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みだりに悲観もせず、楽観もせず-総選挙雑感

 10月31日に投開票された今回の衆院総選挙は、保守系勢力(自民、公明、維新、国民)の圧勝、リベラル系(立民、共産、れいわ、社民)の惨敗、という期待外れの結果に終わった。自公が3分の2の議席を占めることは阻止できたといっても、維新や国民が抱き込まれれば、憲法改正の国会発議を食い止めることはできない。維新が早くも次の参院選には国民投票と言い出しており、楽観は許されない。

 どうしてこんな事態になってしまったのか。『現代の理論』秋号に中野晃一上智大教授が「政治の衰弱と自民勝利の方程式」という文章で、自民勝利の条件として野党の分断と投票率の低下の2つをあげている。今回は自民が15議席は減らしたものの安定絶対過半数を維持し、選挙協力した野党の伸びを抑え込めた要因として、やはりこの原理が働いていたと見るべきだろう。市民連合の仲立ちで4野党が政策合意し、100を超える小選挙区で候補の一本化を実現した時点で、焦ったに違いない与党が打ったのがマスコミまで動員した徹底的な反共攻撃である。共産党は未だ暴力革命路線を捨てていない、天皇制廃止を主張している、など50年以上前のすでに転換した路線をあげつらっての、野党連合の切り崩しを目的としたタメにする攻撃である。こうした宣伝により野党共闘の大枠が崩れることはなかったとしても、アカ攻撃を知っている年配者と組合運動で共産党と対立してきた連合へはかなりのインパクトがあったようだ。また投票率58%も、前回より2%ほどアップはしたものの、前々回、前回についで戦後3番目に低いという。特に、反共宣伝が浸透しにくい若い世代の投票率は、30~40%と全体よりぐんと少なかった。こうして中野教授のいう勝利の方程式は今回の選挙でも生きていたことがわかる。

 したがって、次の選挙でリベラル層が巻き返すためには、市民と野党の共闘を相互信頼にもとづいたもう少ししっかりしたものへと成熟させることと、若者の政治的関心を高め支持を得ることを直接の目的とした活動を多面的多様に展開することが、しっかりした招来展望を示すことに加えて、必須となろう。

 前者についていえば、立憲民主党は選挙運動を連合だけに頼らなくてもすむように自前の足腰を強くするよう心がける、共産党は過去の誤った路線の反省をきちんと表明しより柔軟になった現在の立場を理解してもらうためにさらに努力する、市民連合は野党間の信頼促進と協働のための機会をもっと提供する、などが考えられる。

 後者に関しては、情報やメッセージの伝え方をもっと工夫する必要がある。従来の左翼や知識人は自分たちが識っている真実を主張していれば、いずれ大衆にも理解され支持されるという啓蒙主義幻想にとらわれがちである。しかし情報が氾濫し欲望や価値観が多様化している現代では、特に若者には、もはや正しいことを言ってるだけでは通用しない。何よりもまず必要なのは、目を引き耳をそばだてさせるいきなりのインパクトであろう。活字の季刊誌『現代の理論』でさえ、表紙には毎号それなりに工夫されたコピーが大きな活字で載っている。秋号は「気候危機―私たちはタイタニック号の船長になるのか」である。ちなみに私自身が考えたコピーは「親ガチャで諦めなくてすむ社会を!」「上級国民の既得権に切り込める政治を!」だった。

 しばらくは冬の時代が続くかもしれないが、ここは広津和郎の散文精神に倣って「みだりに悲観もせず、楽観もせず」で行き通していくしかないようだ。

(運営委員 牧梶郎)