関東雑草研究会の発足の経緯と意義

芝山秀次郎 佐賀大学海浜台地生物生産研究センター

(10周年記念講演(平成10年10月27日 関東雑草研究会第10会例会から))

[発足の経緯]

関東雑草研究会の発足の経緯については,すでに会報第1号などに述べられているとおりであるが,関東地域には,1989(平成元)年の本研究会の発足時まで本会の前身である「雑草防除研究者懇談会」があり,農水省,植調協会,全農,民間企業,大学および理研等における雑草防除関係の基礎,技術開発,行政部局等の研究者,担当者が自発的に参集して情報交換や検討の場を持ち,すでに15年位続けられていた.またそれとは別に,関東東山地域には都県の雑草防除関係者による関東東山地域雑草防除協議会があり,長い歴史をもつともに,現在にいたるまで継続して有意義に運営されているようである.しかし本研究会は,むしろ日本雑草学会の支部会的な観点から,都県関係者やその他各方面の方々をも含めて,関東東山地域の雑草防除に関心を持つすべての関係者が自由に参集しやすい場として,上記の「雑草防除研究者懇談会」の発展的解消をふまえた会として発意されたものであった.

そして1989(平成元)年4月の日本雑草学会第28回大会の際に芝山から近内,石塚両先生にご相談を持ちかけて賛意を頂いたことから始まり,それまでの「雑草防除研究者懇談会」を発展させ,且つ関東・東山各都県を対象地域とした雑草学会支部をめざす会として,各方面のご賛同を得て約30名による発起人会がもたれ,本研究会が発足したわけである。その際は,対象地域を示すために関東東山雑草防除研究会という名称とするかなど多々検討事項はあったが,当時の日本雑草学会会長の松中先生や役員の諸先生方,及びその他各分野からも積極的なご支援,ご賛同が得られ,同年9月28日につくば市の農業研究センターにおいて133名の参加者により第1回例会が開催されている。

当時の学会,あるいは雑草防除の現場では,水田用の一発処理除草剤の新開発,発展が次々と進められて研究発表も多く,全体的に雑草防除技術の効率化に高い関心があったころである.その中でこのように多方面からご支援,ご賛同が得られた背景としては,小生などの当時における情報不足もあったかもしれないが,とくに防除の現場における雑草繁茂の実態や問題化の状況がなかなか必要情報として集積されてないように感じられたことがあった。

もちろんその頃もすでに日本植物調節剤研究協会の地域検討会や関東東山地域雑草防除協議会,各県内の植物防疫等の諸協議会,あるいは農水省関係機関による地域推進会議等により種々報告,検討が行われていたのはいうまでもないが,いずれも限られた出席者や短い時間内の検討とならざるを得なかったのが実状ではなかろうか。またそれらの検討会は,目的からして当然ではあるが,重要な難防除多年生雑草を中心とした適用草種への新開発除草剤の有効性,適用性の検討などが主となるなどのため,一般的な農家レベルの防除管理の良し悪しや,適用すべき良い除草剤はありながら管理不足や栽培の粗放化で生じる雑草繁茂状況,あるいはそうした状況に合わせた除草剤処理法や防除技術の改善方策などについては,どうしても断片的な検討に止まっていたように思われた。

そうした情報交換を行いやすい場をつくるという動機や,他方ではやや気楽な研究交流の場がほしいというご意見など,期せず一致して本研究会の発足にご賛同が集まったというのが経緯といえよう。

その場合当時としては,各人が年々支払っている各種の全国的学会,支部会,研究会や協議会の会費も積算するとばかにならない金額となるという事情があって,発足時に固定会員を定めると会員となり得る人は雑草,雑草防除や除草剤開発研究の専門担当者に限定されてしまい,かえって雑草防除の現場情報に近い関係者や周辺分野の技術者,研究者は,関心があっても直接会員にはなり難いのが実状と思われたため,取りあえず固定会員制ではなくスタートしたわけである。この点は,現在の発展状況に合わせて再検討すべき時期がきているようにも思われる。

[発足当時における意義]

こうした経緯で出発した本研究会であるが,上に述べたように雑草防除の現場情報,新薬剤の地域への適用法や解説,雑草や除草剤に関する基礎研究のかみ砕いた紹介などを含めて,情報交換や交流を行う場として,この研究会の発足は意義があったと思う。一方発足の段階では,各都県の方々には植調協会の地域検討会や関東雑防協議会と類似した研究会的な誤印象をもたれた方もあるかと推測するが,学会的な立場からの情報交流の場としたいという真意はご理解いただけたと判断している。またそういう観点から,発足当初に何度か各県の担当者の方々に県内の雑草防除問題について話題提供いただけたことは良かったと考えている。

[他地域からみた本研究会への期待]

現在小生は,九州地域において九州雑草防除研究会に属しているが,そうした眼から見ると関東雑草研究会の会員の皆様の人材の豊富さ,多様な話題提供内容,数多くの発表課題数など,まず羨ましさが先に立ってしまうのが本音である.ただそればかりでは仕様のないことであり,むしろ本研究会への期待は,ここで中心的に活動している皆様が一方では母体の日本雑草学会においてもそれぞれ主要な役割を果たしておられるわけで,本研究会のエッセンス的なシンポジウムや新研究情報等は,是非とも将来は日本全国の雑草学会会員や防除関係者等へも公開して,他地域からも希望により傍聴に参加しうるような方策を今後ご検討いただけるとありがたいと感じた次第である.

本研究会は,回を重ねるごとにますます盛況となっておられ,発展しつつあると見受けられる.そして情報交流の中身もかなり基礎的なものが増え,また学会支部としての研究発表も始まっている.これらが相まって新たな交流へと有益な機会を創られているのを見ると,これが現在の例会に参加される皆様の関心の方向に一致していることの現れと思われ,今後とも現会員の皆様の創意と熱意で大いに様変わりして,時宜を得た発展をしていかれることを願うところである。現会長の竹内先生が前号の巻頭言で述べておられるように,情報交換と交流を進める場として,本研究会はますますその利用価値を高めていただきたいと考えている.

(関東雑草研究会報 第10号 より転載)