投稿日: 2020/02/20 9:44:23
ここ2、3年、マラソンや駅伝をテレビなどで見ていると違和感があった。子どもの頃(小学生高学年から中学生)に長い距離を走るのが好きで、友達同士でも速かった(実は、その結果なのか病気を発症・発見し、以後体育授業は見学に)。半世紀以上前の話しだが、それでもマラソンや駅伝などには今でも興味は続いている。それが、最近違和感をもつのは、何だか選手が走っているというより跳ねているように見えたこと。そして「やっぱり、そうなんだぁ」。
スポーツ用品大手のナイキが厚底靴「ヴェイバーフライ(VF)」を2017年に発表した。それまで陸上ロードレースでトップ選手が使う靴は軽さを追求した、底が薄いものが主役だった。このVFは曲線的な炭素繊維のプレートを挟み込んだ厚底で、クッション性と反発力が売り物で、しかも軽い。初めて試走をした市民ランナーが「フワフワした履き心地、前にぐんぐん進むサポートがすごい」と言っていた。ただ、量産が難しく1足3万円超、一般の人は手を出しにくい。
2年前に男子マラソンの日本最高記録が16年ぶりに更新され、世界最高記録も男女とも次ぎ次ぎ更新された。そのときは「すごいなぁ」だけが印象だったが、今年の箱根駅伝の往路で区間新記録が続出し、翌日「VF」の存在が報道された。箱根駅伝で参加選手210人中177人、上位3大学は全員着用していた。そして10区間のうち7区間で区間新。当然、総合記録も大幅更新。驚きだった。東京五輪代表に決まっている選手の監督は「下手すると1㌔で5秒は変わってくる」と話しており、この記録もうなずける。
東京五輪では「VF」着用はOKになったが、「用具の力を借りて記録をのばすのがマラソンか」「人間の力以外のものが及ぶことはマラソンを冒涜している」という声が上がるのも当然だろう。ドーピングと同じだという声も。1960年ローマ五輪でアッピア街道の石畳を裸足で走り抜き、金メダルを取ったアベベ・ビキラを思い出す。
マラソンではもう一つ違和感を感じるものがある。ペースメーカーだ。ペースメーカーは主催者があらかじめ決めた一定のペースでレースをリードし、決められた距離でレースを外れ、後ろを走るランナーの風よけの役割も担っている。海外のレースでは1980年代から取り入れられた。序盤でライバル選手を意識しすぎてペースを乱すことがなくなり好記録が期待でき、賞金レースも増えた。日本で導入されたのは2003年の福岡国際マラソンが最初だとされているが、それ以前から導入されていた可能性もある。なおペースメーカーを抜くこともOKだし、ペースメーカーが最後まで走り抜き優勝してもOKだが近年はない。
子どもの頃長距離をやっていた(といっても、せいぜい3、4㌔だが)ものとしては厚底シューズも、ペースメーカーもマラソンをつまらなくしていると思う。五輪ではペースメーカーがいない。序盤からの駆け引きや戦略が要求され見応えがでてくる。北京五輪では優勝候補で結果2位となった選手が、先頭グループに追いつきそのまま先頭を走り抜いたが、その前に一人引き離して走っていた選手の存在に気づかなかった、という。そのときは「傑作だ」と思った。これもレースだ。記録重視でない、筋書きのないドラマがそこにはある。(運営委員 寺嶋紘)