投稿日: 2020/07/21 8:27:27
6月18日、湯﨑英彦・広島県知事、小林慶一郎、冨山和彦がオンラインで会見し、「積極的感染防止戦略による経済社会活動の正常化に向けた緊急提言」を発表した。湯﨑知事ら知事有志は5月、大規模なPCR検査実施などを求める提言を政府に提出した。今回の提言はこれに続くものとして報道されている。この提言の趣旨は小林が『文藝春秋 』(2020年7月号)で提案しており、小林提言として話題になっている。
ネットで見ると小林はボロクソに批判されている。小林は強固な財政危機論者であり、赤字財政や大きな政府論を批判し、新自由主義論者として著名であった。国家の大規模な財政投入によるコロナ危機回避策は宗旨替えであり、そうした変節者による提言は信用できないという批判である。小林の過去の主張はともかく、現時点で、この提言を見ると、大規模なPCR検査を実施し、それに対応した医療体制を十分に補強するよう、必要な財政投入と社会的資源の動員によって、コロナ危機を打開し、人々と社会に安心感を生み出すことが、現時点の政治の責任であるという提言である。しかし、日本ではここに政治の焦点が定まらない。144名の賛同者を伴った提言はここに切り込んでいる。安倍政権と厚労省の感染症基本方針の破綻をふまえ、新コロナ政策転換するための論議の契機になることを期待したいと思う。
提言の具体策としての検討はここではしない。論点として2点だけ指摘しておきたい。
第一は、この提言の背後にある「考え方の革命」である。
小林は「一日500万件の大量のPCR検査を」呼びかけるハーバード大学の提言内容を紹介しながら、注目すべきは、彼らの発想であると指摘する。PCR検査の精度は低いものであっても、大量に繰り返し検査することで、感染者を検知して隔離できれば、職場や学校の感染リスクは相当程度、軽減できる。だから、不正確であっても構わないからとにかく社会全体の人材と資源を動員して検査数を増やそう、というのが彼らの単純素朴な発想である。「検査と隔離」政策に関する基本哲学(または戦略目標)を転換するべきだ、というメッセージであり、そのメッセージをどう受け取るかが大切である。それは「検査と隔離」の目的を、「医療のため」ということから「社会の不安を取り除くため」に転換すべきだ、というメッセージである。小林の指摘は非常に重要であると思う。この問題は阿部とも子議員が「大規模検査を促す公衆衛生の原点復活を」(『現代の理論』2020夏号)で主張している「パブリック・ヘルス」の現代的な再生と重なる。私たち自身の公衆衛生観の転換を迫っている。ポストコロナ社会像を構想するうえで「この国のかたち」を検討する際に欠かすことのできない点である。
第二は、小林は別の論考で新たな提言をしている。その骨子は、①コロナで影響を受けた個人の生活再建と事業転換を支援するための「ベーシックインカム」の導入、②コロナ対策で悪化した財政立て直しのため、国際社会協調による金融取引の収益に課税するトービン税の導入。
政府の新型コロナ対策の組織である「基本的対処方針等諮問委員会」は5月に経済の専門家4人を加えた。小林はその1人であることで、提言が注目される状況になっている。時代が大きく変わる様相になっていることだけは間違いない。(運営委員 山田勝)