研究集会は研究者が得た成果を発表し,自身が得た結果をアピールする場であり,成果発表を通じて新たな共同研究が始まるなど,分野を問わず重要な役割を果たす.量だけ増やせば良いというものでもないが,それにしても研究集会の開催数自体が減少傾向にあり,活気が無くなってきているように感じている.原因は色々とあるだろうが,その一つとして,研究集会をどのようにして開催すればよいかが分からない(あるいは実態が見えない)ことが考えられる.
ここでは,何故か自分が研究集会運営に携わる機会が増えてきたことから,その経験を通して得た考えを纏めていく.ただ,これはあくまでも個人的な考えであって,マニュアルに該当するものではない.自分はマニュアルに該当するものを作っているが,それは誰かに教わったものではなく,自分のこれまでの経験を集約したものなのでオープンにはしない.また,例の如く誰が読んでいるかも分からないが,この通りに進めて第三者から批判を受けたとしても責任は一切取らない.
自分が研究集会の運営に携わり始めたのは,2016年2月に大阪市立大学で開催された
OCAMI-KOBE-WASEDA Joint International Workshop on Differential Geometry and Integrable Systems
からである.この研究集会は,自分が関わっていた頭脳循環プログラムの一つの企画として開催されたものであるが,この研究集会の運営に携わるつもりは全くなかった.というのも,2016年2月末からドイツのテュービンゲン大学に異動する予定だったので,色々と考えることが多く,他のことに気を回す余裕は一切なかった.本研究集会は,テュービンゲン大学側の受入研究者であったChristoph Bohle教授,もともとの受入研究者であったFranz Pedit教授との顔合わせになるということは聞いていたので,2015年10月頃には既に参加を決めていたと思う.
ところが,2015年12月頃に研究集会の準備状況を組織委員のどなたかに尋ねたところ,一切何も進んでいないと聞いた.さすがにこれはマズいと思い,色々と口と手を出しているうちにいつの間にか運営に携わっていたというのが経緯である.正直なところ,そんなに前向きな姿勢で関わり始めたわけではない.
最初の研究集会運営を経て,ある時は身内に向けた研究集会を開催したり,またある時は業務として研究集会運営にちょくちょく携わってきたが,本格的に研究集会運営に携わり始めたのは,2018年3月に大阪市立大学で(現大阪公立大学)開催された
Geometry of Submanifolds and Integrable Systems(略称GSIS)
からである.この研究集会は,自分が大変お世話になっている大仁田義裕教授の還暦を祝うものであった.分野を問わずお世話になっている人がかなり多いにも関わらず,大阪市立大学で何もしないということに疑問を持っていた.ところが,自分はかなりの「人見知り」で(この表現は不正確で,人見知りではないが心を開くまでにかなり時間がかかる),誰に相談すればよいのかも分からなかったため,結局は自分が勝手に主導して開催することにした.研究集会自体もそうだが,大仁田教授の還暦祝いのパーティーも楽しかった.Franz Pedit教授も大仁田教授と同い年だったので,サプライズとして両名の名前が書かれた誕生日ケーキを出したところ,お二人とも喜ばれていた.余談ではあるが,Pedit教授の元学生であるLynn Heller氏から「自分が開催したPedit教授の還暦祝賀会ではケーキを出さなかったので,一生文句を言われる」と言われた.自分の中では遊び心も大切だと考えているので,これは最大の賛辞であると受け止めている.
この研究集会を経て,研究集会を企画するときは自分の意見を出すようにしている.説明が難しいが,自分の中ではどういうものをやりたいのかという方向性が定まった気がする.少なくとも,自分でやるからには自分が楽しまなければならないという考えは強くなった.
ここでは主に,所謂国際研究集会について述べる.日本での国際研究集会の定義というのはかなり曖昧だが,
① 外国人研究者(=海外研究機関に所属する研究者)が少なくとも1名講演する
② 全ての講演が英語で行われる
の2つを満たすときに国際研究集会と呼ばれることが多い気がする.あるいはどちらか一方のみ満たす場合にも国際研究集会と呼ぶことがあり,もちろん主催者の考え方によって変わるかと思う.自分の中では,
① 外国人研究者(=海外研究機関に所属する研究者)が少なくとも3名講演する
② 全ての講演が英語で行われる
を満たすときに国際研究集会と呼ぶことにしている.国際研究集会は,学術的に国際化を推進する上でも重要であるし,以下の2つの条件を満たすと政府の国際会議統計に情報が反映されることから政治的にも重要である.
① 海外から2か国以上の参加
② 参加者の延べ人数が50名以上
自分はこういった国際研究集会を開催することが多いが,国際研究集会が開催される(あるいは開催する)ことは日常生活の中に溶け込むかのように当たり前のことだったので,上記について問い合わせがあった際には大変驚いた.ある意味,数学者の「身軽さ」は,我が国の国際化にかなり貢献しうると感じている.
ところで,自分は外国人研究者を招いて研究集会を企画することが多い.これは国内に自分に近い研究をしている人がほとんどいない一方で,海外にはかなりの数の研究者が多く,友人や知り合いが多いことが理由である.個人的には,国内研究集会も等しく重要であり自分でも開催したいとは考えているが,研究者人口が国内ではさほど多くない自分の研究分野では正直そんなに盛り上がらないだろうとも思う.
研究集会開催の目的は,主に各研究者が得た成果を発表する場を提供することであるが,同時に研究について話し合う場を提供することでもあり,将来的な共同研究に繋がる場面を何度も見ている.お酒を飲むのが好きな方々は,講演終了後に飲みながら研究の話をされることも多いかと思うが,自分はお酒がほとんど飲めず,また自分で組織する研究集会の開催期間中は一日中気を張り詰めているので,研究打ち合わせをする力も残っていないことが多い.
そこで,自分は講演の間の休憩時間は少なくとも20分,コーヒーブレイクは40分程度取るようにしている.これは講演の後の話し合いの時間として位置付けており,参加者の方々には(あるいは自分自身も)お菓子を食べてリラックスした雰囲気の中で充実したディスカッションを楽しんでほしいと考えている.研究討論の間は頭をフル回転させるため,甘いものを摂取することは議論を活性化させるうえで重要である.
そういった意味で,自分はスケジュールがぎっちり詰まった研究集会はあまり好きではない.一方で,多忙を極める研究者の方々が必ずしもいつでも長期間スケジュールを調整出来るわけでなく,また長期の出張が認められるわけでもないため,休憩時間がどうしても短い研究集会になってしまうことは十分理解できる.いずれか一方のみが重要というわけではなく,どちらも研究の活性化には必要なものであり,どちらも推進されて然るべきである.
講演者の選定や招待は研究集会運営のうえで最も重要な業務である.自分の中での選定方法は主に3つである:
①実際に研究集会に参加し,面白いと思った講演者に直接声をかける.
②知り合いの研究者に紹介してもらう.
③論文等を読んでいて興味を持ったときに招待する.
自分は主に①,②の方法で講演をお願いしている.個人の研究費等には限りがあるので,①で声をかけた研究者の方々の他にも良い研究者がいないかを尋ねることが多い.幸運なことに,優れた研究者は別の優れた研究者を紹介してくれるので,自分が多大な労力を割かなくとも自然にネットワークは拡がっている気がする.ただし,次々と優れた研究者の方をご推薦いただくのはよいのだが,際限なくご紹介いただくことになるので,予算との兼ね合いによってどなたをお呼びするかなどは慎重に検討した方がよい.最近は③も増えてきている.
講演をお願いする際に気にしなければならないのは,旅費・滞在費をこちらで負担する必要があるかどうかである.講演を依頼する側の人間が全て負担するのが理想的なのかもしれないが,研究集会が大規模になればなるほど予算が足りなくなる.ただし,これは工夫次第でどうにでもなることが多く,依頼する側がほとんど予算を割かなくとも外国人研究者を招いてご講演いただくことも場合によっては可能である.
なお,多くの人が勘違いしているが,外国人の方を招聘するからといっても滞在費等を多めに支払う必要はない.研究者の方々には当然敬意を払うべきだが,特別扱いする(VIP待遇する,など)必要はないし,少なくとも特別待遇されなかったからといって文句を言われたことはこれまでに一度もない.