投稿日: 2020/12/08 7:30:38
注目の米大統領選挙は民主党のジョー・バイデン候補(元副大統領)とカマラ・ハリス副大統領候補のコンビが当選を確定した。選挙前、トランプ大統領は郵便投票を「詐偽投票」と批判、「われわれは最高裁まで行く」と徹底抗戦の構えを見せ、米メディアなどは当選確定が大幅に遅れると予測していたが、蓋を開けると、開票4日後にはバイデン候補の当確を伝え、選挙戦は幕を閉じた。トランプ大統領は敗北を認めず、裁判で争う姿勢を示しているが、州裁判所の裁定では却下、展望があるわけではない。
今回の大統領選はトランプ大統領への信任投票の性格が強く、最大の焦点は新型コロナ感染症を巡る対応への評価だった。ロイター/イプソスの直前調査によると、「有権者の50%はバイデン氏の方がパンデミックをうまく乗り切れる」と回答。トランプ氏に軍配を上げたのは37%だった。ペンシルベニア、オハイオ、ミシガン、ウィスコンシンという激戦州でも、新型コロナ問題の指揮を執るのはバイデン氏がふさわしいとの見方が示された」という。
こうした見方を裏付けるように、民主党バイデン候補がミシガン、ウィスコンシン州に加え、ペンシルベニア、ジョージア、アリゾナ州を僅差で押さえ、過半数を超える306人の選挙人を獲得した。注目されるのはこれら5州はいずれも前回大統領選でトランプ大統領が勝利した州だが、今回は反対の結果となった。バイデン候補が反トランプの民意を掘り起こしたことは明らかだ。
もう一つの特徴は、「今回の選挙は数々の新記録を打ち立てている」(米FOXニュース)ことだろう。期日前投票が過去最高の1億人を超え、投票率も過去120年間で最高の約67%と推計され、1億6000万人近くが大統領選に参加したことになる。投票率の高さを反映してバイデン候補の得票数は7800万票を超え、前回のクリントン候補の得票を1300万票近く上回る大統領選史上最多。トランプ大統領も7200万票超を得票しており、民主主義の危機が叫ばれる中で史上最多の投票行動は示したことはアメリカ民主主義が崩壊手前で踏みとどまったとの印象を受ける。
それにしてもトランプ大統領の大量得票を見ると、米国社会の分断状況の深刻さが伝わってくる。民主、共和両党の党派対立の厳しさに加え、人種差別、移民差別、銃器保有、マイノリティーへの抑圧、貧困層と富裕層の分断、エリートと非エリートの対立など社会各層に横たわる分断の傷は深い。バイデン候補は勝利宣言で、「分断ではなく、結束をめざす大統領になる」との意向を強調したが、同時に実施された米上下両院選での共和党の善戦を見ると、結束への道は遠い。
壊れかけたアメリカ民主主義の回復も難題だ。大統領選結果が連邦最高裁まで持ち込まれる背景は各州ごと割り振られた「選挙人制度」にある。一人一票の直接投票で上回った候補者が負けることなど想定し難いが、今世紀でも過半数を得ずに当選した大統領はW・ブッシュ氏とトランプ氏の2人もいる。「選挙人制度」はアメリカ合衆国憲法制定のときに導入されたもので、当時は交通、通信が未発達で全土で同時に直接選挙を行うことは物理的に難しかったと説明されるが、IT時代に通じる話ではない。いかなる民主主義も完璧ではないが、投票の平等は確固とした国際的な民主的ルールではないのか。(運営委員 平田芳年)