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【巻頭コラム】教科書採択 不透明で密室的な横浜市教委
都道府県や市区町村の教育行政機関である教育委員会の職務の1つとして「教科書採択」というのがある。公立の小・中・高校で使用する教科書は、基本的に4年ごとに教委が選定を行っており、今夏は24~27年度に小学校で使用する教科書の採択が、全国各地の教委で実施された。
今回、私が教科書採択を傍聴したのは、いずれも神奈川県の茅ヶ崎市(7月26日)、藤沢市(同28日)、寒川町(8月7日)、鎌倉市(同17日)の各教委の臨時会であり、この他にネット中継で横浜市教委の定例会も視聴した(8月4日)。普段は傍聴者が少ない教委の会議も、教科書採択の時だけは多くの市民や教科書会社の関係者が傍聴に訪れるため、普段よりも広い部屋で会議を行うのが一般的である。
小学校の場合は、国語、書写、社会、地図、算数、理科、生活、音楽、図画工作、家庭、保健、英語、道徳の13の種目で使用する教科書を選定する。1つの種目につき2~8社の検定済教科書が発行されており、それぞれの種目で1社に絞っていく。
教委の会議は、教育長と4~5名いる教育委員、計5~6名で構成されることが多い。国語から始まって、それぞれの教育委員がこの出版社の教科書を推薦する理由を述べ、最後に教育長が自身の意見を示し、最も支持の多かった社の教科書が採択されるというのが一般的なスタイルだ。これを国語から道徳までの13種目で行う。終わるまで休憩をはさんで3時間前後はかかる。
もっとも、全種目・全学年の200数十冊に及ぶ教科書のすべてを教育長や教育委員が熟読するのは事実上困難である。そのため、現場の教員らが作成した調査資料などを基に、教育長や教育委員は教科書を選んでいく。結果的には、現場の教員の支持が最も多かった社の教科書が、それぞれの種目で採択されていくことが多い。
ところが、そうしたスタイルになっていないのが横浜市教委だ。横浜市教委は、教科書採択の定例会を今回はネット中継しており、その点では先進的に思えるものの、これは、採択の時でも普段と同じ会議室を使うので傍聴希望者が入り切らず、多数の抽選漏れが生じるのでネット中継をするという、消極的な理由に基づく。とにかく、傍聴者をあまり入れたくないらしい。
しかも、各種目で発言する教育委員は5名中1~2人にとどまり、教育長に至っては一切発言しない。そして最後に無記名投票で1社に絞るため、どのような理由でその社の教科書が選定されたのか、他の教委と違って部分的にしか分からないのである。
その横浜市では、「新しい教科書をつくる会」という右派団体が編集し、保守的な歴史観や価値観の中学社会科(歴史・公民)教科書を、以前に採択していたことがある。そして、現場の教員や保護者などから否定的な声が少なくなかったつくる会系の教科書が採択されていた背景には、そうした不透明で公開に消極的な採択過程があったからと常々指摘される。
今夏は小学校教科書の採択だったが、来夏は25~28年度に使用される中学校教科書の採択が行われる。横浜市教委も、御多分にもれず「学力向上」を目的として市立小・中・高校などでの「授業改善」に取り組んでいるが、その前に、他の教委の採択過程を参考にして、採択の透明性や公開性を高める「採択改善」が必要だろう。(運営委員 中川登志男)