目次:
【寄稿】一連の総務省接待問題が明らかにしたこと
【寄稿】札幌地裁「同性婚」判決は多様な家族への突破口
【寄稿】追悼「昭和の語り部」半藤一利 氏
【寄稿】戦中最後の沖縄県知事島田叡の伝えられた生き方
【書評】内田雅敏著『元徴用工 和解への道―戦時被害と個人の請求権』
【研究会報告】《先住民族研究会》アフリカ・カメルーン熱帯林の先住民族
【案内】2021年度通常総会と記念講演会
巻頭言: 女性天皇棚上げは許されない
政府は「安定的な皇位継承のあり方を検討する有識者会議」を設置、4月から専門家ヒヤリングを開始した。2017年6月に成立した「天皇退位に関する皇室典範特例法」の付帯決議で「政府は安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について、本法施行後速やかに検討を行い、その結果を速やかに国会に報告する」ことが求められており、それに対応するための動きだ。
しかしなぜ4年間も棚上げされてきたのか。「安倍前政権は19年4月30日の上皇さまの退位以降も議論を先延ばしにしてきた。喫緊の課題を避けてきた政治の責任は極めて重い。先送りの背景には、安倍前政権の支持基盤である保守派が、皇族の女性が皇位を継承する『女性天皇』や、父方に天皇がいない『女系天皇』に強く反対していることがある」(3/24毎日新聞社説)と解説されている。では菅政権は『女性天皇』や『女系天皇』に舵を切ったのだろうか。
ヒントは今回の有識者会議メンバーの選定にある。同会議は6名構成で、大橋真由美上智大学法学部教授、清家篤(座長)日本私立学校振興共済事業団理事長、冨田哲郎東日本旅客鉄道取締役会長、中江有里女優・作家・歌手、細谷雄一慶應義塾大学法学部教授、宮崎緑千葉商科大学教授が選任された。男女3人ずつ、年齢は40代から60代、専門分野もばらばら。一見すると共通点はないが、政府の別の有識者会議に名を連ねているのが特徴。「全メンバーが別の政府会議の経験者という『無難』な人選で、皇室専門家もあえて入れず中立性に腐心。互いに持論を譲らず、内部分裂するような事態を回避したいとの思惑がにじむ」(東奥日報)と論評されている。
政府の事務方に過度に逆らわない人選となったことで、論点が対立する「女性天皇」や「女性宮家」創設の結論には触れず、皇族数減少に伴う皇室活動の担い手確保策として、女性皇族が結婚した後に「皇女」(特別職の国家公務員)の尊称を贈り、公務への協力を委嘱する新制度の創設でお茶を濁す可能性が高い。「皇女制度」は昨年末ごろに官邸サイドからメディアにリークされており、菅政権は「女性宮家」論議にも直接結びつかないため保守派にも理解が得られると判断したようだ。
しかし「皇女」創設には、「皇女は天皇の娘を指す言葉だ。それ以外の女性皇族に使っていいのか」(玉木雄一郎国民民主党代表)、「天皇所生の女子のみが『皇女』。それを無視して皇族女子すべてに新たな称号を贈るといふやうな皇室用語の拡大濫用は厳に慎むべき」(所功京都産業大名誉教授)との批判がある。一度、皇籍離脱した女性を新たな身分に登用することは法の下の平等を定めた憲法14条や職業選択の自由を保障した憲法22条に抵触すると指摘する識者もいる。
何よりも、4年間先送りした挙げ句、「皇女」創設で付帯決議にある「女性天皇を含む皇位継承を確保するための諸課題」を棚上げする対応は、国会軽視も甚だしい。各種世論調査で女性・女系天皇を容認する意見が7割前後に上っている。戦後憲法とと共に、欽定典範から民定典範に替わった皇室典範の改定に踏み込むべきだ。
(運営委員 平田芳年)