各論文について取り組み始めた動機や愚痴等を雑多に書いていきます.
1. Weierstrass representation for semi-discrete minimal surfaces, and comparison of various discretized catenoids (with Wayne Rossman), Journal of Math-for-Industry 4B (2012) 109-118 (10 pages).
Müller-Wallnerによって定義された3次元ユークリッド空間内の半離散極小曲面に対するWeierstrassの表現公式を明示的に与え,新しい半離散極小曲面を構成した.応用として,半離散双等温曲面とは限らない半離散極小曲面や離散極小曲面の中でも特に回転面の比較を行った.この論文を通して,Müller-Wallnerの意味での半離散曲面が数学的に取り扱いやすいであろうということを感じ,その後の研究の方向性を決めるきっかけとなった.初めての論文だったのでいろいろと勝手が分からず,指導教員のRossmanさんには色々と迷惑をかけてしまった.
2. Discrete maximal surfaces with singularities in Minkowski space, Differential Geometry and its Applications 43 (2015) 130-154 (25 pages).
3次元ミンコフスキー空間内の離散双等温曲面について研究を行い,その中でも離散極大曲面と呼ばれるクラスの解析を行った.なめらかな極大曲面は特異点を持つのだから離散化した場合にも何かしらの特異点を持っていてもおかしくない,という考えのもと特異点を定義し,詳しく解析した.特異点をどのように定義するかがずっと問題だったが,(現段階で)最も良い定義は六甲道でタイ焼きを食べながら地面のタイルを眺めていたら思い付いた.離散曲面の特異点を明示的に定式化したのはこの論文が初めてであり,特異点を持つ曲面の離散化に取り組むことの重要性(ネタの豊富さ)を教えてくれた気がする.
3. Bour surface companions in space forms (with Erhan Güler and Shotaro Konnai), Proceedings of the International Conference on Geometry, Integrability and Quantization 17 (2016), 256-269 (14 pages).
Gülerさんが神戸に滞在している間に取り組んだ.3次元ユークリッド空間内のBour型曲面と呼ばれるものを3次元空間型内で構成し,3次元ミンコフスキー空間内のBour型曲面のいくつかの例が代数的な性質を持つことを数値計算を用いて示した.3次元双曲空間,ド・ジッター空間内のBour型曲面が代数的かどうか調べていないので全く面白い内容ではないが,Gülerさんは甚く気に入ったらしい.これについて自分は全く講演する気はないし,研究を継続するつもりもないので,Gülerさんが継続してくれると期待している.
4. Semi-discrete maximal surfaces with singularities in Minkowski space, to appear in Springer Proceedings in Mathematics & Statistics (18 pages).
実は2.よりも先に考えていたこと.3次元ミンコフスキー空間内の半離散双等温曲面を定義し,その中でも半離散極大曲面と呼ばれるクラスの解析を行った.半離散曲面は曲線の列なのだから,「半離散極大曲面の特異点=ある曲線の特異点」と考えていたのだが,それでは不十分であることが2.の経験から分かり,半離散極大曲面に現れる特異点をちゃんと定式化した上で解析した.その後,与えた結果が当初考えていた曲面のクラスから,その随伴族にまで結果が拡張された.論文の短さに比べて,その裏では割とハードな計算がされているので読みにくいかと思う.
5. Semi-discrete surfaces of revolution, to appear in Kobe Journal of Mathematics (14 pages).
Müllerさんが半離散平均曲率一定曲面について論文を書いていたので読んでいたところ,半離散平均曲率一定曲面の例が全くないことから,具体例を作ってみようというところから始まった論文.結果的に平均曲率一定とは限らない,与えられた平均曲率を持つ回転面を具体的に構成した.これだけでは結果が弱いと思い,半離散曲面に新たに特異点を定義し,半離散ガウス曲率正一定回転面に現れる特異点を解析した.グラフィックスを描くときに回転軸の位置を間違え,半離散ガウス曲率負一定回転面が出来たことにはかなり動揺したが,直川さんとHertrich-Jerominさんからコメントを頂き慌てて修正した.
6. Discrete linear Weingarten surfaces and their singularities in Riemannian and Lorentzian spaceforms (with Wayne Rossman), to appear in Advanced Studies in Pure Mathematics, Vol. 78 (28 pages).
Hoffmann-Rossman-佐々木-吉田において3次元双曲空間内の離散Bryant型線形Weingarten曲面が紹介され,離散平坦曲面の特異点が解析されたが,離散Bryant型線形Weingarten曲面の特異点が解析されておらず,そもそも特異点の定義が曖昧だと思っていた.実際に特異点を特定することは非常に難しく行き詰っていたが,少なくとも特異点の候補になり得るものを特定でき,特に離散平坦曲面や3次元ド・ジッター空間内の離散平均曲率一定1曲面などの特別なクラスに現れる特異点を詳しく解析した.取り組み始めてから1か月程度で大体の結果は出ていたのだが,所用で立て込んでいた結果書き終えるまでに1年半もかかってしまった.
7. Weierstrass-type representations for timelike surfaces, to appear in Advanced Studies in Pure Mathematics, Vol. 78 (22 pages).
当初は離散時間的双等温曲面の理論を紹介することを目的として書き始めた論文.研究集会の趣旨に合わせて,可積分系の理論を用いて,3次元ミンコフスキー空間内の時間的共形極小曲面と3次元AdS空間内の時間的共形平均曲率一定1曲面に対するWeierstrass型の表現公式を導出し,特異点が現れるための判定条件を明示的に書き下した.時間的共形極小曲面の結果は2012年の高橋さんの結果と完全に一致していることを後になって知ったが,証明法は異なる.3次元AdS空間内の時間的共形平均曲率一定1曲面に関する結果は見たことがないのでこの結果は新しい.最終的に本来の目的は完全におまけ扱い(付録)となってしまった.
8. Construction of discrete constant mean curvature surfaces in Riemannian spaceforms and applications (with Yuta Ogata), to appear in Differential Geometry and its Applications (19 pages).
修士の頃,Hoffmannさんによって導出された,3次元ユークリッド空間内の離散平均曲率一定曲面に対するDPW法について修士論文をまとめ,そこから永らく放置していたが,緒方さんがこの結果を3次元リーマン空間型に拡張できないかと聞いてきたので何も考えず出来ると思うと言ったら大筋を示してきてくれた.細かい点を修正し,離散平均曲率一定曲面の平行曲面に現れる特異点を解析した.この研究は緒方さんが貢献したところが大きいのだが,Hoffmannさんの"読めない"論文を,少なくとも読める修士論文に書き換え,さらに特異点を解析したという点で自分もちゃんと貢献はしている.
9. Semi-discrete constant mean curvature surfaces of revolution with singularities in Minkowski space (with Christian Müller), Proceedings of the International Conference on Geometry, Integrability and Quantization 18 (2017), 191-202 (12 pages).
4.と5.の続き.3次元ミンコフスキー空間内の半離散曲面の特異点を定義したのだから半離散平均曲率一定曲面でも同様の議論をしたいと思っていたが,一般の半離散平均曲率一定曲面の構成は難しいので,まずは回転面から始めようというところから始めた論文.4.で定義した特異点は(若干修正を加えれば)半離散平均曲率一定曲面とも相性が良さそうだということが分かった.Müllerさんにお願いして美しいグラフィックスを描いてもらったので,これまでの論文の中では群を抜いて図が綺麗.また共同研究を行ったことで日本-オーストリアの2国間交流事業にも多少の貢献ができたと思うのでほっとしている.
10. Discrete constant mean curvature surfaces, integrable equations, and singularities, in preparation.
可積分系の研究集会Symmetries and Integrability in Difference Equations (SIDE 12)の講演内容を自分用にまとめている(i.e. どこかに投稿する予定は全くなし).門外漢が研究集会に参加して講演する機会を与えていただくのは大変ありがたいことであり,同時に(興味を持っていただけるように講演を組み立てるという点で)とても大変なことである(講演が成功したとは言っていない).離散sinh-Gordon方程式の解の振る舞いが離散平均曲率一定曲面が特異点を持つための条件と対応しているのが個人的には興味深い.
11. The DPW method for discrete constant mean curvature surfaces in Lorentz-Minkowski space, in preparation.
8.に取り組む前から考えていた内容.そもそも8.自体がこの論文のための準備論文だった.3次元リーマン空間型内の離散平均曲率一定曲面と同様に離散DPW法を導出し,具体例を構成するとともに現れる特異点を解析した.離散極大曲面の場合とは異なり,離散平均曲率一定曲面は特異点を持つこともあれば全く持たない場合もあり,これが個人的には興味深い.諸事情により,共同研究から単著に変わった.
12. (Tentatively) Discrete timelike minimal surfaces and discrete wave equations, in preparation.
7.の最後に紹介した内容の詳細.離散双等温曲面があるのだから,離散時間的双等温曲面の理論もきっと展開できるはずと思い取り組み始めた.離散双等温曲面の場合とは異なり,複比の情報は曲面の形状を完全に決定するわけではない.応用として,パラメータの取り換えを行うことにより,別種のWeierstrass型の表現公式を導出することができることが分かり,これにより離散波動方程式の特別な解によって離散時間的極小曲面を構成できることが分かった.この論文に書く予定の内容を,時間的曲面の専門家であり,最近離散曲面の研究をなさっていらっしゃるMagidさんにメールで報告したところ,大変興味を持ってくれたのが個人的には嬉しかった.
13. Trivalent maximal surfaces in Minkowski space (with Wai Yeung Lam), to appear in Springer Proceedings in Mathematics & Statistics (16 pages).
Lamさんが三価グラフの極小曲面についてプレプリントを書いたのをarXiv上で知り,その後Lamさんが日本に1週間滞在していたときに2.の内容と組み合わせることが出来るはずだと提案したことにより共同研究が始まった.始めはLamさんの論文の内容が全く分からず,途中で頓挫するかと思っていたが結果的に上手くいった.やはり論文を書いた本人に聞くのが内容を理解するための一番の近道.特定の三価グラフの極大曲面に現れる特異点だけでなく,その随伴族の特異点の特徴付けも出来たので,そういった点でこの研究は面白い.この論文で新たに定義した頂点法方向という概念は一般の離散曲面にも適用できる可能性があるので,まだまだ伸びしろのある研究だと思う.
14. Semi-discrete timelike isothermic surfaces, in preparation.
12.の継続課題.現時点では半離散的になると12.ほど興味深い問題ではなくなるが,それでもなお面白い内容だと思う.半離散波動方程式との関連を模索中.
15. Semi-discrete linear Weingarten surfaces with Weierstrass-type representation and their singularities in Riemannian and Lorentzian spaceforms (with Wayne Rossman), to appear in Osaka Journal of Mathematics (23 pages).
6.の半離散版.3次元双曲空間及び3次元ド・ジッター空間内の半離散曲面はこれまでに与えられていなかったのでその点でこの研究は面白いのかもしれないが,ただの離散版の真似のように思えるのでそれだけではあまりにもつまらない.最も面白いのは,離散的な場合と比べると一方のパラメータが連続的な分だけ特異点の解析が離散的な場合よりも複雑になる点である.この研究は5.の内容を再整備し,5.で捉えきれなかった半離散曲面の特異点を解析したものである.よく分からなくても実験を繰り返すことは重要.
16. The DPW method for semi-discrete CMC surfaces (with Wolfgang Carl), in preparation.
8.をCarlさんに送ったところ興味を持ってくれたようで.半離散平均曲率一定曲面に対するDPW法の導出をなさろうとしていた.いろいろと細かい部分に口をはさんでいたら共同研究という形になった(はじめから共同研究にしてくれていたが…).3次元ユークリッド空間内の半離散平均曲率一定曲面に対する結果はほぼ出揃ったので,結果を3次元リーマン空間型に拡張し,さらに平行曲面に現れる特異点を解析することが残された課題である.Carlさんと共同研究を始めることが出来たのは,日本-オーストリアの2国間交流事業があったからであり,メンバーに加えていただたことに非常に感謝している.
17. Discretization of isothermic surfaces in Lie sphere geometry (with Joseph Cho, Kosuke Naokawa, Yuta Ogata, Mason Pember and Wayne Rossman), preprint (268 pages).
離散双等温曲面に関する教科書.ただし目的の離散曲面の紹介に行き着くまでが長い.主な目的はBobenko-Pinkallによって提唱された離散双等温曲面の理論及びBurstall-Jeromin-Rossmanによって与えられた離散線形ワインガルテン曲面の理論を紹介することである.後者の研究は非常に広いクラスの離散曲面を対象としているが,内容を理解するのが非常に難しい.この点を補うべく始まったプロジェクトである.これらの研究をもとに,今後はより具体的な離散曲面の構成・解析が課題となると考えられる.
18. 離散曲面の微分幾何 (with Wayne Rossman), preprint (20 pages).
「離散曲面」と「微分幾何」というのは,全く相性が良いとは思えないが,それでもその2つの研究対象のインタラクションは近年活発に研究されている.極小曲面の離散化に焦点を当てて,最近の研究の動向を説明した.もともとRossmanさんと共同で執筆する予定だったが,何故かRossmanさんだけに執筆依頼が届き,自分のもとには届かなかった.最終的にちゃんと自分も記事の執筆に携わることとなった.こういったものをまとめておくのは,将来この分野の勉強を始めたい学生・研究者にとってよいことかと最近よく思う.
19. Discrete Weierstrass-type representations , to appear in Discrete & Computational Geometry (with Mason Pember and Denis Polly, 28 pages).
これまでに色々と離散曲面に対するWeierstrass型の表現公式について研究をしてきたが,ある意味これまでのまとめの論文.様々な離散曲面に対するWeierstrass型の表現公式は,離散オメガ曲面に対するオメガ双対を取ることで得られるというのが主結果で,従来の研究はこれで包括的に取り扱うことが出来た.平坦接続(の1パラメータ族)の使い方がようやくしっくりときた気がする.その副産物として,曲面の微分幾何学者にとってよりフレンドリーな3次元双曲空間,ド・ジッター空間内の離散双対平均曲率一定1曲面に対するWeierstrass型の表現公式が導出できたのが個人的には感慨深い(その裏の「醜悪な」計算は一切記載していないが...).