投稿日: 2014/03/20 11:13:32
NEWS LETTER 2月号 巻頭コラム
NHKの籾井勝人新会長が1月25日の就任記者会見で公共放送の中立・公平性を踏みにじる不見識な発言を繰り返し、問題となっている。1月28日付の朝日、毎日両紙は社説で取り上げ、「公共放送のトップを任せられるのか。強い不安を感じる」(朝日)、「公共放送のトップとしての自覚のなさ、国際感覚の欠如に驚くばかりだ。その資質が大いに疑問視され、進退が問われてもおかしくない」(毎日)と手厳しい批判を浴びせている。その後、国会に参考人出席した新会長は「個人的見解は全部取り消させていただいた」と釈明したが、それで済む話ではない。
問題視された発言は、(特定秘密保護法)「通ったので、もう言ってもしょうがない。政府が必要だという説明だから、様子を見るしかない」。(従軍慰安婦)「戦争をしているどこの国にもあった。日韓条約ですべて解決していることをなぜ蒸し返すのか、おかしい」、(靖国参拝)「総理が信念で行かれたことで、それはそれでよろしい」、(尖閣問題)「日本の立場を主張するのは当然。政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」……。
一読して気づくのは、いずれの発言も安倍晋三首相の外交・安全保障観や歴史認識に重なることだ。周知のごとく、NHKは放送法に基づく特殊法人として設立された公共放送である。同法第1条では放送の不偏不党、真実及び自律の保障、表現の自由確保を規定し、放送に当たって①公安及び善良な風俗を害しない②政治的に公平である③報道は事実をまげない④意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにするーことを求めている(第4条)。社説の指摘を待つまでもなく、一連の籾井発言は法の趣旨を大きく逸脱することは誰の目にも明らかだ。
問題はこうした人物が政治的思惑で易々と公共放送(国営放送ではない!)の事業運営を担うトップに就任できる仕組みにある。会長の任命権はNHK経営委員会にあるが、その経営委員は国会で多数を占める政権与党が推薦する。放送法で「経営委員9人以上の多数による議決」(第52条)が定められており、12人の経営委員のうち4名の反対があると選任されない。
この規定を念頭に、安倍政権が放った手法は昨年11月、欠員・任期切れとなる5名の経営委員に首相に近い思想を持つ人物4名(百田尚樹、長谷川三千子、本田勝彦、中島尚正)を送り込んだ。この結果、再任の芽もあった松本正之前会長の断念を引き出し、籾井新会長を実現させた。安部政権周辺で原発事故報道や従軍慰安婦問題の番組作りを容認する松本前会長への批判が強く、安倍首相の意を受けた菅官房長官が仕組んだ「松本降ろし」だという(雑誌『選択』昨年12月号)。
新経営委員になった百田尚樹氏は右派論壇誌『WiLL』3月号で櫻井よしこ氏との対談に登場、次のように語っている。
「百田 最も重要な仕事がNHKの会長を選出する人事です。籾井氏と経営委員会でお話をさせていただいた際、非常にバランス感覚があり、聡明でしっかりとした考えをお持ちの方だと思いました。私は安倍首相が総理になられたあとも、個人的な気持ちとして靖国神社に参拝していただきたいと申し上げた。安倍政権には是非とも長期政権となって日本の礎を築いていただきたい」
これでは再び、受信料凍結・支払い拒否が増えることは避けられない。(運営委員 平田芳年)