このたび、医療行動分析学研究会の代表世話人を拝命いたしました大阪医科薬科大学の飛田伊都子です。 本研究会の発足から10年を迎えた節目に、代表世話人という新たな役割を担わせていただくことになり、 大変光栄であると同時にその責任の重さを痛感しております。
本研究会は、医療のさまざまな現場において、人の行動に焦点を当て、行動の理解と支援に関する実践と研究をつなぐ場として、2015年に有志の専門職が集い、設立されました。医療・看護・リハビリテーション・福祉・心理・教育など、背景も所属も異なる多様な実践者・研究者が集まり、立場や専門の垣根を越えて学び合う、そうした学際的かつ実践的な知の交流の場として、回を重ねるたびに多くの刺激的な知見が交換されてきました。
この10年間、皆様をはじめとする多くの方々の熱意と献身的な取り組みによって、着実な歩みを重ねてきた本研究会ですが、活動のさらなる発展と継続的な運営体制を見据え、このたび世話人会を正式に発足し、その中に代表世話人を置く体制を新たに整えました。私は、その初代を務めさせていただくこととなりました。
医療現場では、治療方針の理解・受容、生活習慣の変容、リハビリテーションの継続、認知症や精神疾患に対する支援、多職種間の連携、医療従事者の教育など、行動を軸にした複雑で多層的な課題が日々発生しています。こうした課題に対して、私たちは科学的な方法論に基づき、人の行動を精緻に捉え、より良い行動の選択肢と環境をともに設計していくことが求められています。
行動分析学(Behavior Analysis)は、B.F.スキナーによって提唱された「行動は環境との相互作用の中で形成され、結果に応じて変容する」という考え方に基づいた学問体系です。この理論は、個人の性格や意志といった捉えにくい内面に頼らず、観察可能な行動とその文脈に着目することで、再現性と実践性を兼ね備えた支援の方法論を提供します。私は、この行動分析学の枠組みは、医療現場の現実的で継続的な問題解決に資すると考えています。
医療行動分析学研究会では、こうした理論を「知識」として学ぶだけでなく、実践現場と行き来しながら、新たな知を創出し、 現場に役立つかたちで還元していくことを重視してきました。そしてこれからも、学際的・実践的な知の交流の場として、異なる専門性や実践経験を持つ人々が出会い、語り合い、支援の本質を再考し続ける場でありたいと考えています。
今後は、研究会の開催や研究成果の共有、若手研究者・実践者の育成、実践知と理論知をつなぐ活動の継続など、さらに開かれた研究会を目指してまいります。
皆様とともに、学びと実践の循環を育みながら、医療における行動理解と支援のあり方を深めていければと願っております。
今後とも、本研究会への温かいご支援とご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
2025年7月29日
医療行動分析学研究会
代表世話人 飛田伊都子