投稿日: 2020/06/16 7:55:56
賭けマージャン報道で黒川弘務東京高検検事長が辞職に追い込まれたあと、世間の目は広島地検の捜査に注がれている。同地検では昨夏の参院選で広島選挙区から初当選した河井案里自民党参院議員の公職選挙法違反(買収)事件が終盤を迎え、あわせて夫の克行前法相(衆院広島3区)の立件も視野に、事務所家宅捜索や任意の事情聴取を実施、自民党衆参現職議員の現金買収事件捜査が大詰めを迎えているからだ。
捜査のきっかけは案里議員の公選法違反疑惑。昨年10月、『週刊文春』が車上運動員(ウグイス嬢)13人に公選法の法定上限を超える報酬を支払った疑惑を報道、今年3月、広島地検は案里議員の公設第2秘書と克行議員の政策秘書を逮捕、同法違反(運動員買収)で起訴した。
昨夏の参院選広島選挙区(改選数2)は異例の展開だった。自民党現職の溝手顕正元防災担当相の当選が順当と見られていたが、2議席独占を狙った自民党本部が党県連の反発を押し切って安倍政権で側近の首相補佐官を務めた克行議員の妻案里氏を擁立。苦戦が予想された案里陣営に党本部は溝手陣営の10倍に上る計1億5000万円の選挙資金を提供。結果は案里候補が2位で初当選、溝手候補は約2万5000票差で落選。
その後の捜査で、立候補が決まった昨年3月以降、広島県議、同市議、首長、後援会・陣営幹部の計14人に、現金10万~数十万円を持参していたことが判明。案里氏が持ってきたケースもあったが、大半は克行議員だったという。地検の事情聴取に応じた県議など14人は現金授受の事実を認めており、被買収者は100人近くに上り、買収額は計2000万円を超えるという。金権選挙の代表例とされる現金買収の典型例だ。
すでに車上運動員への法定上限を超える報酬支払い事件は第3回公判を終わっており、広島地検は秘書が連座制の適用対象となる「組織的選挙運動管理者等」に当たるとして、「百日裁判」を広島地裁に申し立てている。連座制の対象となれば案里議員は当選無効で失職する。これとは別に河井夫妻の大規模な買収疑惑が表面化したことで、衆参現職議員の逮捕・起訴が現実のものになり始めている。
問題はこの2人の議員の買収行為に止まらず、県連の反対を押し切って側近議員の妻を擁立、巨額の選挙資金を注ぎ込み、買収事件に発展させた安倍政権の政治責任だ。中国新聞のインタビューに応じた石破茂元幹事長は「(1億5000万円の提供について)幹事長の一存では決められないはず。もっと上」と推測。「なぜ案里氏の応援に秘書が山口県から入ったのか。首相の許可なしで秘書がやるのか」と問いかける。
安倍政権周辺の金権疑惑はこの1年間だけでも秘書が有権者に香典を渡した前経産相・菅原一秀衆院議員、外国人在留資格を巡る口利き疑惑の上野宏史衆院議員、カジノを含むIR施設に絡む汚職事件で起訴された秋元司衆院議員、ホテルに146回泊まって約118万円を公費から支出させた山本朋広防衛副大臣と枚挙にいとまがない。安倍政権はその都度疑惑を隠して頬被りしてきたが、今回こそとどめの一撃とすべきだ。(運営委員 平田芳年)