06 動物園裏の地質学

旭山三浦庭園(Google Earthより)

旭山動物園の裏手に,こんな静かな庭園があることは,旭川市民でも知っている人は多くないでしょう.ちょっとした秘密の場所です.ここは動物園と共通券が発行されていて,動物園側からも庭園側からも渡ってゆくことが可能です.以前は,反対側への再入場はできなかったと記憶しますが,今はどうなってるでしょうね.

静かな庭園のなにがジオ?

それをこれから説明しましょう.

まずは,入り口管理棟で入場料を払いましょう.

公園内に入ったら,左手の道へと進みましょう.少し上り坂になります.林の中へ小道をどんどん行きます.東屋のあるあたり,小道の上側の斜面に大きな石が集められているのに気付くかもしれません.

集められた巨礫(IMGA0696)

一見して不思議なカタチをしていることに気付くでしょう.風化面がある石は,ほとんど全部がゆるい四角柱状をしていますね.その一方で,新鮮面を持つ小さな石は同じようなカタチに割られていて,なにか「人為」を感じさせます.

ここで,小さな破片をもって別の石に軽くぶつけてみてください.すてきな音がします.その音は,実際にここに行ってみて体感するのがいいでしょう.でも,強くぶつけて割ったりしないでください.また,もって帰るのもやめるようお願いします.管理職員が集めているものらしいです.

さてこれはいったいなにかというと,俗に「旭山のカンカン石」とか「キンキン石」とか呼んでますが,じつはよく判っていません.詳しい話は後半で.

そのまま小道をどんどん上ってゆきます.そして小道が沢を横切るあたりまで来ると,「う~~ん.山の中~」という気がするあたりにでます((^^;).運が良ければ,となりの動物園のオオカミの遠吠えが聞こえてきます.だってすぐ隣ですから.明治前の,開拓前の北海道(当時はまだ「蝦夷地」でしたが)の山の中は,「こんなんだったか」としばし妄想.オオカミもヒグマもでませんので,安心して妄想に浸りましょう.

三浦庭園の沢(ボレアロ=プーoriginal)

さて,一時の妄想から覚めたら,足下の地面を眺めてみましょう.

写真のような岩盤が見えることでしょう.ここにあるのは泥岩やチャートですから,地層といえばイメージするカタチをしているはずですが,そうはなっていません.黒色泥岩と緑色岩が不規則に接し,不規則な方解石脈が走っています.赤色チャートはここでは,残念ながら直接ほかの岩石と接触している様子は観察できませんが,巨大な岩石であり,ごく近いところから落ちてきたものと考えていいでしょう.

これらは,地“層”状態になっていないのですね.こういうのを「メランジュ」といいます.もとはフランス語で「混合」の意味だとか.お菓子などを作る方は「メレンゲ」というのをつくったことがある人もいると思いますが,もとは玉子の白身を泡立ててたもの,もしくはそれを使ったお菓子のことです.まあ,ぐちゃぐちゃになったもの,もしくはしたものだと思えばいいでしょう.

重なって層になっているはずの地層がなぜこうなっているのか,それは別の機会に解説したいと思います(その部分,未工事).

旭山のカンカン石(転石状態)

旭山のカンカン石(石器?状態)

解説を後半に回したわけは,これは地質学的には非常に新しいものであること.また,人の手が加わっているものであるらしいこと.よく判らないものであることなどです.

この石は,四国のカンカン石と俗に呼ばれるものによく似ています.四国のカンカン石は,「讃岐岩:サヌカイト」と特別な名前で呼ばれています.岩石学的には「古銅輝石安山岩」とされていますが,最近は「古銅輝石」という分類名は使わないようです.わたしは火山岩石学は苦手なので,詳しい話はできません.ほぼ半世紀前の学生時代の知識のままですから,あしからず((^^;).

知る人ぞ知る「旭山のカンカン石」なのですが,まともな報告書がひとつもないのですね.1/5万地質図幅では,この付近に分布する“新第三紀末”の火山岩として三つの岩石を示していますが,もちろん岩石学的記載ですので,上記のような情緒的な「音がする」なんて特徴は書いてありません((^^;).たぶん「橄欖石玄武岩」とされているものにあたるのだという気がします.岩石薄片をつくれる機材と,岩石顕微鏡がつかえる施設があれば,もっと詳しいことが判るかと思いますが….これ以上は単なる愚痴になりますので,次の話題へ….

じつは,付近の考古学者および考古学愛好家の間では,有名な石らしいのです.さきほど,「人為」を感じさせると書いたのは,それが背景にあります.石全体の産状は,誰かが集めたことを思わせますし,小さく割られた石もあきらかに「ヒト」が割ったもののように思えます.ただし,それが縄文人がやったものか,現在の好事家が面白半分に割ったものかは,現状では判断がつきません.たぶん,これからも.

富良野市博物館が出版した富良野市内の遺跡の発掘報告書には,この「旭山のカンカン石」がでているという話を聞きましたので調べてみました.報告書は見つかりましたが(10数文字で示しましたが報告書を見つけるだけで数ヶ月,書中に「旭山」の文字を見つけるのにさらに数日かかってます),記載はまったくありませんでした.ただ,遺物についての巨大な表のなかに小さく“旭山産”の石器がありました.しかし,表に出てくるだけで,それがどのようなものかの記載はありませんし,なぜ“旭山産”といえるのかの記述もなく,なにかの推定/論述の根拠に使える様な情報ではありませんでした.

で,まったくのお手上げ.

ここにあげた,いくつかの問題点をクリアできる研究者が現れるまで,宙に浮いた状態となります.あしからず.