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【寄稿】福島原発事故と国の危険管理責任

【寄稿】熱波という新たな気象災害にどう立ち向かうのか

【寄稿】最低賃金961円へ引き上げも、欧米に見劣り

【書評】岸本聡子著『私がつかんだコモンと民主主義』

【研究会報告】《経済分析研究会》「日本経済 成長志向の誤謬」


【巻頭コラム】

沖縄県知事選-節目の勝利と苦難の出発

 政府自民党は今年に入り8年ぶりの県政奪還に向けて自信満々であった。争点を「県政の危機」に置き、コロナ禍で冷え込んだ経済の再建策を柱に置いた。政府の沖縄振興予算は保守県政時代に約束された3000億円台を下回り、玉城県政下の今年度は2684億円となった。異様で露骨な沖縄差別政策である。県知事選で佐喜真候補は曖昧にしてきた普天間基地の辺野古移設の容認を打ち出した。その代わり、令和12年までの普天間返還実現と国から3500億円以上の振興予算獲得を打ち出した。オール沖縄陣営は今年の首長戦での敗北の流れを7月参院選・伊波洋一勝利で食い止め、玉城知事再選を闘い取った。歴史的で重みのある勝利である。そして玉城県政にとっては苦難な再出発でもある。

 読売新聞は政治的には政府と玉城知事との協調路線をとることを求めているが、その論旨は珍しく次のようなものであった。「玉城氏は推薦を受けた立民の80%、共産・社民の90%、無党派層の60%が投票し、自民支持の20%、公明支持の30%からの支持を得た」「佐喜真氏は自民支持層の70%、公明支持の60%とどまり、自公支持の10%が下地氏に流れた」。 投票の際に最も重視したのは「基地問題」(32%)であり、「教育・子育て支援策」(16%)、「観光など経済振興」(15%)が続いた。復帰50年の節目に県民が選択したのは「共感できるリーダーだった」と報じた。(9月13日)

 「沖縄タイムズ」は復帰50年の節目の知事選の結果は政府と県民の隔たりの大きさを改めて浮き彫りにしたと報じた。本土不信である。今回は、共同通信の出口調査では投票で重視した政策は経済の活性化が最も多く、基地問題を上回った。その中で玉城氏の再選が支持された現実は重い。台湾有事について、本土とは違い沖縄市民の戦争の足音への危機感があったかもしれない。玉城氏は新基地建設に反対し「政府との対話」による解決を求め、選挙戦では「民意は1ミリもぶれていないことを示そう」と訴え続けた。玉城県政は辺野古基地問題でぶれることはないであろう。繰り返すようだが、沖縄県民の政府不信の土台には日本政府の強権的な沖縄分断政策と辺野古基地建設への暴走がある。明治政府による琉球併合以降の長い琉球(沖縄)への植民地的支配の傲慢な歴史を踏襲しているように思われる。

 今でも、基地受け入れに協力するかどうかで自治体に交付金を出すか、出さないかを決めている国の手法。米軍基地問題で政府は県民の意見を一切聞かない態度。沖縄のコロナ感染症爆発では米軍基地由来の新型コロナウイルスの市中感染がその大きな要因であったが政府対応のまずさが重なった。米軍基地周辺の水源や土壌から有機フッ素化合物の検出が相次いでおり、政府はずさんな姿勢を取り続けている。米軍軍人軍属の犯罪は後を絶たず、事実上治外法権状態は続いている。基地と隣り合わせの生活上のリスクと負担に向き合うのは本来、国の責任であるが真剣に向き合う姿勢はない。全国知事会は繰り返し日米地位協定の見直しを求めているが黙殺したままである。

 50年の歳月は政治の対抗軸が基地と安保条約を中心にした55年体制時代から次第に基地を軸にしてはいるが、人々の命・安全・暮らし、つまり生活全般のリスク管理へ対抗軸が変動している。ここに、今後の県政の大きな焦点がある。オール沖縄勢力は翁長知事が他界した後、知事と共に歩んできた県の財界・保守系の一角が事実上離反し、分岐状態になってきた。今回の県知事選の圧勝で改めてオール沖縄復活への転機になるかどうか、ここに今後の課題がある。(運営委員 山田勝)