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【寄稿】社会の変化と反動国家の暴走

【記念講演】放送の「中立・公平・公正」とは何か

【研究会報告】《経済分析研究会》植田日銀の使命と展望

【研究会報告】《先住民族研究会》アイヌ民族の先住権とコモンズの回復

【報告】2023年度通常総会

【書評】広井良典著『科学と資本主義の未来』


【巻頭コラム】感染症の新司令塔-超過死亡者数の急増、その原因の検証を

 コロナ感染症が5類に移行されて2カ月が過ぎた。日本でのコロナ感染症対策は、検証も反省もないままに、全てがうまく対処されたかのように扱われつつある。その最大の論拠が、コロナ感染による直接の死者数が諸外国に比べて少なかったという「事実」である。

   ところが、5類移行直前に厚生省筋は、2022年の超過死亡者数が最大11万3000人に上ったとの推計を発表した。2022年のコロナによる死亡者数が約3万8000人であるから、その倍近くの人間がコロナ以外何らかの原因で死んでいたことになる。

 超過死亡者数とは、本来想定されていた数を超過した死亡者の数をいい、超過死亡者数が多いということは、その期間になんらかの通常とは異なる要因があったことを意味する。だとすればコロナウイルス感染症が拡大すれば、その結果として超過死亡数が増大するのは当然である。事実、欧米ではコロナによる死者の増大が超過死亡数を大幅に増加させている。ただ、欧米での超過死亡者数のほとんどがコロナなのに対して、日本ではコロナ以外の死亡者数が圧倒的に多い。

 日本での超過死亡者数が多い原因についてはいくつかの説明がなされている。

 厚生労働省は、医療現場がコロナ対応で忙しく、普段は受けられる医療処置が受けられず、結果として死者が増加した、と説明した。しかし実際は、2022年のコロナ病床使用率は最大でも50%程度、人工呼吸器の実施率は10%以下、緊急搬送の数も増えたが死亡率は5%以下であり、一般患者の命が助けられないほどの逼迫ではなかった。

 一部の強い主張としてm-RNAワクチンの過多接種説がある。このワクチンの副作用や後遺症に関しては、以前からその危険性を問題視する向きはあった。超過死亡者数が増えた月と3回目4回目のワクチン接種の時期とが重なるとの報告があるし、ワクチンが高齢者の免疫力を低下させるという研究もある。そもそもm-RNAワクチンは、新しいタイプのワクチンであり、日本ではパンデミックに際して臨床試験の第Ⅲ相をはしょって緊急承認された経緯もあるので、きちんとした追跡調査による検証が望まれる。

 もう一つの可能性としては、長期にわたる自粛要請が高齢者の健康を蝕み続けていると説く自粛強要説がある。用事がなければ家から出るな、人とは会って話をするな、マスクは外すな、といった自粛要請はストレスとなり、長引けば高齢者の免疫を低下させるだけでなく生命力さえをも弱らせる。持病が悪化したり、老衰が進んだりすることは避けられない。マスク着用と自粛をメインとした政府と感染症ムラの非科学的コロナ対策が、日本での死者を増やしている、との主張である。

 ところで、新たな感染症の危機に備え、専門家組織「国立健康危機管理研究機構」を設立する法案が成立した。今秋新設される政府の感染症対策の司令塔「内閣感染症危機管理統括庁」や、厚労省の感染症対策部に対し、政策決定のための科学的知見を提供することになる。米国のCDCをモデルにしたようであるが、そうなら政治から科学的独立性と情報の公開が何よりも求められる。

 いずれにしろ、これまで述べた超過死亡者数の増加をきちんと取り上げ検証するのかどうかが、まずはその試金石となるだろう。(運営委員 牧梶郎)