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【報告】2022年度通常総会
【書評】和田秀樹著『テレビの重罪』
■巻頭言■「自民党の変身」と安倍の背後に現れた闇
7月10日に投開票された第26回参議院議員選挙は、自民党が改選55議席を大きく上回る63議席を獲得し大勝したが、こうした結果は、野党間の選挙協力を推進できない立憲民主党の動向から見て十分に予測されたことである。野党間の共闘なしには勝てない1人区で与党が28勝4敗だったことに、それは端的に示されている。
さらに言えば、今回の選挙結果以上に今後の政治動向に大きな影響を与えそうなのは、むしろ安倍晋三元首相の銃撃事件ではないだろうか。
安倍元首相銃撃は昨年9月、統一教会を称賛する安倍のビデオメッセージが犯行のきっかけだと報じられているが、仮にそうだとしても許されざる凶行である。それは勝手な思い込みでアニメスタジオに放火した、あの犯人像に重なる犯行である。
ところが当初、安倍の支持者たちは「テロによる言論封殺」を声高に喧伝し、「安倍の遺志を継ぐ」流れに竿差そうと試みた。しかし統一教会・勝共連合による高額献金の強要や霊感商法に対する積年の恨みが犯行動機として明確になるにつれて、焦点は「安倍後継」問題に、つまり最大派閥安倍派の今後に移行しつつあるように見える。
安倍後継問題は、実は日本政治の今後を占う上でも大きな焦点である。「憲政史上最長の首相在任」という存在感は、その歴史的性格の解明を迫るだろうからである。
もちろん長期政権の理由について、小泉政権以降の緊縮財政路線から「大胆な金融緩和と機動的財政出動」へと舵を切り、事実上のバラマキに転じたためだとする指摘は多い。アベノミクスはたしかに「証券バブル」で好景気を演出した。だが他方ではアベノミクスの破綻を覆い隠すように消費増税延期を表明して解散総選挙に打って出るなど、消費増税を利用した選挙戦は3回を数え、その勝利をテコに政権存続を謀ったのはまぎれもない事実である。にもかかわらず安倍政権の強い求心力と存在感は、本質的には「綱領で集結する政治党派」へと自民党を変身させたことで実現されたように思うのだ。
「保守本流」を自認する自民党旧主流派は、「軽軍備・経済重視」を旗印に長期政権を実現したが、グローバリズムの波に抗しきれずに政権を失った。これに対して政権奪還を果たした安倍は、1955年の自民党結党の際に党綱領を書いた岸信介の孫として、党是を固守する「自民党本流」の台頭を主導したのだと思う。それは「ただ政権にしがみつく」自民党から、明快な政治目標―安倍の場合は改憲―を掲げる自民党への変身の演出であり、「政治屋」に「政治家」の衣装を纏わせる試みでもあった。
だがこの変身の演出が、銃撃という惨劇を呼び寄せたように思えてならない。というのも「保守本流」の政治が人々と親密に交わる「どぶ板」なのに対して、「党是固守」の政治は俯瞰的視野では優れても、小さな庶民的労苦を見落としがちだからである。
統一教会という札付きの宗派は、あの森友学園と二重写しになるが、そんな札付き連中との曖昧な親交は、「小さな庶民的労苦」の軽視なしには続けられない。そして曖昧な親交こそが、安倍の背後に深い闇を作り出したのではなかろうか。
(運営委員・佐々木希一)