昨今(2020年)の新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて,2020年度前期および後期の一部の授業は遠隔授業となった.遠隔授業は初めての経験なので(というか,ほとんどの人にとっては初めてのはず),どのように進めていくのかを色々と試していくことにした.例の如く誰が読むのかは分からないが,一つの実践例(試行錯誤)をまとめることにした.ただし目的はあくまでも一つの実践例およびそれに対する学生の反応の紹介であり,このようにすべきであるということを述べるつもりは一切ない.またその他の遠隔授業の方法については一切知らないため,どの方法が一番よいかという比較もできない.何の変哲もない実践例の紹介であるため,どのようにすればより良くなるかをどなたかご教示いただきたいと考えている.
2020年前期は大阪工業大学において微分方程式Ⅰと線形代数学Ⅰの授業を担当した.大阪工業大学ではGoogle Classroomを活用して遠隔授業を実施しているが,これが学生への連絡事項の伝達や映像配信をはじめとする諸々のプラットフォームとなっており非常に便利である.遠隔授業では何かしらの形で動画を配信するというのが主な形式で,双方向形式にすると通信量が増える(こちらのリンク集参照)が,オンデマンド方式にすると学生の意見を反映せずに授業を進めていると感じたため,自分の場合は両者の中間に位置する,Google Meetを用いてのストリーミング配信,いわゆるリアルタイムで動画を配信するスタイルで授業を実施している.授業の流れは以下の通りである.
ストリーミング配信での授業内容の解説(40~50分)
出席問題および問題演習の時間(30~40分)
リクエストがあればストリーミング配信での問題解説(残りの時間)
現時点(2020年10月時点)では以下の点に気を付けてストリーミング配信を行っている.
対面授業が実施できないため色々と解説したくなる気持ちもあるが,そうすると何を伝えたいかを明確にならないため,1回の授業にあまり多くの内容を詰め込まないようにしている.個人的には話が冗長になっていると反省しているが,意外と学生には好評だったようである.一方でもっと問題の解説を行ってほしいというリクエストやもっと問題を解く時間がほしいという意見もあったため,必ずしも全ての学生にとってこのスタイルがよいとは限らない.
上記と関連して,(少なくとも自分は)学生の意見をなるべく授業にも反映させたいと考えている.対面授業の再開の見込みがまだ立たない(2020年11月より対面授業再開,すぐに遠隔授業を再開)状況では,学生が理解できているかを直接確認できないため,適宜アンケートを取り,出来る限りリクエストを反映させるようにしている.教員が学生の意見に耳を傾けるだけでもかなり好印象のようである(というか自分の場合は確かめないと不安になるのだが...).
なお「耳を傾けるだけ」というのは語弊があるかもしれないので念のため述べておくと,ちゃんとリクエストを実現できるかどうか検討することは必須である.自分の場合は学生からの意見にはフィードバックを返すようにしている.
多すぎず,かつ少なすぎない程度に課題を出題することにしている.具体的には,予習復習等も含めて1週間に1時間半から2時間半ほど費やしてもらうように分量を調節している.少ないように見えるかもしれないが,これくらいが妥当だと考えているし,積み重なるとかなり負担が大きくなることは想像に難くない.これまでに課題量が多すぎるといった不満は生じておらず,また自分のペースで復習したい学生も多いようなので特に問題はないかと思われる.
学生は多くの授業で配布資料を印刷しなければならないため,資料の印刷枚数は多くない方がよい.そこで授業のノートをコンパクトにまとめて授業開始前に配布している.これにより印刷コストは削減できたが,同時にメモ書きするスペースがないという意見を受けて,余白を大きくした.その結果ページ数が増えてしまったので,1ページあたりのページ数を増やす(A4用紙1枚に2ページ印刷する)などの工夫が必要である.
教員が黙々と進めるのも悪くはないが,なるべく身振り手振りを大きくして話をするように心がけている.また,なるべく強調したい箇所については抑揚をつけて話をするように心がけてはいるが,これは必ずしも出来ているわけではない.実際にやってみて気付いたのは,自分の動きと画面に映し出される映像は左右対称なので,そこにも注意を払いながら動きを考えなければならない(実はそこに一番頭を使っている気がする).
具体的には次のように授業を進めている.
配布資料の準備を行う.幸いにも自分の場合は,授業のレジュメは大阪工業大学の専任教員の方々が作成してくださったので(ご作成いただいた方々には本当に頭が上がらない),それをもとに授業のノート(板書)を作成し,事前に配布している.授業の一日前や当日に配布すると,印刷が間に合わないという学生が多かったため,三日前に配布することを目指している.が,必ずしもそれが出来ているとは限らないので反省が必要である.
はじめは2-in-1パソコンを使って手書きでノートを作成していたが,ちゃんと読めるものを配ろうとすると膨大な時間がかかったため,今はパワーポイントを使ってノートを作成している.読みやすく,ノートの作成時間が短くなった代わりに,タイプミスがところどころあった.
授業の最初の40分から50分は,その日の授業内容の解説を行っている.もう少し短くすることもできるかもしれない(30分から40分程度)が,あまりにもテキパキと話しても聞く側が得られる知識はあまり多くないと考えている.そこで,多少配信時間は長めにとり,ゆっくりと授業内容を解説している.またストリーミング配信は録画し,授業後に学生に公開している.
アンケートの集計結果によると,録画ファイルを見ている学生は意外と多いようなので,当日欠席した学生のことも考慮して授業を録画すべきと考えている.ただしこれは付与されているGoogleアカウントのGoogle Driveの容量が無制限だから言えることで,どれくらいの容量のファイルをどこに保存できるかによって状況は変わるかと思われる.
なお,2020年度後期はリアルタイム形式もしくはオンデマンド方式のいずれかを選択する形式にしている.オンデマンド形式といっても,新たに録画したものを公開するわけではなく,双方向形式の授業を録画したものをあとで公開しているだけなので,そこまで大変ではない.選択形式にしてはいるものの,7割から8割の学生はリアルタイム形式で参加してくれているようなので,はたしてこの試みに意味があるのかは分からない.
リクエストがあれば,出席問題の解説を行っている.逆にリクエストがなければ,各自で問題を解き進めてもらっている.ただし,自力で問題を解ける学生には自分のペースで問題を解いてほしいので,問題解説への参加は強制としていない.なお,2020年度後期からはGoogle Meetにて質問受付を開始したので,この形式はいったんやめることとした.
演習問題の解説や質問受付をGoogle Meetを用いて行っている.はじめのうちはGoogle Meetに再入室し,質問する学生が本当にいるのか懐疑的だったが,想定よりも質問してくれる学生数が多くほっとしている(せっかく質問受付を行っているのに誰も来ないのでは意味がない).やはりメールで質問するよりも口頭で(もしくはチャットで)気軽に質問できる方が学生にとってはハードルが低いようである.
上記を実践した結果,最終的に色々な要望等は残っているもののそこまで大きな不満は生じていないようである.アンケートの回答を読んだ限りでは,およそ8割から9割程度の学生が好意的な印象を持ってくれたようである.ただしこれは氏名を記載してもらったうえで回答してもらった結果であり,後期になれば遠隔授業に疲れた学生から不満が生じる可能性は高い.また後期には動画を配信される方々も増えると予想されるので,選択肢が増えれば肯定的な意見の占める割合も減少するかと考えている(別の先生はこうしてくれているからこの授業でもそうしてほしい,など).
遠隔授業は結構大変である.もちろん準備も大変だが,何よりもリアルタイムで動画配信するスタイルで授業を行っているせいか毎回一人でカメラに向かって話しかけなければならないのが一番大変である.一方で大人数の授業の場合は,授業中の雑談が一切入ってこないことから,遠隔授業は学生がより勉強に集中できる環境を提供できる可能性を秘めている.数学科目に限れば,遠隔授業を今後も実施するのは悪くないかもしれない.
ただしこれは映像配信の方法にあまり抵抗を感じない人の場合に限ることは強調しておきたい.自分は新しい物好きなので色々と試しているが,こういった新しい授業の形式に慣れるまでには多くの時間がかかる方々もいらっしゃることは想像に難くない.また大学ごとに遠隔授業の形式は異なることから,複数の大学で教えている方々にとってはそれぞれのやり方を習得する必要がある.このままでは教員の負担があまりにも大きいため,何か方法を統一できないものだろうか?