投稿日: 2020/09/23 8:14:28
持病の潰瘍性大腸炎の再発を理由に、7年8カ月を超えて政権の座にあった安部首相が辞任を表明した。辞意を表明した記者会見は本来、新型コロナウイルス感染症に対する新たな政策パッケージを示すために用意されたのだが、1週間程前から首相の病院通いで憶測がとびかい、前日には「首相が辞意」の速報も流れていた。
安倍政権の7年8カ月は、9条改憲や靖国公式参拝に固執し、特定秘密保護法や集団的自衛権を容認する新安保法制を強引に成立させるなど、戦後日本の安保政策の転換と変質とを促進した「右翼政権」として記憶されるだろうことは疑いない。
しかし安倍政権の負の遺産として私たちが強く認識しておくべきなのは、この政権が、民主主義や民意といった近代代議制の基盤を、それがたとえ建前に過ぎないとしても、まったく軽んじあるいは無視し、多数派の傲慢さも顧みることなく、もって利己主義と自己保身による権力への迎合や強者にへつらう忖度とを政治機構内に蔓延させ、それを「政治の常識」にしてしまったことであろう。
実は、安倍政権は発足から3年目の2015年9月までに、前述した「安保政策の転換」をほぼ達成し、長期政権後半の4年半のうち自民党総裁任期を3期9年間に延長した2016年を除く3年余りは、森友学園疑惑(2017年2月)に始まり昨年11月に発覚した「桜を見る会」まで、「お友だち」に対する利益や便宜供与疑惑の発覚と追及報道の連続であった。そのたびに安倍首相は、「丁寧に説明する」と言うだけで数々の疑惑に口をつぐみ、実効的な調査や検証のすべてを拒絶し、与党の多数決に依って疑惑解明に抵抗した。
「こんな人たちに負けるわけにはいかない!」。2017年の東京都議選の街頭演説で、首相退陣を求めた聴衆に向って浴びせた、安倍の罵声である。総裁任期を延長し改憲をめざす長期政権が見え始めた直後に暴露された森友学園疑惑への苛立ちが、最高権力者らしからぬ暴言になったのだろうが、人々を敵と味方に分断し、批判には耳を塞いで対立を煽る安部の政治スタイルが、端無くも暴かれた瞬間でもあった。
だがまさにその結果が、財務省の公文書改ざんや桜を見る会の招待者名簿廃棄処分であり、前例のない定年延長で子飼いの検事を疑惑追及の盾にしようと謀った、強引な検察庁法改定だったのだ。しかし、すべては行き詰った。
北朝鮮の弾道ミサイル防衛について、あれほど声高に「危機管理」を喧伝した安部が、新型コロナウイルス感染に対する「危機管理」では、その無能と不作為とを次々と露呈することになった。さらに、「最大の外交的成果」と自賛するトランプ政権との良好な関係構築に功績があったとされる河井前法相夫妻が、今どき信じられないほどベタな大規模買収事件で摘発されるに及んで、持病に悪影響をおよぼすプレッシャーとストレスが最高潮に達したであろうことは、想像に難くない。
河井夫妻の買収事件で「責任を痛感している」と述べた安倍だが、「責任は感じるもので、取るものではない」という居直りにさえ聞こえたのだ。(運営委員・佐々木希一)