal of Experimental Biology, 221(6), jeb172346.