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【巻頭コラム】

COP27とウクライナ紛争

 COP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)が11月6日からエジプトで始まった。ロシア軍のウクライナ侵攻により、天然ガスや石油製品の取り合いや石炭火力発電所の稼働拡大など、ゼロ炭素社会などが霞んでしまった感のある状況下での開催である。当然、メディアの関心もコロナやウクライナ戦争などに比べればはるかに低い。

そうはいっても、地球温暖化に因るとみなされる気候危機がますます顕著になっているのもまた確かである。今年になってからも渇水、大雨、熱波などによる災害が相次いで報じられている。

 渇水に関連しては、水量の減った河川から過去の沈没船が姿を現したり、長江からは600年前の仏像、スペインの干上がった貯水池では7000年前の墓跡群が発見されたりして大きな話題になった。干ばつによる最大の被害は東アフリカで、飢饉のため2300万人が深刻な飢餓状態にあるという。大雨では、ハリケーン、台風、モンスーン、などが巨大化して深刻な被害をもたらした。パキスタンの水害は、国土の3分の1が水没し3300万人が被災している。今年の夏はヨーロッパ各地に40度を超える熱波が襲い、山火事も頻発した。また、海面上昇で島嶼国の海岸線を侵食され国の存続自体が脅かされている。

 一方、ウクライナ戦争に目を転じれば、ここでも日々普通の市民が死んでいく悲惨な現実がある。その現実は、プーチンのロシアが悪い、撤退すべきだと声をあげても当分は変わりそうにない。現在は、ウクライナ軍が反攻してロシア軍が撤退を始めている情勢を反映してか、ウクライナが勝つまで戦いを止めるべきでない、という声が高まっている。だが、「宗論はどちら勝っても釈迦の負け」に倣っていえば「戦争はどちら勝っても民の負け」なのであって、早く終わらせるにこしたことはない。戦争は人間同士の戦いであり、話し合いで終わらせることは可能である。

 そこにいくと人類を脅かす自然災害との戦いは、対話すべき相手は存在せず、起きてしまえば一方的に耐えるしかない非対称の戦いである。したがって、地球気候危機を生じさせないための努力-温暖化ガスの排出削減-は人類喫緊の課題である。その取り組みのひとつがCOPあるが、27回を数えても未だ先進国と途上国との間でコンセンサスは得られていない。COP3の京都議定書では、途上国側の反対で削減の対象は先進国のみだった。その後COP21のパリ協定では途上国にも削減目標が課せられるようになり、その見返りとして途上国の温暖化対策に資金を拠出することが決まったが、実際の資金援助ははかばかしくなく、昨年のCOP26ではその金額を年間1000億㌦と決めた。今年の支援も目標を大きく下回り、その金額はこの半年ウクライナに拠出された武器援助の総額約800億㌦にはるかに及ばないという。

 今回のCOP27の首脳級会議で改めて先進国と途上国の間で意見が分かれた問題は、「損失と損害」に対する補償であり、パキスタンの洪水や東アフリカの旱魃により生活や生命を脅かされているなどの事態は、先進国の責任でありその補償は先進国が負うべきである、との主張である。今回のCOP27でこうした途上国からの要求を会議の正式な議題として取り上げるかどうかが、まず首脳級会議で議論された。残念ながらこの会議に我が日本の岸田首相は参加していない。安倍国葬よりはるかに多い各国首脳が駆けつけたこの外交の場に、日本の責任者は顔を見せていないのだ。日本が3年続けて不名誉な「化石賞」を授けられたのもむべなるかなであろう。牧梶郎(運営委員)